坂の途中
桜を見上げる
ひとりで、ときには、ふたりで
本ばかり読んで、周囲から偏見の意を込め
文学少女、と呼ばれているわたしと
わたしの学校とは別のとこの男の子
たぶん、野球部、なのかな
学校から家へ向かう坂の途中、大きな桜の木がある
運動がまるっきりダメで、体力のないわたしは
坂をのぼるのに疲れ、決まって、その桜の木の下でひと休み
息と気持ちが整ったら、桜の木を見上げてみる
見上げながら、詩のようなものを頭の中に流してみたり
何やら物語じみたものを想像してみたり
その男の子は、坂を下からダッシュでかけてくる、さすが野球部
大きな桜の木のとこで、いったん休憩
はあはあ、はあはあ、口から出ている
その口に水分を含ませる
男の子は、わたしからちょっと離れたとこに立ち、桜を見上げる
何かを話すことはない
互いの名前も知らないふたり
たいがい、わたしの方が先に坂をのぼり出す
あとからかけてくるその男の子が、あっさり抜いていく
坂のてっぺんで、その男の子が待っていてくれたことは、まだ一度もない