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夜明け前、玄関の上がり口で陽菜は体を縮こまらせて、磨りガラスの引き戸をじっと見つめ、何…
細長い山間に民家が散らばるように点在している饗庭村を、峠の木々の隙間から望む。 陽菜…
青々とした木々から聞こえてくるミンミンゼミやアブラゼミの声が、古民家の広い庭に照りつけ…
陽菜が大学に入学してから二度目の夏休み。とうとう陽菜は十九歳になった。 タイムカプセ…
陽菜は食い入るように甕を見つめた。高さはだいたい四十五センチから五十センチ。口径は三十…
「誰も入らないから山菜が取り放題だっていつも言ってたから、母さん、一人で入ったらいけない…
布団の中に潜り込んで寝ていたはずなのに、陽菜は足裏に湿った感触を覚えて目が醒めた。 一寸先も見えない闇のように思えたが、自分の前にそびえ立つ鉄塔の存在を視覚ではなく強い圧を感じて認識した。 闇に包まれ、風もなく、虫の声も聞こえず、足裏の湿った黒土の匂いと感触だけが陽菜の五感を支配している。 あの鉄塔の立つ空き地にいるのだ、と陽菜は思った。どうやって自分がここにいるのか、理解できないまま、呆然と受け入れるしかない。 このまま山を下りて家に戻ろうと脚を動かそうと
弥生がいなくなった翌日に母親を饗庭村に残したまま、陽菜は大学へ向かった。運転しながら、…
『陽菜、テレビ見てみて』 図書館で論文の資料を読んで頭を抱えていたとき、直也から音声通…
直也から電話があった。真弓の葬式からひと月ほどしか経ってない。一体何事かと思って、陽菜…
「田舎の家と蔵と山を売却するから、ダメだ」 饗庭村の家に行きたいと食事時に陽菜が父親に…
住所近くのパーキングに車を停め、スマホで地図アプリを開き、確認しながら竹内の家を見つけ…
これらを読んで、陽菜は肩を落とした。断片的ではあるが、ぐひん様を封じる方法は書かれてい…
しんしんと空気が底冷えするような寒さに山の林道も凍り付く。闇が深く、斜面の木々の奥だけでなく、車のヘッドライトが照らす先も黒く底知れない。光は闇に飲まれ、見通すことは不可能だ。山を覆う黒い塊をつんざく、黒のスポーツカーが発するエンジン音と、ボリュームを最大にしたスピーカーからとどろくドンッドンッという音が、暗闇に吸い込まれていく。 助手席に座る金髪の男が、体をねじって後部座席を振り向く。後部座席に座る、自分の彼女と友人の彼女に饗庭村周辺の町で噂されている話を聞かせる。