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青豆の自己満足

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自作のショートショート・短編小説の中で、気に入っているものを纏めます。 他人の評価は関係なく、自己満足のためにここに集めていきます。
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記事一覧

掌編小説|アムール・デュ・ショコラ|シロクマ文芸部

 甘いものが流れてきたら、それ食べて帰ろうな。それで、いいよな。  返事はない。今日はず…

青豆ノノ
5日前
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【ピリカ文庫】 にじいろの壁

 ぐるりと一周、土壁が囲う。猫と、その飼い主の阿武隈りさ子が住む家だ。この家にドアはない…

青豆ノノ
3週間前
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短編小説|夜は 【前編】

(一)  濡れた毛先がブルーのキャミソールに触れて、黒い染みを広げていく。 「それ、模様…

青豆ノノ
1か月前
128

掌編小説|餞別

 先端に十字の切り込みを入れた。畳まれた皮膚によってできた溝に深紅の液体が滲む。広がる紅…

青豆ノノ
2か月前
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掌編小説|北風と月|シロクマ文芸部

 北風と北風が交差する、そんな不思議な街の一角にミチルは立っていた。  北風が吹くと、ミ…

青豆ノノ
2か月前
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掌編小説|聖人のこと|シロクマ文芸部

 十二月になると聖人が来る。馬小屋を持つ裕福な家を狙ってやってくる小汚い中年だ。  聖人…

青豆ノノ
2か月前
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掌編小説|初恋は契りて

✧✧✧   大学に進むために上京して、一年と三ヶ月が経とうとしていた。初めのうちは気の合う友人もできず、憧れたキャンパスライフは思うようにならなかった。それがこのところ、毎日とても楽しい。始めたばかりではあるが、テニス同好会に気になる人が出来たのだ。少人数で構成されたこの同好会は紹介制で、同じ学問を専攻している女友達に誘ってもらい、私もメンバーの一人になった。 「東です」  その人は私の目を真っ直ぐに見てそう言った。少し古風な雰囲気は一昔前の映画俳優のよう。周りの男の子

秋ピリカ応募作 「ロイにおくる」

 薄い手の平に乗せた小瓶を眺め、女性は言う。かつてのあなたが、今もあなたである証拠は?─…

青豆ノノ
4か月前
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ショートストーリー|生・環

 霊ェさん、と呼ばれ振り向いた。つもり。カラダはない。  わたしはソラにいるのでしょうか…

青豆ノノ
4か月前
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掌編小説|月紙

 未晒クラフトの袋の口を開き、中身を詰めていく。さらりとした紙の感触を得ながら形を整え、…

青豆ノノ
5か月前
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掌編小説|ついたち

 足音が近づく。手にしていたスマートフォンは布団の中に隠し、枕元にあった漫画を開いた。 …

青豆ノノ
5か月前
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毎週ショートショートnote|ひと夏の人間離れ

二ヶ月の夏休みを終え、懐かしいメンバーの待つ教室へ向かう。 「おい、袴田」 名前を呼ばれて…

青豆ノノ
5か月前
107

掌編小説|桃幻狂ジュルネ| 【白4企画】

 桃幻狂ジュルネ  シャワシャワと鳴く蝉の声が重なりあって廊下まで響いている。相当に外は…

青豆ノノ
6か月前
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掌編小説|怪物|シロクマ文芸部

風鈴と我が子を交互に見比べた。まん丸い様子が似ている。 風鈴をぽんと放れば割れてしまうのと同じように、今胸に抱く我が子をぽんと放ってみたらどうなるのだろうかとしばし考えてしまう。 真夜中。 ベランダから近隣の家々のあかりを眺める。まだ起きている人間が私以外にいることに安堵する。 二階建ての家が多い地域で、ボロ屋でも三階まである集合住宅の最上部に住む私は、こうして時々ベランダに立ち、赤の他人の暮らしを眺めている。 時折なまぬるい風が吹いて、娘の頼りなく細い髪を揺らした。風鈴