見出し画像

【#13】材料力学の強化書 〜塑性変形の概要(1)〜

今回のトップ画像は前回と同じくベルギーのブリュッセルにある、EU本部の建物と旗です。たしか数年前にイギリスがEUから離脱して、大きなニュースになりましたね。

EU本部がブリュッセルにある理由は、主要となるゲルマン民族とラテン民族の共通の接点となる場所のひとつがブリュッセルだからだそうです。

さて、材料力学の話に戻りましょう。

前回は物体(材料)の基本的な力学特性を表す手段として、応力ーひずみ線図について説明しました。

今回は弾性変形の領域から一歩出まして、塑性変形について話を進めたいと思います。材料力学では基本的に弾性領域を前提として変形を扱いますが、ここでは塑性変形とは何かについて、概要レベルで触れていきたいと思います。

材料力学_#00_00_line

降伏条件について

前回も示しましたが、塑性領域とは応力ーひずみ線図において線形(応力とひずみが比例関係にある状態:フックの法則)が成立しなくなる範囲を指します。弾性領域から塑性領域に転移することを「降伏」と言います。

そして、弾性領域と塑性領域の境目になるのが、軟鋼で言うところの「上降伏点」であり、その他の金属で言うところの「耐力」です。ここではいずれの場合も「降伏点」もしくは「降伏応力」と定義して話を進めます。

材料力学_#12_02

物体(材料)が降伏する条件について、3軸(3次元の応力状態)による変形から考えてみます(これまでは2次元までの状態を扱いましたが、一般的には3次元の応力状態を考えます)。

スクリーンショット 2022-02-09 21.27.21

このとき、降伏条件はいくつか存在しますが、一般的な金属材料に対して有名どころである「トレスカの降伏条件」「ミーゼスの降伏条件」について説明することにします。

材料力学_#00_00_line

トレスカの降伏条件

最大せん断応力が一定値に達すると降伏するという条件を「トレスカの降伏条件」と言います(最大せん断応力説とも呼ばれます)。

単軸引張における降伏応力(Y)を定義するとき、

$${Y={\sigma}_{max}-{\sigma}_{min}=2K}$$

として表されます。上記で使われている応力値は、それぞれ最大主応力と最小主応力になります。Kはせん断降伏応力です。主応力とは座標軸を回転変換することで擬似的にせん断成分がゼロとなる時の垂直応力です。より詳細に言うと応力状態を行列表現した時の固有値に相当しますが、計算が高度なので別途説明することにしたいと思います。

材料力学_#00_00_line

ミーゼスの降伏条件

せん断ひずみエネルギーがある値に達すると降伏するという条件を「ミーゼスの降伏条件」と言います(せん断ひずみエネルギー説とも呼ばれます)。

先程と同様に、3次元の主応力が求められた場合においてミーゼスの降伏条件を示します。

$${Y=\sqrt{\frac{1}{2}(({\sigma}_{1}-{\sigma}_{2})^2+({\sigma}_{2}-{\sigma}_{3})^2+({\sigma}_{3}-{\sigma}_{1})^2)}}$$

特に、上記で表される応力を相当応力と呼びます。一般的な3次元状態では相当応力を計算して降伏条件と比べることで、降伏を判断します。

なお、単軸引張では「σ1=σ、σ2=σ3=0」なので、相当応力は単軸の応力(σ)に帰着します。

材料力学_#00_00_line

加工硬化則

物体(材料)が初めて降伏するときの条件を初期降伏条件と言います。一般的に塑性変形の進行に伴い、変形抵抗が増加する加工硬化(ひずみ硬化とも呼ばれる)という現象が発生します。

つまり、初期降伏条件をクリアした後に改めて物体(材料)が降伏する場合は、ある一定の法則に基づいて降伏条件が変化します。この現象を表現したモデルに「降伏曲面」というものがあります。

下記のように、主応力(状態)を表す点が降伏曲面に差し掛かると物体(材料)は降伏します。

スクリーンショット 2022-02-08 0.19.23

塑性変形に伴う降伏曲面の変化については、いくつか法則がありますが、代表的なものは後続の降伏曲面が等方的に拡大する「等方硬化則」や、降伏曲面の形状や大きさが変化せずに降伏曲面の中心が並進移動する「移動硬化則」があります。

スクリーンショット 2022-02-08 0.29.25

この関係性を数式的に理解するのは、現状では難しいと思います。まずは初期降伏後の塑性領域では、加工硬化により塑性変形の進行が妨げられると理解して頂ければ良いです。

画像8

おわりに

今回は弾性領域の話から飛び出して、塑性領域の変形について話をしました。

この辺は様々な塑性変形を再現するモデルが提案されていて、数式としても複雑なものが多いので、まずは塑性変形のイメージを掴んで頂けたらと思います。

次回はこの塑性変形という現象を原子レベルで見た時の様子について、話を進めていきたいと思います(塑性変形がどのようにして始まり、どのように進んでいくのかについて書きます)。

-------------------------

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。

-------------------------

⭐︎⭐︎⭐︎ 谷口シンのプロフィール ⭐︎⭐︎⭐︎

⭐︎⭐︎⭐︎ ブログのロードマップ ⭐︎⭐︎⭐︎


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集