【掌編小説】地下へ迷い込んだ女
地下の一室に、今日も人が漂っている。大半の人は酒か煙草を片手に、もう片方の手にはスマホを持ち、暗い顔をそこに落としている。次のバンドの演奏の準備をするこの時間、人々はそれぞれの時間を退屈そうに過ごしている。女は会場の後ろの方で、両手で持つ、氷が解けて薄まったハイボールを見つめていた。そこへ急に、男がやってきて「やあ、今日はどのバンドが目当てで来たの?」と、馴れ馴れしく女に声を掛けた。「……上の看板をたまたま目にしてふらっと入っただけなので、どのバンドが目当てとかは……」「そ