御餅田あんこ
自作短編小説集『花園浄土』より「雪椿」一部抜粋 からん、ころん。 ドアベルの音が、静まりかえった店内にうら寂しく響いて消えた。晴樹は入り口に立って、空っぽのカウンターと、がらんとした席を見渡してからゆっくりと歩き出した。 今はもう、この店の主であった祖父はいないし、客もいない。 ここは静けさを愛する大人の男たちが集まる店だったが、今ほど静かだったことはない。祖父の好きだったジャズナンバーも、誰かの囁き声も、食器が立てる微かな物音も、豆を挽く音も、何もかもがなく
私の小説について、「字量も多いし短編でもそれなりの長さがあるので、以前KDP出版をした経験もあってKindleなら気軽に縦書きで本に近い形で読んでもらえるのでは」と、投稿サイトに掲載した作品をまとめておりました。 一太郎でepubを作ろうと思ったのですが、「各作品タイトルの扉ページで改行がしたい」が一太郎側でどれだけ改ページ操作をしてもKindlePreviewerで確認するとされておらず、最終的にepub構造を自分で作るという手段を執りました。htmlだのcssだのを
こんにちは!自称天才物書きの御餅田あんこです! 出張の最中、疲労が限界に達し「今こそトロンボーンを買うとき……!」という啓示を受けて勢いでトロンボーンを買いました。しかしながら私は大変飽き性なので、十数万の楽器を買ってもきっとあんまり吹きやしないだろうと思い、入門セット35,000円のテナートロンボーンを選択! 非常に良心的な価格。疲れも吹っ飛ぶ大興奮っぷり。友にもフォロワーにも自慢しまくりです。 プラス、防音設備などない賃貸なので消音のためにプラクティスミュート
こちら↓ぽちっとしてくれると嬉しいです。 ずっとゲームばかりしていて創作活動ができていなかったので、このところリハビリ中です。集中力がTwitterで散っていきます。 さて、紙の短編集を作りたいと思い立ち、計画を立てているところです。肝心の中身に関して、今まで書いたもの(花園浄土は除く短編作品)をすべて合わせても分厚すぎない程度かなと思うのですが、私の集中力と忍耐力では計画が完遂できる自信がない……。いくつかに絞って本に収めようと思うので、参考までに、もし御餅田作品で
劇場版終局特異点を見てきた話。終局知らずに見に行く人はあまりいないと思うけど、誰が出たとかのネタバレも含むのでご注意くださいね。 終局特異点映像化だって初めて聞いたのがいつだかもう思い出せないけれど、忙しく日々を過ごしているうち、気がついたら公開していた。公開を公開初日に知った。なぜならこのところ、ずっとFGOにログインすらしていなかったからである。 日が経てばTwitterでも感想が溢れてどうしても目に入ってくるだろうし、終局のストーリー自体は知っていても映像作品
春の初めに、死んだ祖母から一通の封筒が届いた。 どこか見覚えのある筆跡と、差出人の名を見た時は驚いた。開封してみると「芳隆へ」と書かれた白い小さな紙包みが入っていて、中身は植物の種だった。随分と昔、子供の頃に学校の課題で育てた朝顔の種に似ていたが、開いた紙包みの内側には、夜顔、と綴られていた。 祖母は、大きな家にひとりで住んでいる人だったと記憶している。 母を含めて、祖母の三人の子供は皆が家を離れていたし、芳隆が物心つく前に祖父は他界していた。芳隆にとって祖父は
Kindleにて配信中の自作短編小説集『花園浄土』を28日17:00まで無料配信しております! この時期にぴったりの話「紫陽花」もございますので、どうぞこの機会にDLよろしくお願いします! https://www.amazon.co.jp/dp/B085W8NWV8/ref=cm_sw_r_tw_awdo_c_x_PBYJEb6MD4C3W
お題「鞄の中の折り畳み傘」で 鞄に折り畳み傘を忍ばせるようになって、もう二ヶ月になる。学校ではまだ一度も開いたことのない、秘密の傘だ。 下校を促すチャイムを耳にして靴を履き替えたものの、藍はしばらくエントランスの屋根の下に留まっていた。灰色に霞む空からは、雨がしたたかに降り注いでいる。 そろそろ梅雨入りだという。雨の頻度も増えていく。もう一本、傘を買うべきだと思った。教科書類は濡れると困るので教室のロッカーに置いてきたけれど、いつもこれでは日々の課題に困るし、そう
