あおさとる🐱藍上央理🐱大野ちた
忌み地・因縁・因習・呪詛・人形・あなたの最初の子供は必ず死ぬ運命にある 死んだ義母の家に住むことになった主人公・結花子。 その家には不気味な人形たちがいた。 家中にカビが生え、誰もいないはずの廊下から子供の足音が聞こえてくる。 それは最初は気のせいだと思われていたが、悪意を持って結花子に襲いかかってきた。 結花子は友人の知り合い・霊感が強い壱央(いちお)に助けを求めることになる。 井野家の当主の最初の子供は必ず死ぬ……妊娠中の結花子はそのことを知って戦慄する。
神の神意を託される巫女は、必ず「かりはら」の役目を全うしなさい。 「おかみさま講」の巫女は人身御供として神に捧げられる、という言い伝えがある。 氷川叶は、19年間平凡に生きてきた。 本家の当主・双子の姉の菟上希が遺体で発見されたのを機に、本家に呼び戻される。 霊力のある当主が巫女になるのが定石であるのに、何故か霊力がない叶が本家の跡を継ぎ、巫女になれと言われる。 無理難題を押しつけられて、雨の中、屋敷から逃げ出すが、「みつちさん」に魅入られてしまいお祓いを受けることに。 神域で「みつちさん」に名前を呼ばれて答えたら、沼に引き込まれて殺される。 因果はどこから生まれたのか。どこから祟りは始まっていたのか。祀っている神は一体何なのか。 このまま、この屋敷にいると、きっと私は命を取られる。 叶は屋敷から逃げ出す機会を窺うが、意図しない運命に巻き込まれてしまう。
「かんすさびを上手にできた子」「できない子」 主人公・陽菜は上手にできたおかげで蔵から出ることができた。 平良須(へらす)山の首つり鉄塔。限界集落に密かに伝わる話。 平良須山には人を喰うぐひん様がいらっしゃる。 首つり鉄塔を建てる前にあった祠には何が祀られていた? 蔵の木箱はなんのため? 祠跡に埋まっていた甕の中の犬の頭蓋骨と猿の骨。 それを掘り当てたとき、妹の弥生が神隠しに遭う。 生死も分からないまま、2年が経ち、陽菜を含む幼馴染み達はそれぞれ成功を収めていたが、次々と急死・変死・事故死してしまう。 一体陽菜たちに何が起こっているのか。 陽菜は突き動かされるように、自分の一族の秘密、平良須山の謎を解明しようとするが——。 ※ エブリスタ竹書房最恐小説大賞最終候補になった作品です。
幼い頃、とある廃墟に忍び込み、私は家族写真を拾うが、 背後から「完璧な家族になろう……」と囁く怖いものに出くわし————。 それから24年後———— 私は認知症の母親の介護をする為に、休職して福岡にある実家に戻った。 しかし、考えていた以上に過酷な介護に私は日に日に疲弊していくことになる。 毎夜徘徊する母、勝手に外へ出てしまう息子。 思い通りに行かない日々を過ごしていた。 徘徊する母と息子は決まって、あの廃墟の前で見つかる。 そこは、私にトラウマを植え付けた廃墟だった。 廃墟で拾ってきた何の変哲もない家族写真、関わってはいけない廃墟————。 それらに関わってしまってから、私の周囲で異変が起こり始める。
そのマンションには注意事項が3つある。 1.20時以降のエレベーターの使用はお控えください。 2.ゴミ集積所での喫煙はご遠慮ください。 3.夜間の騒音は住人のみなさんのご迷惑になりますのでお控えください。 そのマンションに入居した女性は必ず失踪したり、自殺する。予兆は誰にも分からない。怪異は突然やってくる————。 短大を卒業したばかりの亜都里(あとり)は地元を離れ、F市のとある街へ就職のために引っ越し、そのマンションで暮らし始めるのだが…………。
あらすじプロローグ 鷹村 翔太 その空き家は、丁字路の突き当たりに門を構える、平屋の一軒家だった。 屋根付きの門には蔦の代わりに虎ロープが張り巡らされている。壊れた扉は半開きで、ロープの効果はなさそうだ。 長い間、風雨に晒されて、黒く腐った柱は緑色に染まり苔むしている。 空き家を囲む高いブロック塀から、鬱蒼とした枝葉がはみ出して、蔓性植物が巻き付き、いよいよ野放図に生い茂っている。 荒れた印象の木々は暗く沈んで見え、まるで、だらりと手を垂らした緑色の怪物だ
