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紡いだことばたち。
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#現代詩

詩 37

次男が眠っている
離れると途端に目を覚まして泣いてしまうので
諦めて
私もぼうっとしている
身体をぴったりとくっつけて
鼻息を少し大袈裟に
顔に吹きかけるようにすると
安心するのか
また微睡みに溶けていく

私はもう、一切を諦めて
五本の指だけで
何が出来るか考えていたら
詩が一遍出来上がった

詩 36

*English version is below.

むっとするほど湿気を含んだ熱い空気
雷が切り裂く昼間の眠り
それを合図に
美しい雨が世界を濡らす

灰色の荒野の真中
旅人がひとり
立ち尽くしている

雨は旅人の身体を濡らし
火照りを鎮めてくれる

じきに夜がくるだろう

旅人は火を焚き
今朝仕留めた兎の肉を焼く
溜まった雨水で喉を潤し
土埃にうねる黒髪を洗う

幾夜も
こうしてひとり
繰り

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詩 33

空が泣いた日
娘は踊る
大地を蹴り
どこまでも高く

スカートの裾が果てしなく拡がる

雨粒の拍手が
娘を包む

娘は歌い、踊り続ける

足が潰れ
声が枯れても  

いつしか頭上には
光り輝く七色
それにすら気づかずに
娘は踊り続ける

黒髪を靡かせて

魂の赴くままに

やがて、朝が娘を迎えに来る
肉体はとうに明け渡した

その魂ひとつで
娘は踊り続ける

内側から渾渾と沸き続ける熱い泉

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詩 27「無題」 本文

喉の渇きに目が覚める
闇に包まれて
横たわる身体  

夜が雨音を強くする
あるいはそれは
内側の
寂しさに呼びかけてくる  

ふいに、耳に微かな泣き声
抱き上げた腕の中で
乳を探す幼児は
全身で
希望を象っている
睫毛のひとつひとつに
命を宿らせて  

死んでいく星と
誕生する星の
命の巡りを
眼裏に描く  

いくら言葉をさがしても
端から零れ落ちていく  

振り返っても届かない昨日は

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詩 25

詩は呼吸する

春の風が
波紋を広げる
池のほとりで
散っていく花びらを髪飾りに

詩は踊っている

一心不乱に

朝日がその横顔を
金色に染めて

詩は深く、深く呼吸する

詩 24

滔滔と流れていく日常

朝方
吐き出しかけた言葉を
夜にはひとり
弔っている

窓を開ければ
呑気な日差しが差し込んできて
一瞬、混乱してしまう

先の見えないトンネルに
行き場を無くした怒りが
満ちていく

退屈は感覚を麻痺させる

皆同じ顔をして
その怒りが
もう誰に向けられているのかもわからないまま
文字を打つ手は滑り出し
止められない

ゆっくりと閉じていく世界

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詩 23

空はどこまでも青く
無邪気に私を誘う

世界の異様さとの
コントラスト

春の匂いが鼻をかすめる

ああこれは
濃い
命の匂いだ

詩 22

弦を弾く指先
夜の呼吸に耳を澄ます
内側で、鳴り響く音

言葉は静かに強く
明日を紡ぎ出す
生きるために
守るために

「うちで踊ろう」
離れていても
音で繋がる

扉を閉じても
世界は広がる
呼応していく命が、明日を繋ぐ

何処にいても、僕らきっと
「重なり合えそうだ」

詩 21、または、友に贈る、この先苦しくなった時のための詩

思いに沈む横顔はいつも
漆黒の宇宙だった

世界が、こんなにも美しく潤んでいるのに

その頰を伝う滴を
いつか
両手で掬い取って
残らず飲み干せたらと
願うばかり

目を凝らして
世界は思っているよりもずっと優しい
深い森の眼をして
微笑みを口にたたえている

そうっと踏み出したその足は
左右を交互に出せば
前に進む仕組みなのだ







そうして、道ができる

誰にも消すことのでき

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詩 20

孤独が
どっしりと腰を据えて
私を眺めていた

白濁した片方の眼を
時々擦りながら

真夜中のキッチンは
私に他人の顔をする
昼間は私がここを治めていたはずなのに

孤独が
ゆっくりと息を吐く

しん、としたキッチンの床は冷たく

ぶうぉん、という冷蔵庫の
怠惰な音だけに

私は今、救われている
#現代詩 #詩 #孤独 #キッチン #真夜中 #poem #poesie #art #midnigh

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詩 19、または、ある芸術家に捧げる詩

筆をにぎる
長く、細い指

あたまのなかの
精と卵が
ひとつになって

命が、生まれる

あたたかな水をたっぷり含んで
ひろがる
色、色、色

ふくらむ かさなる ほころぶ つながる

まじわる ぶれる ゆらぐ たゆたう のびる

もつれる みちる かわく ねがう とびちる

ふいに両の手からこぼれだす 青
深く、深い その青

それをすくいとって
指先はまた動きだす

強く、しなやかに

その軌

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詩 18

いってしまった夜は
もう二度と
帰らない
目を凝らしても
薄闇に見えるは
ただその背中

それもすでに遠く
曖昧な輪郭だけが
微かに揺れている

新しい夜は何食わぬ顔で
私を迎えにやってくる

青白い静寂の中
背中を丸め
心細さを、抱いて眠る
#詩 #現代詩 #朗読

詩 15

熟れた月が部屋に満ちる

静かに揺らめく、魂
何もかもがさかさまに見える
ガラス玉の奥のほう

腫れあがる傷口みたいな日々を
愛さずにはいられない
#詩 #現代詩

詩 14

喉の奥から吐き出した言葉は
四角い部屋の中で
行き場を失って

ゆっくり と 死んでいった

寂しさの淵に腰かけて
もうどれくらい

風がカーテンを揺らす

隙間から見える細い月

青白い光が
横たわった私の頬を撫でる

もう手を伸ばしても
届くことのない場所へ行ってしまった背中

思い出してみる

指先で輪郭をなぞる

伸びた爪で
かろうじて
生を知る
#詩 #現代詩 #詩文