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詩集 水曜のシジュウカラ

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Blogで時々公開してきたカジュアルな詩作をまとめています。
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記事一覧

そんな大仰なものではない

そんな大仰なものではない

そんな大仰なものではない。
少しばかりキナ臭い話がネットワークを通り過ぎ、
他人事のような災害の隅っこに立つ自分に時々気付いてしまうだけなのだ。
楽天的に過ごすには肩に重く、
人生を悲観するほどには生きるに困らない、
渇いた時間が流れていく。
それが何千年も続く今という時間である。
乗り合わせたその時代はどこへ向かうのか?
夏の終わりの写真を眺めながら、
それでも何も変わらない回転木馬のような時間

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春休みってこんなだったかな

春休みってこんなだったかな

春休みってこんなだったかな。
10代の子供達がけらけら笑いながら自転車で通り過ぎ、
昔ながらの電気店の店頭に置かれたTVでは、
ストライプの派手なジャケットを着たアナウンサーが、
場所が正確には思い出せないどこかの桜が満開になったと説明している。
滑っとした曇り空の夕暮れに、
コートを抱えたサラリーマンが、
スマートフォンにひきずられるように通り過ぎ、
その横の公園では、
もう暗くなって来たという

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今日を動かすもの

今日を動かすもの

誰もがもう終わりだと言い出せないまま降り続く雨と
誰かが決心しないまますれ違い続けるいつもの朝とが
誰もが思い出そうとしない街の時計を動かし続ける

束の間の晴れ間に昨日まであった日陰を探す自分と
青くなった膝に張り付く湿った昨日を思い出す僕とが
前を歩く誰でもない誰かを追う私を動かし続ける

あなたが次に向かおうと歩き出した水溜りの歩道と
あなたが気にも留めない青色の驟雨を足急ぐ赤い傘とが
あな

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すれ違う朝

すれ違う朝

ゆっくりと漂うコーヒーの微かに甘い香りを今日ときっぱりと切り分ける冷え切った歩道を、今日に無関心な爪先を靄のかかったような曖昧な黒革で締め付ける紐靴で急ぐ朝。踏み降ろす爪先の1ミリ下で、整然と敷き詰められた灰色の四角いコンクリートブロックの隙間が不安に震え、昨日の埃っぽい倉庫で単調に動き続けた右腕に後生大事に抱える赤茶色のバッグを持ち直す。

すれ違う空色のジョガーパンツを身につけたポニーテールの

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Daily Life+

Daily Life+

なんでもない朝と特別でない夕暮れの隙間に日常を過ごし、
特別な朝となにかがあった夕暮れの隙間に追憶が紛れ込む。
春の始まりに降り忘れた驟雨をアルミ色の鳩が寄せ続けるように、
渇いた喉の奥に引っかかった昨日を熱いコーヒーで洗い流す。
雨雲が遠く見える地平線と28時間続く午後との境目は朧げで、
昨日までの異国がスーパーの買い物カゴの隙間に転げ落ちる。
そろそろ明日は来そうかと塗装の剥げ落ちた窓に反射す

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暖かくなるという事

暖かくなるという事

ただ閉じこもる言い訳、
黙して小雪の舞う季節。
散歩に出かける理由、
輝く日々に続くドア。
誰かを待つベンチ。

An excuse to just stay in,
A season to fall in silent flakes.
A reason to be off to stroll,
A place to open off brilliant days.
A vacant bench

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雨降りの昼下がり

雨降りの昼下がり

いつから雨が嫌いになったのだろう。
きっと嫌いになったわけじゃない。
ちょっと面倒になっただけなんだ。
だって、濡れた革靴を拭かなきゃいけないし、
自転車だとレインコート着なきゃいけないし、
待ち合わせに遅れるって電話したくないから。
雨が嫌いになったはずはない。
だって、雨の日のブーツだって持ってるし、
昨日だって傘を丁寧にしまったし、
黒い雲を見て目を背けたりもしなかった。
赤茶色の枯葉を踏み

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水曜のシジュウカラ

水曜のシジュウカラ

シジュウカラの甲高い声と
微かに白く透明な冷たさを含んだ空気に
強くなる光の痛みを忘れ
既に陽が射しはじめた階段の踊り場の朝を
足音を気にしながらゆっくと下る水曜。

やがて広がる初夏の緑が放つ控えめな匂いは
何処かを通り過ぎるエンジン音に混じりあい
静謐さに抗う鮮烈な赤へと入れ替わる。

いつまでも繰り返す今日と
いつまでも失われたような明日とが
歩き出す右足と左足を追い立て、
非日常の昨日もま

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生きると言うこと

生きると言うこと

日常のように淡々と時が過ぎ
日常のように終わりが曖昧なまま
過去が作られる
そうやって
心のどこかに小さなトゲが残される
容赦ない自然の惨禍も
玄関先の蔓薔薇も
同じように傷痕を残しはするが
突きささったトゲは
いつまでも
小さな痛みを与え続け
誰ひとりその終わりに気づかない
日常のみが
ただ終わりを告げる
それが日々を過ごすということ

自分には嘘をつかないこと
だけどちょっぴり嘘をつくこと

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他人の手

他人の手

少しこそばったい風を感じに海辺の城塞の街を散歩しに行くことはおろか、
窓を開け放つこともあまりなくなった晩秋の午後、
時間に追われるようにキーボードを叩いている自分よりもずっと速く、
干からびた時がその瞬間を追い越していくような気がして、
冷たさを感じ始めた指先を眺める。
昨日と同じ何ひとつ変わらないくたびれた手が忙しない動きを止める。
他人の手。
自分の指。
確かめる必要のない指先にキーボードの

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探し物

探し物

「sincere」の意味を、もしご存知でしたら教えていただけませんか?
さぁ、最近はとんと聞いたことがありませんね。何かお探しですか?

Could you please tell me the meaning of '誠実さ' if you know about it.
I have hardly ever heard recently. Looking for something?