序章
それは吹きちぎられたものたちの影
それは朝に投げだされた夢
それはうつむいた祈り
それは消える風紋
それは私
けれども私はひとつの遠さである
めざめると
誰もいない
悲しい不在に満ちている
遠浅の私
うすら陽のなか
せつなくあわく
どこまでもひろがり
樹々もなく
街もなく
私のひそかな内側に
ひとつのひろがり
あふれる激しい沈黙のなかに
どこまでもつづいて
どこまでも
こんなにどこまでも
誰もいない
それならば
せめてあなたを愛することにして
愛することで
私を忘れ
私をなくし
私のなかを
いろやざわめき
ぬくもりやひかり
ひとびとのおしゃべりにつくりかえて
つくりかえ
つくりかえることでしかし
確かにめざめて私
この遠さについて
こんなにも鮮やかに
私
というなまえで語りはじめる
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あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。光と戯れる言葉のきらめきがあふれますように。