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kyatapy
掌編小説|餞別
先端に十字の切り込みを入れた。畳まれた皮膚によってできた溝に深紅の液体が滲む。広がる紅は、やがて集まって滴となるから、私はそこにナプキンをあて、ショーツを履かせてやった。
思春期はどんなことにも貪欲で、まつげを伸ばすためにその先端を切り落とした。そうしたまつげは元の長さよりも長くなるのだと教えられた。実際それは叶ったような気がしている。信じる心があったからだ。
今はナプキンとショーツに押しつぶされ、更に身を縮ませているだろうそれも、先端を切ったら伸びるはずではなかったか。そうして長さの限界を超え、私の深部に達したとき、快楽と新しい命のもとを放出する。それが目的だと言ったのに。そうなることで、すべてうまくいくのだと、私に信じ込ませたはずなのに。
哀れみと同情。協力は愛。家族。
醜い腹部が離れていく。夫に似ている。その額、喉仏、胸郭のへこみ。夫ではないのに、夫のように毎晩私の全身を包みこんだ。
家族の秘密。親子の絆。
そうまでしても授からないものを、何度も禁忌をおかして手に入れようとする貪欲さ。似ている。まつげの先端を切り落としたあの頃の私と。
私の心に触れもせずひたすらに愛撫する。夫によく似た醜いカタマリ。
この人は信じていた。新しい命がこの家族を救うだろうこと。そして憐れんでいた。ひと月ごとに流れる紅に涙する私を。
紅はどこからともなくやってくる。傷があるから流れるのではない。流したくて流れるものでもない。その紅を知るのは選ばれた女だけ。
お前が生まれ変わったら、どうかこの苦しみを味わいますように。私から餞にナプキンとショーツを贈ろう。
ねえ、お義父さん。あなたは今、紅く美しい。