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男はひたすらぬかるんだ湿原を歩いている。背中に担いだ死体のせいで、足首までぬかるみの中…
結花子はハッとして目を開けた。常夜灯がほのかにオレンジ色の明かりで辺りを照らし出す。こ…
それから慌ただしく引っ越しの準備が始まった。夫も会社に引っ越しの手続きを取り、何事もな…
朝の五時に夫を見送ったあと、昨日ホームセンターで買ってきた掃除道具を持って仏間を除く三…
十三日を過ぎた頃、結花子はもう一度、人形のことで夫に相談した。カビの掃除をする度に、人…
この家は明らかにおかしい。義母が自死したのにも何かわけがあるのではないか、それを隣家の…
気が付けば、結花子は財布とスマホを持って着の身着のまま車を走らせていた。高速に乗ったあと、パーキングエリアから亜美に電話した。 「何、どうしたの」 まだ終業時間でもないのに電話をかけてくるのが珍しかったのか、亜美が開口一番訊ねてきた。 「もう駄目。家に何かいる。今そっちに向かってるから、しばらく亜美んちに泊まらせて」 「いいけど……。旦那は?」 「寿晶さんもおかしくなってるから、言えない」 「おかしくなってるって?」 「毎晩仏間に籠もって人形に話しかけるの。
土曜日の早朝、最寄りの駅で壱央と待ち合わせた。約束通りの時間に現れたのは、ごく平凡な風…
壱央は床の間の人形をジッと見つめた。まるで生きているかのような表情を浮かべている日本人…
こぽこぽこぽ……。 水面にあぶくが浮かび弾ける音がする。亜美はしゃがみ込んで、粘り気…
誰よりも早く起きて朝食を作らなければならない、そんな思いに駆られて結花子は怠い体を起こ…
夫は毎日二十時までに帰ってくる。話をするだけの時間の余裕も出来た。仏間に夫が閉じこもる…
壱央はぼんやりと結花子の家に行ったときのことを思い出していた。 全体的に、湿気が強く…
夕方に壱央からメールが返ってきた。そこには、画像を削除してください、とだけ書いてあった。けれど、物的証拠で他人に示せるのはこの画像だけだ。誰にも見せないで削除して怪現象が起こっていると訴えても、信じてもらえない。ましてや夫に理解してもらうのは無理だろう。この画像を夫に見せて、引っ越しのきっかけになればいいと思った。 夫が興味なさそうに結花子が差し出したスマホの画面を見た。 「何これ?」 「仏間の画像。これ変じゃない? 気味が悪いよね……。この家の怪現象って、これが原