壱央は用済みとなった数珠を箱に入れて、宮古島の祖母に返そうとスーツケースに詰めた。宮古島に明日帰るために、マンションの契約も今月までと連絡してある。退居まで一週間早いし、明後日、予定日だと聞いている結花子の出産を待っている時間はない。 数珠が切れたときに、壱央は直感でこれ以上結花子の側にいてはいけないと思った。彼女の側にいれば、残された呪詛が自分を襲うだろうと判断したのだ。結花子にそのことを告げないのは結花子自身がまだ子供の存在に守られていると思ったからだ。 結花子
救急処置室に運ばれた夫がどうなったのかわからないが、結花子は外来センターの待合室の椅子に座って呆然としていた。夫が死んだかどうかで茫然自失しているのではなかった。人形を燃やしたことで本当に呪詛が解けたのか、とずっと自分に問いかけていた。そうでなくては困る。まだ一抹の不安があったのだ。 椅子に座ったまま呆けていると、名前を呼びかけられて我に返った。 「井野さん」 顔を上げると、そこに壱央が立っていた。 「壱央さん」 「人形、燃やしたんですね」 壱央が結花子の
結花子は急いで自分の荷物をまとめ、谷地の家を出ようとしたときに、突然スマホが鳴った。その音に驚いて、慌ててスマホの表示を見ると、壱央からの電話だった。 なぜこのタイミングで彼から電話があるのだろう。今まで無視してきたのに突然なんだろう。訝しく思いながら電話に出ると、壱央の声が聞こえた。 「井野さん。今まで電話に出られなくてすみません。今ご自宅ですか?」 「はい、家にいますけど……。今までどこにいたんですか? 私、何度も電話をしたのに」 思わず、結花子は壱央を詰っ
引っ越し以来、寿晶が冷たくなった。メールに返事をくれないだけでなく、退社後の逢瀬にも応じなくなった。寿晶を会社の廊下で捕まえて、なぜなのかと問いただすと、あっさりと別れると言い出したのだ。 「アタシ、別れないからね。子供だって産むからね!」 「こんな話、会社でしないでくれよ。誰が聞いてるかわからないだろ」 「会社でしか、寿晶、話を聞いてくれないじゃない」 「とにかく、別れよう。堕ろす金も出すからさ」 「堕ろさないからね、絶対!」 急に冷たくなった理由を聞きたく
笑顔でいるのが辛い。急に冷たくなった寿晶を恨めしく思う。ユカに子供が出来ても自分の側にいてくれていたのに。自分も赤ちゃんを授かったとき、一度は嬉しそうな顔を見せたのに。寿晶が引っ越してから、急に興味をなくしたおもちゃみたいに捨てられた。おなかの子を産みたい。産みたいと訴えたら、堕ろせと言ってきた。酷すぎる。これもユカのせい。寿晶が自分に興味をなくしたのもユカのせい。 ユカが最初に自分を裏切った。寿晶を好きになったのは自分が先だったはずなのに、ユカが寿晶に選ばれたのがショ
また夢を見る。 結花子は灰色の曇天を見上げていた。視界の端に覆い被さるように葦が茂っている。自分は湿原に横たわっているようだ。 自分だけではなく、他にもたくさんの屍が転がっている。腹を裂かれた孕み女たちが、赤ん坊を取り上げられて恨み辛みの涙を流し、怨嗟を口から漏らしているのが聞こえる。死んだ赤ん坊はどこへ行ったのだろう。体の一部を奪われた孕み女は腐りながら、泥と混じり合いながら、蕩けていく目玉を動かし、盗人を捜し続けていた。 結花子の腹を裂いて、泣く赤ん坊を連れ
目を開けると、なぜか自分は布団で寝ていた。昨夜のことは鮮明に覚えている。あれは幻だったのだろうか。しかし、あまりにも生々しくて思い出すだけで嘔吐いてしまう。夫はまだ隣で寝ているので、そっと起き出してパジャマを着替えた。 昨夜のことが脳裏にこびりついて忘れられそうにない。井戸の底に捨てられた赤ん坊たちはあの男に切り刻まれたのだろうか。だとしたらなんのためにそんなことをしたのか見当もつかないが、尋常でないことだけはわかった。あんな残虐な仕打ちをされれば、赤ん坊も恨みの念を強
毎日三軒ほどはしごして、本を読み終える頃、やっと夕方になった。時間的に人が混み始めている。長居しすぎたと思って、慌てて会計を済ませた。夕飯の準備をしなければいけない、と結花子は駐車場へ急ぐ。駅前の駐車場まで半ば早歩きで向かう。ようやく駐車場だと思ったとき、平らな地面で躓いた。 「あいた……」 何に足を引っかけたのかと地面を見たら、白い両手が自分の両足首を掴んでいた。自分の目を疑って二度見すると、次の瞬間、足を掴んでいる女の全身が現れた。地面にうつ伏せに横たわり、腕を伸
