愛の礫stillalive
❁⃘ 91 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
聴かせてよ
もう一度
いつか
あなたがくちずさんでいた歌を
潮の満ち干のように
いくたびも寄せては返す
果てないメロディ
ひょっとして
胸の鼓動だったかしら
それとも
あなたと私とが引き合う
さみしさの音階かしら
❁⃘ 92 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
放りあげた小石が
空の青に跳ねかえって
澄んだ音で鳴る
聞こえたら
大きく手をふってくれないか
そうしたら
手をつないで
きょうの行方を探しにいこう
星たちが生まれる場所へ
空にひろがる波紋が
消えてしまうまえに
❁⃘ 93 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
夕暮れの花いちもんめ
影ばかり長くなるのが怖くて
おもわず手を離してしまったけれど
呼ばれたあの子は
それからどこへ行っただろう
すっかりなまえも忘れてしまったのに
雪が降るたび
つないだぬくもりがよみがえる
❁⃘ 94 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
予報では
ずっと晴れわたるはずだったのに
いつしか
音もなく降りしきり
やがて世界を覆いつくすかしら
どうかあなたが
そんな悲劇の
ひとつになってしまいませんように
おびただしい祈りが
雪のなかを縫いすすむ
聖夜
❁⃘ 95 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
眠れない夜は
サバナの蝶を思う
空よりずっと青い翅で
地響きをたてるヌーの群れを見送り
樹にひそむヒョウの耳をかすめる
やがて熱く乾いた風になり
地球をやさしく包んで
遠い銀河の夢をみる
いつまでも眠れない夜は
❁⃘ 96 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
星はあまりに遠いので
夜空には過去ばかり並ぶ
あの星座は
だれの思い出かしら
こんなに懐かしいのは
いのちが
銀河をわたって来たからにちがいない
星が消えれば
あしたがやってくる
いのちの未来は
だれも知らない
❁⃘ 97 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
おやすみを交わしたひとに
おはようを言える朝
眠そうなあなたに
きのう見た夢を
早く聞かせてあげたい
そうしなければ
またすぐに
焼きあがったばかりのバタールと
香ばしいコーヒーとともに
新しい物語がはじまる
❁⃘ 98 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
ひとつくらい盗んでも
気づかれることはないからと
指をのばして星をつまみ
ポケットに入れてくれた
あのときのぬくもりが
いまも燃え残っていて
ひとりきりの夜
そっと取りだし
こっそり
ちいさな声で
話しかけてみる
❁⃘ 99 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
かくれんぼで
あんまり上手に隠れたら
だれにも見つけてもらえない
そんなときは
しかたがないので
鬼になってみるしかない
あのときから
ずっと鬼になって
さがしまわっているけれど
いつまでたっても
見つけられない
❁⃘ 100 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
気がついたら
のっぺらぼうだったので
だれか代わりに泣いておくれ
涙をこぼし
声をあげ
どうか泣いてくれないか
笑うことや怒ること
キスすることもかなわない
これではあまりに悲しいのに
泣くこともできないなんて