マガジンのカバー画像

青豆の自己満足

89
自作のショートショート・短編小説の中で、気に入っているものを纏めます。 他人の評価は関係なく、自己満足のためにここに集めていきます。
運営しているクリエイター

記事一覧

掌編小説|初恋は契りて

✧✧✧   大学に進むために上京して、一年と三ヶ月が経とうとしていた。初めのうちは気の合…

青豆ノノ
4週間前
126

秋ピリカ応募作 「ロイにおくる」

 薄い手の平に乗せた小瓶を眺め、女性は言う。かつてのあなたが、今もあなたである証拠は?─…

青豆ノノ
1か月前
194

ショートストーリー|生・環

 霊ェさん、と呼ばれ振り向いた。つもり。カラダはない。  わたしはソラにいるのでしょうか…

青豆ノノ
1か月前
100

掌編小説|月紙

 未晒クラフトの袋の口を開き、中身を詰めていく。さらりとした紙の感触を得ながら形を整え、…

青豆ノノ
1か月前
107

掌編小説|ついたち

 足音が近づく。手にしていたスマートフォンは布団の中に隠し、枕元にあった漫画を開いた。 …

青豆ノノ
2か月前
101

毎週ショートショートnote|ひと夏の人間離れ

二ヶ月の夏休みを終え、懐かしいメンバーの待つ教室へ向かう。 「おい、袴田」 名前を呼ばれて…

青豆ノノ
2か月前
108

掌編小説|桃幻狂ジュルネ| 【白4企画】

 桃幻狂ジュルネ  シャワシャワと鳴く蝉の声が重なりあって廊下まで響いている。相当に外は暑いのだろう。近頃は気温が上がりすぎるせいか、朝、カーテンを開けて曇り空が見えると「今日はいい天気ね」なんていう患者がいる。晴天・青空というのは、もはや歓迎されない時代なのだろうか。だけど、世の異常気象がどうであれ、ひんやりとした廊下を一日中歩き回っている僕には関係のないことのように思えた。  見慣れた廊下を進む。ナースステーションに戻る道すがら、病棟内に二つある病室のうち、手前の病室

掌編小説|この町の星|シロクマ文芸部

 花火と、手持ち無沙汰でしきりに指の関節を鳴らしている康太を交互に眺めていた。打ち上がる…

青豆ノノ
2か月前
145

掌編小説|怪物|シロクマ文芸部

風鈴と我が子を交互に見比べた。まん丸い様子が似ている。 風鈴をぽんと放れば割れてしまうの…

青豆ノノ
3か月前
129

掌編小説|透明ドロップ|シロクマ文芸部

 夏は夜のうちに済ませたいことが多いのだと、本田は申し訳無さそうな、だけど見ようによって…

青豆ノノ
4か月前
86

創作大賞2024 | ソウアイの星①

 ああ、あの日は。  空はグレーで、体を抜けていく音は澄んでいて。  胸の奥に小さな不安…

青豆ノノ
4か月前
163

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。  わかっているんだ。家族の誰もが。だけ…

青豆ノノ
5か月前
223

掌編小説 | 銀ノ月 |#君に届かない

 せっかくの月夜にあなたは来てしまった。女はそう思った。  ひとり静かに湯に浸かり、ガラ…

青豆ノノ
6か月前
86

掌編小説 | 家族

 インターホンのカメラに映らないように顔を隠した。 「だれ?」と姉が訝しむ。 「わたし」とわたし。 「くだらないことやっていないで、上がってらっしゃい」  勝手に上がれないからインターホンを押したんじゃないか、とつぶやきながらエントランスのドアを通過した。  姉が住むのはマンションの三階フロアだ。廊下を歩きながら、ひとつひとつ、家の表札を読む。 「しばた…かなもり…にしだ…キム…さかもと……」  姉の苗字がなんだったかわからなくなってきた。姉は三回も離婚と再婚を繰り返している