Look at it, it jiggles!
母の実家は群馬県の沼田市というところにある。
8人兄弟の一番下の妹なので随分と甘やかされて育った母だが、手先が器用で、一番母親の手伝いをしたと本人は言う。
小さい頃その母の実家に冬に出かけると、必ず出されたのが干し柿。思い出深い食べ物だ。農家だったので、干し芋、米、野菜もほぼ全て自家製だった。うどんでさえ手打ち。その本家のとなりのとなりのお隣さんが天婦羅やさんだったので、歩いて一番人気のハムかつを買いに行かされ、みんなでお昼を一緒に食べたものだった。
干し柿は本当においしかった。田舎臭い食べ物だけど、ほんのり上品で甘く、まるで超巨大なレーズンみたいだと思った。柿をただ吊るすだけでできる保存食とばかり思っていたし、「体にいいのよ」って皆に言われたから食べてた。でも本当は作る工程で結構気をつけることがある。カラスとかにも狙われる。彼らも美味しいものを良く知っているんだ。
人は失くしてからじゃないと、その有り難みはわからない。この歳になり海外生活も長いから、余計に干し柿が恋しくなる。どんなに良いものを自分が口にしていたか、最近殊に身に沁みる。
いつもお料理を出してくれたおばちゃんは、長男(母の一番上のお兄ちゃん)のお嫁さんだった。そのおばちゃんは頭が良くて器量も良く、優しかった。母のお兄ちゃんはちょっとひねくれ者だが、遊びに行く度におこづかいをくれた。その時に限っていつも「ハイ、500万円!」と言っては500円玉を私の手のひらに乗せてくれた。彼が少したって認知症になり、亡くなった後、おばちゃんも少しおかしくなった。認知症がひどくて今施設に入っている。干し柿を作る人はもういないし、うどんを手作りしてくれる人もいない。おとなりのおとなりのお隣の天婦羅やはとっくに潰れ、リノベした家に若い夫婦が住んでいる。あんなにペラっペラの、でも衣がパリパリしたハムかつはもうどこにもない。逸品だった。
私にとって柿は特別なものだ。目にすると何だかセンチメンタルになってしまう。故郷の群馬や田舎の人たち、親戚を思い出す。ドイツには柿が売られているが、干し柿はない。自分で作ろうと思ったが「そんなことしないでフレッシュななま食べればいいじゃない」と家族に言われ、何度も作り損ねた。
新しいものがいつも全て、良いわけじゃないのにね?
先月スーパーで買った柿1パックには6つ柿が入っていたが、そのうちの2つが渋柿だった。捨てられず、ジャムのグラスで「ミニ柿酢」を作ることにした。
昔おばちゃんの台所で見た、大きな瓶に入った柿酢。見た目がグロくて口にしたことはなかったが、今なら試してみたいんだ。今一番習いたいのは、先人の知恵、おばちゃんの知恵。いろいろと彼女から学びたかったなあ!!
ジャムの瓶を揺らせば、中でブルブルと音を立て頑張って発酵している渋柿。酸っぱい香りがたまらない。なぜか全てが愛おしいのである。
君を見るために私は、毎日朝早起きしているんだからね。