『お題をもらって書く』より、「夜行バス」で 人の世の常として、この度、わたくしも長旅をすることとなりました。旅と申しましても、目的地まではバスが運んでくれるため、わたくしは乗っているだけなのです。 全ての乗客を乗せて街を出立いたしますと、あとはただひたすらに闇の中を進んでいくのです。土手道のような、闇の中に道だけがあるような景色の中をずっと走るのですけれども、はじめはそれを眺めていた乗客たちも、やがて飽きて眠りにつきました。乗務員が通路に座席を仕切るカーテンを引きまして
『お題をもらって書く』より、「朝焼け」「涙」「ふたりきり」で 窓の外では次々と看板のネオンが消灯していった。 駅にほど近いこのバーは、朝六時まで営業している。以前一度、終電を逃してこの店に足を踏み入れてからというもの、エミは毎週末をここで過ごしていた。今は始発を待つためにというより、少しだけ上等な夢を見たいがために。つまりは、普段飲まないような酒と、日常から隔絶された空気感に酔いしれて、現実逃避がしたいのだ。 エミが何杯目かのラム酒のグラスに手を伸ばしたと
『お題をもらって書く』より、「たったひとりのおんなのこ」で 暗闇を少女は慣れた足取りで歩く。全ての窓が雪と氷に覆われ、建物の中には一切の光が入らない。少女が手に持ったランタンだけが、ぼんやりとした光を放っていた。 照らし出される壁面は書架だ。ここはかつての図書館であり、研究施設であり、地上が凍り付いてからはシェルターとしての役割も担っていた。だが、かつてここに逃げ込んだ人々、そしてここで研究をしていた学者たちはもういない。ここにいるのは少女だけだ。 発電設備が故障
『お題をもらって書く』より、「ばけもの」と「お鍋」で 薪の爆ぜる音を聞いた。人の往来の絶えた山道での事である。里人に扮した男は茂みをかき分け、音のした方へと進み、そこで枯れ木のような老爺に会った。老爺は道の真ん中で火に掛けた鍋をかき回しながら、男に気づいて顔を上げた。 ――見つけたり。 男は口角の上がるのを抑えながら、さも不思議そうな面をして老爺を見やった。ここに人がいるわけがない。こちらも、おそらくはあちらも、それを承知で声を荒げることをしない。この気味の悪さは
『お題をもらって書く』より、「やかん」と「ストーブ」で 泥のように眠り、刺すような冷気に目を覚ました。いつ眠ったのか、どれだけ眠れたのか、全く分からない。ただ、枕元に置かれた時計が、長年染みついた習慣通りに目覚めたのだと示していた。 美枝子は自分の体温で温まった布団から這い出して、髪を結い上げる。部屋中が凍てつくような空気に充ちている。目に見えるほどはっきりと、吐いた息が白く広がった。 今朝は、とりわけ冷えた。 窓の外を眺めると、屋根の上には厚く雪が積もってい
このところ、外出自粛要請等あり、自宅で本を読むという方もいらっしゃるかと思います。特にKindle Unlimitedユーザーの方、いろいろな本を読まれているのではないかと思います。 私のKDPにて配信しております短編小説集『花園浄土』もKindle Unlimitedでお読みいただけます。 花園という世界、彼方と此方を繋ぐ扉、扉から現れる乙女。美しくて、ちょっと怖い、そんな世界観を表現したいと思って練り上げた花園浄土、一人でも多くの方が、その扉を開いていただけたのなら、
Kindle本自作短編小説『花園浄土』無料配信期間中です!3/23 17:00まで無料ですよ~ まだDLされてない方ぜひどうぞ~ "花園浄土 壱"(御餅田 あんこ 著) こちらから無料で読み始められます: http://a.co/cysTZ7c
この度、自分で書いた小説をKDPにて公開することができました。 『花園浄土』と言うんですけれども! 花園という世界、彼方と此方を繋ぐ扉、扉から現れる乙女。美しくて、ちょっと怖い、そんな世界観を表現したいと思って練り上げた花園浄土、一人でも多くの方が、その扉を開いていただけたのなら、そして4話全てをお読みいただけたのならば幸いです。 この3月18日17:00から23日17:00の間を無料期間として設定しております。 通常価格は250円ですが、KDPセレクトに登録しております