研究者を大切にしない国の未来(2)ー「本気で感染症に向き合ってこなかった理由がここにある」
2022年11月6日付 朝日新聞「コロナ研究 日本低調」が示唆していることは?
新型コロナ関連の日本からの研究論文数は、上記データの通りG7(主要7ヵ国)で3年連続最下位の見通しのようだ。全てが万事、研究及び研究者に対する今までの日本政府の姿勢及び対応のあり方が招いた結果であろう。
日本の大学院生に対する社会の待遇ーoverqualified 資格過剰なる言葉に象徴される現状、研究者の研究環境ー若手研究者が研究できない現状、海外への頭脳流出、有期雇用など不安定な雇用状況、ポスドクの曖昧な地位、そして集中と選択などと称されて配分される不十分な研究費の実態。全てが日本の研究力の低下につながっている。
記事によると、他国との資金力の差がすごい。感染症研究に米国立保健研究所(NIH)は年間約6千億円なのに対し、日本の医療研究の司令塔役、日本医療研究開発機構(AMED)は年間約90億円、米国の67分の1である。こうした現状が、国産ワクチンや治療薬の開発が進まなかった理由の一つだと言っている。
さらに人員不足が指摘されている。2020年度の国立感染症研究所の常勤職員は360人。米国の疾病対策センターでは、全米と世界各地に医師や研究者など1万1千人いるそうだ。
記事の中で、大曲貴夫国際感染症センター長は、次のように述べている。
「感染症の専門家は少なく、必要性も理解されなかった。日本は感染症に本気で向き合ってきた国ではない。新型コロナが流行し始めた時、医療機関、研究機関、製薬企業の連携は乏しく、すぐに薬やワクチンができる体制になく、専門家同士のつながりもゼロだった」
欧米の場合、いち早くワクチンの開発につながった「mRNA」の技術が脚光を浴びたが、それは幅広く基礎研究の「タネ」に支援を続けてきた成果だと言う。欧米では1990代からすでにこの技術に着目し、技術革新が進んでおりこのパンデミックが起こる前から成功の土台があったという。
政府の有識者会議座長の永井良三氏は意見書での次のように述べて基礎研究の重要性を強調している。
「海外で治療薬やワクチンの開発がすばやく進んだ背景にコロナウィルスを科学的興味から地道に研究していた研究者の存在があった」
「科学的興味から地道に研究する研究者」の居場所は、日本の研究機関や大学にはあるだろうか。拙文「私たちはなぜ学ぶのか?」(4)で取り上げた人類学者磯野真穂氏の言葉が思い出される。
「研究とは元来、面白くワクワクするものだと思います。それは狙って生み出せるものではなく、その過程には、寄り道を許す、組織や研究者自身の余裕が必要です。でも、近視眼的な成果や実用性を求められると、寄り道は『無駄』と評価されてしまう。結果、ウケのよい研究テーマを選んで論文を書いたり、美しい報告書を短期間で作って体裁だけを整えたりして実績にしてしまう。やっている当人も『こんなことのために研究者になったんじゃない』と疲弊しているのではないでしょうか。」
そして、拙文「またしても日本の学校教育、大丈夫?ー研究者を大切にしない国の未来(続)」で雇い止めされた研究者の言葉。
「東大で一番偉いのは、18歳で東大に入学してから65歳の退官までずっと東大にいた人です。でも、そんなの絶対おかしい。色々な大学で研究し、人材を流動化した方が、研究の現場は活性化するはずです」
「科学的興味から地道に研究する研究者」が居続けられる研究環境を創出しないとこの国の未来は危うい😱