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おもち作品集

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#短編小説

傘を差さない理由

お題「鞄の中の折り畳み傘」で

 鞄に折り畳み傘を忍ばせるようになって、もう二ヶ月になる。学校ではまだ一度も開いたことのない、秘密の傘だ。

 下校を促すチャイムを耳にして靴を履き替えたものの、藍はしばらくエントランスの屋根の下に留まっていた。灰色に霞む空からは、雨がしたたかに降り注いでいる。

 そろそろ梅雨入りだという。雨の頻度も増えていく。もう一本、傘を買うべきだと思った。教科書類は濡れると

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朝焼けに明星

『お題をもらって書く』より、「朝焼け」「涙」「ふたりきり」で

 窓の外では次々と看板のネオンが消灯していった。

 駅にほど近いこのバーは、朝六時まで営業している。以前一度、終電を逃してこの店に足を踏み入れてからというもの、エミは毎週末をここで過ごしていた。今は始発を待つためにというより、少しだけ上等な夢を見たいがために。つまりは、普段飲まないような酒と、日常から隔絶された空気感に酔いしれて

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雪と氷に覆われた世界で

『お題をもらって書く』より、「たったひとりのおんなのこ」で

 暗闇を少女は慣れた足取りで歩く。全ての窓が雪と氷に覆われ、建物の中には一切の光が入らない。少女が手に持ったランタンだけが、ぼんやりとした光を放っていた。

 照らし出される壁面は書架だ。ここはかつての図書館であり、研究施設であり、地上が凍り付いてからはシェルターとしての役割も担っていた。だが、かつてここに逃げ込んだ人々、そしてここで研

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ばけもの問答

『お題をもらって書く』より、「ばけもの」と「お鍋」で

 薪の爆ぜる音を聞いた。人の往来の絶えた山道での事である。里人に扮した男は茂みをかき分け、音のした方へと進み、そこで枯れ木のような老爺に会った。老爺は道の真ん中で火に掛けた鍋をかき回しながら、男に気づいて顔を上げた。

 ――見つけたり。

 男は口角の上がるのを抑えながら、さも不思議そうな面をして老爺を見やった。ここに人がいるわけがない。こ

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雪深いある朝の情景

『お題をもらって書く』より、「やかん」と「ストーブ」で

 泥のように眠り、刺すような冷気に目を覚ました。いつ眠ったのか、どれだけ眠れたのか、全く分からない。ただ、枕元に置かれた時計が、長年染みついた習慣通りに目覚めたのだと示していた。

 美枝子は自分の体温で温まった布団から這い出して、髪を結い上げる。部屋中が凍てつくような空気に充ちている。目に見えるほどはっきりと、吐いた息が白く広がった。

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