「涙」のメリットを感じる物語(森田碧:『余命0日の僕が、死と隣り合わせの君と出会った話』)
今回紹介する本は、森田碧さんの『余命0日の僕が、死と隣り合わせの君と出会った話』(ポプラ文庫ピュアフル)です。今作は「よめぼく」シリーズの4作目になる作品となります。姉妹作が増えると、森田さんの作品世界も広がっていくみたいで楽しいです。
今作は「よめぼく」シリーズらしい王道な要素に加えて、人々が創作物に触れて涙を流す理由や泣くメリットといった興味深い話題も含まれていました。個人的にはシリーズでも特に傑作ではないかと思っています。
多用される「泣ける」というキャッチコピーに違和感がある人、正直くだらないと感じている人に今作はぜひおすすめしたいです。いい意味で流す涙に対して知りたかった答えに出会える1冊になるかもしれません。(私はそうでした)
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主人公の慶は、一定量の涙を流すと死に至ってしまう「涙失病」のため、世の中にある様々な「泣ける作品」を避けて生きてきました。慶はふとしたきっかけで涼菜という少女と親しくなり、涙もろい彼女に協力してもらいながら「人々はなぜ涙を求めるのか」を探っていきます。
涼菜は「泣ける」作品に触れたり、嬉しい出来事に遭遇したりするとすぐに泣くという非常に純粋な性格の子かと思いきや、物語が進むにつれて彼女が心に隠していた弱さが見えてきます。姉を亡くした過去と戦い続ける涼菜を救いたいと願う慶の活躍と、読み手側もずっと忘れられない切なすぎるラストが胸に残る物語でした。
私は今まで「泣くこと」にあまり良いイメージを持っていませんでしたが、今作を読むと良い作品を読んだり見たりして涙を流すことも大切だと感じられ、泣くことに対するイメージがガラッと変わりました。
涼菜は、過去のトラウマで抑えられなくなる気持ちを本や映画などに触れて泣くことで紛らわせていました。よくストレス解消の方法を調べていると感動的な作品に触れて泣くのも良いと出てきますし、私もどちらかというと慶のように笑いを求めてしまうタイプですが、涙でストレスを発散する方法も試してみたいと思いました。
涼菜との出会いと別れを経験し、「泣く」という感情を取り戻した慶。彼女が起こした(かもしれない)奇跡は、慶に毎日を前向きに生きる気持ちを与えてくれました。これからも慶は涼菜との思い出に時折涙しながら、より強い心に成長していくと予感しました。
涙を流すスイッチは人それぞれですが、忘れられない思い出とか作品に対する共感、今の自分が欲しかった言葉が涙を生むのではないかと、私は今作を読んで考えました。
今作は私としては「泣ける」作品ではありませんでしたが、上記の引用箇所でいう「いい作品」に該当するのは確かだと思います。むしろいろんな感情と共存しながら前向きに生きてみたくなる作品でした。