毎朝、五時に起きて食事と弁当を作り、夫を見送ったあと、まるで見計らったように起こる怪異現象は、埋井の前日に起こったものよりも、明確に結花子と接触しようとしている。 廊下を越えて雪見障子より内側に入ってはこないが、一旦廊下に出ると、結花子の背後をくっついて回り、服を引っ張ってくる。ある時、廊下の掃除を終えて腰を伸ばしていると、ぐいっと髪の束を掴まれ、ガクンと結花子の顔が上向いた。一瞬だったが、その力が尋常ではなく強くて、悲鳴を上げながら居間に逃げた。頭に不気味な感触が残り
一週間経ち、警察から事件性なしという報告が電話にあった。骨は少なくとも百年以上は経っていると言う内容だった。 「明治時代くらいの骨が一番新しくて、他はもっと古いので。全部で四十体ほどでした。損傷の酷いものもあったので正確な数はわからなかったですが」 「四十体……、それで古いって、どのくらいなんですか?」 「放射性炭素年代測定をしたんですけどね、四百年前の骨もありましたよ。まぁ、これで井戸の工事を進めていいですから」 結花子は、龍雲寺で見せてもらった過去帳と家系図を
壱央からの電話を切って、結花子は薄ら寒いものを首筋に感じ取った。 仏間の床下に何があるというのだろう。前にも壱央に呪詛だと言われた。そのときは信じてなかったけれど、壱央まで人形を視るようになったと聞き、結花子は人形と家から逃れられないのかと絶望した。それでも家全体に広がる気味悪い原因が全て仏間の床下にあるのならば、床下もきちんと調べて処理できれば対処すべきだと思った。 早速夫が帰ってきた夜に、勇気を出して言ってみる。 「お願いがあるんだけど」 夫がワイシャツを
壱央は画像を視た日から、身の回りで木彫りの人形の姿を見かけるようになった。その人形はまさに井野家で手に取ったもので、生温かくぐんにゃりとした感触が忘れられずにいた。拙い、木を削っただけの面《おもて》は、生きているような表情を浮かべ、ジッと壱央を見つめている。感情などひとかけらも感じられないのに、人形の執着だけは伝わってくる。 それは、カフェの壁際のテーブルに、電車のシートに、廊下の一番奥に立てかけられて置かれていた。視界の端に不意に現れて、そのたびに壱央は息を飲んだ。
夕方に壱央からメールが返ってきた。そこには、画像を削除してください、とだけ書いてあった。けれど、物的証拠で他人に示せるのはこの画像だけだ。誰にも見せないで削除して怪現象が起こっていると訴えても、信じてもらえない。ましてや夫に理解してもらうのは無理だろう。この画像を夫に見せて、引っ越しのきっかけになればいいと思った。 夫が興味なさそうに結花子が差し出したスマホの画面を見た。 「何これ?」 「仏間の画像。これ変じゃない? 気味が悪いよね……。この家の怪現象って、これが原
壱央はぼんやりと結花子の家に行ったときのことを思い出していた。 全体的に、湿気が強く暗い家屋。日が当たる縁側ですら、壱央の目から見ると影が濃い。まるで、十年以上空き家だったような室内。荒れていないから人が住んでいるのだろうと察する程度だ。特に仏間がかび臭く、現に仏間の畳や廊下も黴びていて変色している。通された客間から見える狭い庭にはもう使われてない汲み上げポンプ式の井戸があり、二畳ほどの大きさの納屋があった。生け垣は伸び放題で手入れされていない。長い間、放置していたよう
夫は毎日二十時までに帰ってくる。話をするだけの時間の余裕も出来た。仏間に夫が閉じこもる前に、結花子は昼間の話を切り出した。 「お隣の佐賀さんが、霊媒師に視てもらったらって勧めてくれたの。視てもらってもいい?」 壱央がいるけれど、怪異に対処できない壱央よりも霊媒師のほうが頼りになるかもしれない。 「霊媒師?」 「うん、お義母さんも相談してたみたい」 「霊媒師に視てもらうって何を? この家を視てもらうって勝手なことをしてきたのか?」 眉間にしわを寄せて夫が結花子