一等賞の味
つい先程、季節外れの大掃除をしていると、引き出しの中から、古くて埃をかぶった一本のミサンガが出てきました。以前、卒業旅行でイタリアに行き、列車のストライキに遭遇したこと、そこで出会った人と過ごした時間などについて記事を書きましたが、これは確か、ナポリで騙され、高額で買わされてしまった思い出のミサンガじゃないか?!と、今となってはのいい思い出に浸っております。今日はそれに関係する記事を少し書いてみようかなと思い、片付けをいったん止め、熱々のコーヒーを煎れました。そして私の日課と言いますか、もうかれこれ四十年くらいのお付き合いである、いちごポッキーを食べています。今では大袋だったり、つぶつぶ入りだったりと種類もありますが、私が小さい頃は小さな箱しかなくて、確か八十円くらいだったと思います。このいちごポッキーにはひとつだけ思い出があり、その小さな出来事が、今の自分を支えてくれています。
これは私が保育園の年長組だった時の話です。当時保育園は、小学校のすぐ隣にありました。今では合併し、別の場所に建て替えられています。毎年秋に開催される小学校の運動会の中で、新年度から一年生に上がる年長組が招待され、かけっこをするプログラムがありました。三十メートルくらいの直線距離の向こうにゴールテープが張られ、ちびっ子達がそこをめがけて一生懸命走ります。そして先生や、生徒から記念品の入ったプレゼントをもらうのです。中には鉛筆、ノート、消しゴム、お菓子などが入っていて、子供達はそれが楽しみで一生懸命走ります。まだまだみんな体も小さくて、ひよこみたいで、観客席からは拍手や歓声、笑い声などが集まり、微笑ましい時間が過ぎるのです。
私は幼い頃から走るのだけは速くて、保育園の運動会でも、鬼ごっこでも負けた事がないのが子供ながらに自慢でした。
自分の番になり、余裕のぶっちぎりで飛ばしていたのですが、子供の社会も大人の世界も同じです、何があるか分かりません。私は半分くらいの場所で転んでしまいました。膝を擦りむいたのですが痛みは感じません。抜かされ抜かされ、やっと自分の状況を理解したのですが、みんな次々にゴールしていきます。私は座ったままの姿勢でそれをただ眺めていると、ゴールの方から女性の先生が、「ほら!!頑張って、最後まで諦めるなー!!」と手を振っています。私はほとんど無意識に立ち上がり、一人走ってゴールを目指しました。生徒さんの粋な計らいで、専用のテープが張られ、拍手とともに迎えてもらいました。私はなぜかワンワン泣いていて、恥ずかしくて悔しくて、どうしていいのか分からなくて、人目も気にせず声をだして泣来続けました。するとその先生がやって来てしゃがみ、私の頭を撫で、埃を払ってくれながらニコッと笑いました。「きみ、脚が速いね!保育園でもいつも一番の子でしょう?途中で転んじゃったけど、きみが一番速いってこと、ここにいるみんなが知ってるよ。たまたま転んだだけだから。それは速い遅いとか、勝ち負けには関係ないよ」そう言ってまた笑ってくれました。「はいこれ!特別賞あげるね」そう言って、箱の中からいちごポッキーを手渡してくれました。
「来年一年生に上がってくるの待ってるよ」
と、埃だらけのおしりを軽く叩いてくれました。いつの間にか涙も止まっていて、私は友達とプレゼントを開けてジュースを飲み、その戦利品のいちごポッキーをポケットに隠しました。
その先生は、小学校一年、二年の時の担任となりました。厳しくて、その何十倍も優しくて、みんなが大好きな先生でした。先生の専攻は音楽で、毎年行われる音楽会には特に力を入れており、二年生の時は、郡市の大会で優勝し県大会まで行く成績も残しました。噂を聞いた遠くの学校の音楽祭に招待された事もありました。私はひとつの曲の中で、木琴、バス木琴、大太鼓など、複数の役割を与えられました。練習の時何回も失敗して弱音を吐こうとすると、先生が「諦めない!!きみには出来ると思ったから先生は任せてるんだよ、転んでも最後まで走ったじゃないか、その時の気持ちを思い出しなさい!」そう言っていつも励ましてくれました。先生の指揮する顔をずっと見て、私はいつも演奏しました。言葉以上の後押しと鼓舞で、みんなひとつとなり、楽器を演奏していました。
三年生に上がる前の春休み、地元の新聞で先生の異動を知り、私はひとりで泣きました。涙を流したのはあの日かけっこで転んだ時以来でした。
私は今でもいちごポッキーが大好きで、ほんとに長い付き合いです。仕事の時も、買い物の時も、財布と同じくらい重要な役割を持っています。息子も娘も大好きなお菓子なので、味覚も遺伝するんだなぁと改めて思います。
一息ついたので、さて、イタリアのナポリを歩いていると・・とか、帰って来てからよく行っていた、当時の合コンでそのイタリアの話が・・など、書こうと思っていたのですが、少し長くなりそうなので、その話はまたいつかの機会に記事にしようと思います。
それでは皆様にとって、穏やかな、幸せ溢れる週末となりますように。
祈りを込めて・・