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旅先で食器を買う

旅行のお土産といえば、大人になってからはもっぱら食べものを選ぶようになった。

昔は「記念」としてずっと残るようなものを選びがちだったけれども、ずっと残ってしまうがゆえに、増える。

家具やカーテンに合うインテリアを選ぶセンスもなければ、うまく配置するセンスもない。
モノが増えると、掃除も大変になる。

せっかくの旅の思い出が、リアルにホコリをかぶっていくのは美しくない。
自分で管理できないぐらいなら、持たないほうがよいと個人的に思っている。

そもそも引越しの多い賃貸暮らし。
一つひとつは大したことなくても、数が増えれば引越し作業も大変になる。
それに、モノが増えれば増えるほど、モノを収めきるために広い家を選ばなければいけない。
それってモノのために家賃を払っているように感じられて、なんだかもったいなく感じる。

だから旅先のお土産といえば、食べものをはじめお香やハンドクリームなど、消耗品を選ぶようにしている。
…そもそも、帰りに荷物が重たくなるのもしんどいし。

∽∽∽

旅行ではないが、今月の帰省で中学時代の友だちと街へショッピングに出かけた。
買いものしたいという彼女にわたしがおともする形だったのだが、「じゃあねー」と手を振るときにはわたしのほうが多くの袋を手に提げていた。

とはいっても仕事で使うちょっとした収納用品や、買い増したかった洗濯ネットなど日用品ばかりだが、なかでもいちばん買ってよかったと満足しているものが、お茶碗である。

帰りの荷物の重さが嫌だというのに、あろうことか持ち運びにも気を遣うワレモノ。

もともと、お茶碗も買い替えたかったのだ。
もう長く使っているために、縁が少し欠けてしまっていた。
使いつづけるのには支障がないのだけれども、欠けたお茶碗は縁起が悪いなんて言うじゃない。そういうの、ちょっと気になるタイプ。

しかし、色も大きさも、手にしたときのおさまりもとてもよく気に入っている。
なかなか今のお茶碗に匹敵する素敵なお茶碗に出会えず、少なくとももう1年以上ずるずると使いつづけているのである。

雑貨屋さんで見かけたそのお茶碗は、今のお茶碗と大きさはほぼ同じだが、大きさ以外は手触りもデザインも色もまったく異なる。

でも、なんだか仲良くなれる気がした。
茶碗にも心があるなら、よい友だちになれるような感覚がした。

「それ、気になってるの?」と声をかけられて、我に返る。
どれぐらいこの茶碗の前で足を止めていたのだろう。

今、欠けた茶碗を使っていること。
欠けているけれどすごく気に入っていて、買い替えようにもなかなかいい茶碗に出会えないことを簡単に話した。

友人は「すぐ買い替えたほうがいい」と。
「毎日使うものだから、値段が高くなくても、気に入った、いいものを使いなさい。自分が毎日使うものを欠けたままほかっておくことは、自分のこともだいじにしていないように感じるよ」と。

中学校からの、わたしのことを(おそらく)誰よりも知っている彼女が言うからか、気づけばわたしの足はレジに向かっていた。
片手に仲良くなれそうな茶碗を持って。

∽∽∽

今日、はじめてお茶碗を使ってみた。
使う前に洗うときも、洗ったお茶碗を拭くときも、
「ああ、これは久しぶりに会った友だちと、懐かしい街へ買いものに行って、ひと目惚れして買ったお茶碗だなあ」と、お茶碗を買ったその日その時のことをありありと思い出す。

少しずつ冷めていくごはんが、いつまでもほくほくしている気がした。
ついおかわりをして、食べすぎてしまった…。

旅先で食器を買うのって、意外といいかもしれない。
毎日使うものだから、楽しい思い出を毎日思い出せる。
思い出のものだから、大切に使おうと思える。

温かいごはんが、より温かく感じる。

雑貨屋さんに連れていってくれて、
「すぐ買い替えろ」と背中を押してくれた友だちに感謝。
また買いもの行こうね。



今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたのお気に入りの食器は、どれですか?

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