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利益拡大の構造を疑う(ザ ・プロフィット)

こちらは、友人との読書会で読んだ名著や流行書を人に勧める形で紹介してみる記事です。

今回ご紹介する本

エイドリアン・スライウォツキー『ザ ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか』です。著者は他にも『プロフィット・ゾーン経営戦略』などを書かれています。

一年ほど前、会計士を目指していた読書会メンバーが、

「利益を得るってどういうことか単純に気にならん?」

といって選ばれた本がこちらでした。久々にしっかりと読みましたが、ビジネスのかなり本質的なところを突く書籍としてオススメです。

帯にも あなたは「利益」発生の秘密を知らない! との売り文句が書かれています。

一言でいうと何?

本書『ザ ・プロフィット』は、業界業種よらず利益を生み出すメカニズムを分析するビジネス書です。

本書は読者(あなた)が主人公となってビジネスの賢人とともに成長していく、ストーリー仕立ての構成になります。

全容はどんなもの?

戦略企画部で働くスティーブ(あなた)とビジネスを知り尽くした賢人チャオが、23回の講座を通して、毎回1つずつの利益モデルについて議論します。

とはいえ、この本の趣旨は利益モデルの紹介ではありません。経営戦略に携わり5年目に突入したスティーブが、実務経験・市場現象に立脚した理論を体得しようとします。その過程で素朴な疑問を投げかけたり、チャオからの問いに悩む描写がいくつもあります。時にはチャオが学ぶ場面もあります。

それらを通じて、利益モデルそのものよりも、どのようにしてそれが成り立っているのか、何がそれを成り立たせているのかを学ぶ内容となっています。

他の本と何が違う?

ストーリー形式でビジネスノウハウを学ぶ書籍といえば、『100円のコーラを1000円で売る方法』『ドリルを売るには穴を売れ』などがありますね。どちらもマーケティング入門書としては非常に有名で、私もクスッと笑えるストーリーがお気に入りです。

それらの書籍がビジネス初学者向きであるのに対し、本書『ザ・プロフィット』はある程度ビジネス知識のある人向きだと思います。

ビジネス書には珍しく、ノウハウを叩きこむというより、ビジネスモデルの構造を観察する・疑うという姿勢を養う点において、本書は非常に価値があります。ただし、登場人物たちのスピード感あるやりとりはビジネスにまつわる計算が即座にできる人、あるいは強い現場感を持っている人でないと付いていくのが容易ではないかもしれません。事実、私も2回読んで全てを理解できているとはとても言えません。

キモは何?

読者が主人公と共に成長することができる点です。文章中には以下のように記述されています。

新しい利益モデルを学ぶことで、発想を広げ、ビジネスの原則を把握し、他の優れた人の思考様式の一部を吸収できる。

一般的なビジネス書は、読んでいるだけの受動学習になってしまいがちだと私は感じています。いくら興味を持って書店で手に取ったとしても活用の場がなければ身につく知識とは言い難く、読んだ気になりやすいと思います。例外として、実務作業の上で必要を感じ、手を伸ばした書籍であれば能動的に学習・活用できると思います。

本書では、手を動かすことを強く推奨されます。読み進めながら利益モデルのグラフやロジックツリーを書き出すことで、擬似的にアクティブ・ラーニング(能動的学習)が行えるのです。実際チャオは、生徒スティーブ(あなた)に「書いてみなさい」と何度も言います。

また、23回の講義には毎回「宿題」が課されます。指定された参考図書を読むことと学習した利益モデルの実例やその問題点を挙げることです。

これらの工夫をすべて実践してみると、読み終えた頃には思考の習慣と「とりあえず書いてみる」という行動力が自然と身につきます。

議論:プロフィット追求とその先

本書には「考えてみればそうだな」と納得してしまう身近な利益モデルがいくつも登場します。しかし、日常では背後にあるモデルに私たちは盲目的となっていることが多々あります。

なぜ、コーヒーを¥220(M)で提供するveloce(カフェ・べローチェ)が、コーヒー¥330(Tall)のスターバックスよりも客足が少ないのか。なぜ、収益率数%の航空業界で格安航空(LCC: Low Cost Carrier)が実現できたのか。

利益モデルの存在を疑わない限り、その秘密に気づくことは出来なさそうです。

目標を達成できないプロジェクトがあるのは仕方がない。そうではなく、明確な目標がない研究開発、誰も欲しがらない製品を一生懸命作るような誤った目標を持つ研究開発、あるいは最初から開発投資の一部しか回収できないとわかっている研究開発などがアンチ・プロフィットなんだ。

共通するのは、アンチ・プロフィット(損失)を避けることです。残念ながら、必ず利益が獲得できる方法や方程式はありません。しかし、どうやったら損失を避けることができるのかはある程度推測できるかと思います。コスト削減や強力なバリューチェーン、(材料メーカーに対する)強い購買力などがそれに当たります。

ポーターの有名な競争戦略(コスト・リーダーシップ戦略、ニッチ戦略、差別化戦略)も同様の原則を元にしていると言えます。

本書『ザ・プロフィット 』は、これらの原則に基づき、変動する市場で利益を追求し続けるための23の実例を紹介しつつ、私たちに24個目、25個目の新たな利益モデル発見の機会を提供してくれます。ビジネスを知識で終わらせたくない方やコンサルタント業務に関わっている人は、ぜひ書店でお手にとってみてください。

おわりに

本書を読み進める上で次のようなフレーズがありました。

「何か新しい能力を完璧にマスターしようとするとき、たとえば投資でもいいんですが、一番大切なものは何だと思われますか?」「とてつもない粘り強さだよ

熱意でも努力でもなく、粘り強さなんですね。邦訳された表現なので、元の表現は"toughness(タフネス)"とかでしょうか。これはおそらく、失敗して学ぶことを前提としていそうです。私もビジネスを学ぶ上で失敗ができるような、恥がかけるような環境に足を運びたいと思います。

最後に、本記事は23の利益モデルを紹介しませんでした。実際にご自身で読んで確認していただくのが一番良いと思います。

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