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✧✧✧ 大学に進むために上京して、一年と三ヶ月が経とうとしていた。初めのうちは気の合…
薄い手の平に乗せた小瓶を眺め、女性は言う。かつてのあなたが、今もあなたである証拠は?─…
霊ェさん、と呼ばれ振り向いた。つもり。カラダはない。 わたしはソラにいるのでしょうか…
未晒クラフトの袋の口を開き、中身を詰めていく。さらりとした紙の感触を得ながら形を整え、…
足音が近づく。手にしていたスマートフォンは布団の中に隠し、枕元にあった漫画を開いた。 …
二ヶ月の夏休みを終え、懐かしいメンバーの待つ教室へ向かう。 「おい、袴田」 名前を呼ばれて…
桃幻狂ジュルネ シャワシャワと鳴く蝉の声が重なりあって廊下まで響いている。相当に外は暑いのだろう。近頃は気温が上がりすぎるせいか、朝、カーテンを開けて曇り空が見えると「今日はいい天気ね」なんていう患者がいる。晴天・青空というのは、もはや歓迎されない時代なのだろうか。だけど、世の異常気象がどうであれ、ひんやりとした廊下を一日中歩き回っている僕には関係のないことのように思えた。 見慣れた廊下を進む。ナースステーションに戻る道すがら、病棟内に二つある病室のうち、手前の病室
花火と、手持ち無沙汰でしきりに指の関節を鳴らしている康太を交互に眺めていた。打ち上がる…
風鈴と我が子を交互に見比べた。まん丸い様子が似ている。 風鈴をぽんと放れば割れてしまうの…
夏は夜のうちに済ませたいことが多いのだと、本田は申し訳無さそうな、だけど見ようによって…
ああ、あの日は。 空はグレーで、体を抜けていく音は澄んでいて。 胸の奥に小さな不安…
妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。 わかっているんだ。家族の誰もが。だけ…
せっかくの月夜にあなたは来てしまった。女はそう思った。 ひとり静かに湯に浸かり、ガラ…
インターホンのカメラに映らないように顔を隠した。 「だれ?」と姉が訝しむ。 「わたし」とわたし。 「くだらないことやっていないで、上がってらっしゃい」 勝手に上がれないからインターホンを押したんじゃないか、とつぶやきながらエントランスのドアを通過した。 姉が住むのはマンションの三階フロアだ。廊下を歩きながら、ひとつひとつ、家の表札を読む。 「しばた…かなもり…にしだ…キム…さかもと……」 姉の苗字がなんだったかわからなくなってきた。姉は三回も離婚と再婚を繰り返している