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詩的実験

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【詩的実験】を集めたものです。
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記事一覧

【詩的実験】ナチュラル・ビーナス

【詩的実験】ナチュラル・ビーナス

曇天の空がひろがる広場に
たくさんの人がはしゃいでいるなかに
わたしとあなただけの舞台が設置された
足下に 淡いスポットライトが照らす会話劇
暗闇のなか 二人で微笑み合う黙劇

わたしはあなたに
何か伝えたいことがあるはずなのに
言葉にできずにいる
一滴の雫のあなたが
わたしの海に落とされる

夜 永遠で一瞬のときを
あなたはわたしに差し出す
わたしはあなたの掌に触れようとするが
どうしてもできな

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【詩的実験】秋の午後

【詩的実験】秋の午後

ベランダに出て確認する秋は
祈りと泡の金木犀
 
秋気をさまよい歩く
ずっとこうしていたみたいに
陽が翳り
だれかの口笛が聞こえる
四辻にさしかかり
どちらへ帰るのかわからなくなる
 
自宅の灯りが
冷たい手をあたためる
ふっと さっきまで外にあった寂寥が
どっと 今わたしに襲う
 
毛布にくるまり ぬくもりでまどろむ
夏の魔物に見守られて
ここは秋

【詩的実験】神経症

【詩的実験】神経症

畳なわる笑い声が
ぼやぼやと耳の中に拡がり
飛び交う話し声が
はらはらと頭の中で消失する
わたしはどっちつかずで
曖昧な顔しかできなくて
つまらない
そんなわたしがつまらない 

それでもひとのぬくもりを求めてしまう
わたしの心は未熟である
未熟ゆえに
ひとのぬくもりさえも捕らえられず
それでまた求めての繰り返し

大切なものを愛せるつよさがほしい
そのための 空腹の耐久
くすりを多量摂取しながら

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【詩的実験】家から駅まで

【詩的実験】家から駅まで

熱と湿気が同時に襲う八月下旬
仕事のために駅まで歩く
少し歩いただけなのに
シャツの胸の部分には
汗が大きく浮き出てきて
もううんざりだ

小学生は
こんななか運動をするのか
ときには泥だらけになって
ソックスは汗臭くなり

わたしにもそんな時分があった
そのときのこころなど忘れて
こんなにもちっぽけになってしまった

駅まで歩くわたしの頭の中はもう
冷房が効きすぎるほどに効いている
電車の中で涼

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【詩的実験】父方の祖父母

【詩的実験】父方の祖父母

二〇二〇年の正月に
父方の祖父母に一人で会いに行った
一人で会いに行くなんて
いままでなかった
なぜ行こうかと思ったのか
もう忘れてしまった

祖父母はわたしたち孫と会うと
いつも同じ話をする
祖母に関しては ぼけてはいないが
わたしに いつまでも子供のように接して
祖母のなかでは
わたしは中学生から成長していないようだ

いつものように同じ話をする祖父母が
ひとつ いつもと違う話をした
「おじい

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【詩的実験】再会

【詩的実験】再会

涙ぐむ月のようなあなたが
きれい
なぜあなたがそんなふうなのか
わかるようでわからない
あなたもきっと同じ気持ちでいるように

わたしはとぼけた名のない星のようで
恥ずかしい
だがどんなふうで居ればいいのか
わからない

あなたは変わらず
岩のように頑固だった
そしてもちろん風化もして
前より丸みを帯びているだろうが
見抜けなかった

あなたと出会ってからちょうど一年経つ
あなたとの邂逅を無下にし

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【詩的実験】地球外生命体に関する仮説

【詩的実験】地球外生命体に関する仮説

秋夜の川沿いの遊歩道
歩いても歩いても
りいりい、りいりい
虫が鳴いている
音から察するに
とてつもない数がいるぞ
だが
虫の姿をなかなか認識できない
お前らは本当にいるのか
もしかしたら
一匹もいないのではないか

なにもないところから音が発せられる
それはきっと地球外生命体の仕業だ
あなたはわたしの仮説をわらうだろうか
わらえばいい

わたしの仮説では
地球外生命体は
もう地球のそこらかしこに

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【詩的実験】逃走

【詩的実験】逃走

たくさんの箱の乱立
箱の中
繰り返される質疑応答
際限なしに続く競争
鳴り止むことのない電話
わたしは箱の外から見てる
あなたが箱に放られるのを

あなたは繰り返される問いに
稚拙な答えを出し続ける
際限なき争いに
ふるい落とされないように必死である
もちろん電話には出れず
鳴り止まない電話の音が
やかましい

わたしは逃走した!
必死に
箱の波を掻き分け
掻き分け
それでも押し寄せる
箱の波

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【詩的実験】薔薇

【詩的実験】薔薇

わたしの指から滑り落ちていく薔薇の花弁は
ずたずたに切り刻まれて
もう
花弁とは言えないほどになってしまったのに
切り刻むのをやめないあなたの手
それを見せられるのは
わたしたちを非常に苦しめる
花弁はわたしの指から滑り落ちた時点で
もうわたしのものではなく
誰のものでもないのだから
舞い散る花弁は美しい
しかし
あなたは花弁をみなの手から横取りした
切り刻むという非常に無残な手段で

花弁は希望

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【詩的実験】生の呪文

【詩的実験】生の呪文

わたし自身の死に想いを馳せる
足が竦んでゆらゆらする
この感情は
わたしの意識の中に
混沌としている部分がある所以である
その混沌としている部分は
ときにわたしに
死の径へと進もうとする感情を
起こさせる
これは正常な狂気である

死を選び闇へと飛び込んだ
名も知らぬ人に想いを馳せる
その人の狂気は正常ではなかったのか
わからない
その人は生の道を選ぶべきだった
なんて言えない
その人は自分という

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【詩的実験】極暑の夏

【詩的実験】極暑の夏

ベランダに出て
干してある洗濯物を取ろうとすると
カンカンに照る太陽が
わたしを刺して
蒸し風呂に居るかのような湿り気が
わたしを包み
とても散歩になんて出られないなあ
と思わせる
休日の午後一時 

仕方なく
クーラーでキンキンに冷えた部屋で
もう一度
眠ることにする
そういえば
この夏は
蝉の声を聞いた覚えがないなあ
とベッドで横になりながら
思う
それは私が
ほとんど家に居るからか
それとも

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【詩的実験】嗤う

【詩的実験】嗤う

年中工事中の渋谷駅周辺に
何も感じなくなった者は
愚かである

型にはまるのを拒み
ヤンキーと呼ばれるようになった者は
滑稽である

詩人による
素人作の詩に対する批判ほど
つまらないものはない

きっとこうして
わたしも誰かに
嗤われているのだろう

しかし
わたしは誰かを
嗤い続ける

だって
生きることは
恥ずかしいことなのだから

【詩的実験】(月曜日…)

【詩的実験】(月曜日…)

月曜日
挨拶交わす 日曜日
二人夢見る いつの日か
日が変わるとき 肩並べ
二人三脚 してみたい

こちらのシロクマ文芸部の企画に参加させていただきました。

「月曜日」というテーマが難しかったです。
詩と呼んでいいものかわからないものを作りました。