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私は何度も、その言葉に恋をする

中学生の頃、とあるドラマでコピーライターという職業を知った。私たちが普段何気なく目にしている商品をキャッチーに、より素敵に着飾る言葉たち。ドラマとはいえ、たった十数文字に全身全霊をかけて挑むその姿は、中学生の私にはとてもキラキラと輝いたものに思えた。

短い言葉の中に、魅力を引き出す言葉を詰め込むというのは意外と難しい。noteで文章を書くようになって、タイトルをつけるときに毎回思う。

私が書いた文章がより際立つタイトルはなんだろう。普通じゃ面白くない。色んな人に読みたいと思わせるものにしたい。

毎回そんな感情を抱くものの、結局なんとなくのタイトルで妥協してしまう私。あの頃憧れの眼差しで見ていたコピーライターという仕事は、私の想像以上に大変な仕事に違いない。もちろん、私の想像以上のやりがいもあるに違いない。

それから何年も経ってから、私はとある広告に心を奪われた。

カラフルな写真。そして、そこに刻まれた言葉。

試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。

それは、ルミネの広告だった。もちろん、東京育ちでない私は直接その広告を見たわけではない。しかし、ネットの中で見たその広告に私は一瞬で心を奪われた。

写真を手掛けたのは蜷川実花さん。そして、キャッチコピーを手掛けたのは、尾形真理子さんというコピーライターだった。

誰が手掛けた作品なのかを知ったのは、広告に出会ったずっとずっと後になってから。私が蜷川実花さんの写真にハマったあとのことだった。

あのときの衝撃といったら、ハンカチを拾ってくれたイケメンとばったり再会したときぐらい凄かった。とはいえ、私生活でイケメンにハンカチを拾ってもらった経験はないのだけど、とにかくそのくらい、どこか運命を感じた瞬間だった。

それから時が流れた2022年。私はどこかで見覚えのあるフレーズのタイトルの本を前に思わず足が止まった。

なんと、初版本の発行は2010年。発売当時、きっとかなり話題になったはずなのに、アンテナを張っていないものというのは、するりと情報が抜け落ちてしまうようだ。というよりも、もはや私があの広告と出会った頃にはこの本は発売されていたということになる。

無知というのはつくづく怖い。

そういうわけで私は、思わぬ形で恋に落ちたキャッチコピーと再会を果たすこととなった。

私はどうやら、彼女の紡ぐ言葉が好みらしい。十数年経った今も、その言葉や世界観は私の心を惹きつけて止まない。それに加えて今は、こんな文章を書いてみたいと憧れている。

ずっと前から出会っていたのに、なぜ今まで気が付かなかったんだろう。もっと早くに気付いていたかったな。だなんて、まるで幼馴染を異性として意識した瞬間みたいな気持ちを味わいながら、私はもくもくと物語の世界に浸っていった。

恋の切なさ、淡さ、強さ、悲しさ。小説では、そこに洋服というスパイスが加わることで、恋する楽しさや甘酸っぱさが絶妙に表現されていく。

洋服を通して、前向きに変わっていく女性たちを感じられるところが凄く好き。こんな服なら似合うという型にハマりすぎて物足りなくなったり、これまで着ていた服がなぜか似合わなくなってきたり。そんな、誰もが一度は経験したことのある悩みをスッと解決してくれるような、共感性をくすぐる世界観が凄く好き。

とにかく。

私は今、尾形真理子の紡ぐ言葉にどうしようもなく恋をしている。

きっとこれから先、試着室に入る度に私はこの本のことを思い出してしまうだろう。そして、物語の主人公にでもなったように、心の中にいるあの人のことを想いながら、素敵な洋服に袖を通すに違いない。

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yuca. | 染葉ゆか(Yuca Aiba)
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