
物に必至あり事に固然あり/馮驩(ふうかん)の金言【憂世で生きる智慧】
物に必至あり 事に固然あり
ものにひっしあり ことにこぜんあり

部屋に入ってくるなり寅さんが、突然話し始めました。
「おう満男、おまえ、ちょっと世渡りがヘタそうだから、人生に役に立つイイ話してやろうか。」
「むかし中国に、|孟嘗君《もうしょうくん》っていう大物がいてな、彼は3000人もの人々を養っていたんだよ。」
満男はいきなり話し始める寅さんに驚きと戸惑いの表情を浮かべながら、気のない返事をしました。
「へぇ~、それってすごいじゃない……」
寅さんは、ほろ酔い気分でにこにこしながら、
「それがな、満男。孟嘗君が一度、権力を失った時、彼を支えていた人々はみんな逃げ出してしまったんだよ。ところがな、孟嘗君が再び権力を取り戻すと、逃げ出した連中がいけしゃあしゃあと、戻ってきたんだよ。」
「えー?それって、恩知らずというか恥知らずというか、なんか情けない話だよね。なんでそんなことになるの?」
「それがな、『事に固然』というものよ。
物事にはそれぞれ自然な流れや道理が存在するってこと。
例えば、朝、市場に行けば、人々で賑わっているよな?
でも夜になると、誰もいなくなる。
それって、人々が朝が好きで、夜を嫌ってるからだと思うか?」
「う~ん、それは違うよね。朝は買い物があるから人が集まるんだし、夜は仕事が終わってみんな家に帰るから、人がいなくなるのはあたりまえだよね?」
「そう!あたりまえのこと。人間関係でも同じことが起きるんだよ。
金持ちの家には人が集るが、貧乏人の家には人が寄り付かない。
これは人が信用できるか、できないかを考えるよりも、
『物に必至あり、事に固然あり』
物事の必然性と道理を理解することが大切だってことなんだよ。」
「な?だから、人を信じるとか信じないとか、そんな甘えた考えじゃいけないよ。だいじなのは人間の性さがを冷静に見きわめること。そうすりゃ、どんな状況でも動じない人間関係を築くことができるんだよ。」
「なるほど、おじさん。その話、本当に考えさせられるね。」
「何というかな……
ああ生まれてきて良かった、そう思うことが何べんかあるだろ?
そのために生きてんじゃねえか。そのうちお前にも、そういう時が来るよ。な?まあ、がんばれ。」
出典
事の固然/事勢固然
物にはすべて、必ずそうなるという到達点があり、事には本来そうあるべき道理があるということ。
中国戦国時代:斉の宰相である孟嘗君(もうしょうくん)が、食客を3000人も養っていた。それが失脚すると、皆逃げ出して、彼にハナもひっかけなくなった。ところが、彼が再び昔の地位を得ると、その逃げ出した連中がシャーシャーとして、彼のところへ戻って来て、彼に取り入ろうとした。
そこで彼は嘆息して、「ああ、なんと恥知らずな連中だろう」と言った。
ところが一人の忠実にして優秀な部下:馮驩が、彼をいさめて、
これは「事の固然」である、と言った。
朝、市に行けば、大勢の人が集まり、大いに賑わっています。
しかし、夜には、ほとんど人影もありません。
この理由は、人が朝を好むとか、夜を嫌うためではありません。
朝は求める品物があり、夜はそれが無いからに過ぎません。
人間関係でも同じこと。
金持ちの門には人が群がり、貧乏人には交わる人が少いのが当然の姿です。
人間が信用できるか、できないかなどと悩むより、
『物に必至あり、事に固然あり』ということを知ることです。
信ずるといい、信じないというも、それはいわば他人に対する『甘え意識』のあらわれにしか過ぎません。
一切の甘えを捨てて、冷たく人間の姿を見きわめることこそ、どんな事態にも動じない人間関係を築くことができるのです。
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