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【詩】生きている限り

仕事中に受けた祖父の訃報
危篤なのかと思ったら過去形だった
指が震える
でも心は冷静だった
どうでもいい仕事だけど
キリのいいところまではやらなければ
そう思ってとりあえず仕上げた

病院に着いた頃にはもう
祖父は霊安室の
大きな冷蔵庫みたいな銀の扉の中にいて
死に顔も見せてもらえないまま
無理やりお線香をあげさせられた
何も言葉が浮かばない
当たり前だ
まだこれは現実的ではない
私は何も見ていないのだから

祖父が入院した時に着て行った服
入院中ずっと使っていたカップ
杖、パジャマ、スリッパ、眼鏡、時計、ラジオ…
てきぱきと運び出す父と母
一言も喋らない祖母
私はその日に限って
ハンカチを忘れて出勤していた
父はいつもと変わらないようでいて
サイドミラーも出さずに運転し
家に着くまで気づかなかった

誰かが亡くなっても残された人は
今まで通りに生活していかなければならない
家に着いてみんな
取り憑かれたように何かを食べていた
その後私は妹と犬の散歩に行った

葬儀屋が来て廊下で電話をしている
暗くなっても私と妹は
電気も点けずにずっと椅子に座っていた

5月にしては妙に蒸し暑い日だった
その夜から私は
おじいちゃんを守ってくださいと祈るのをやめた

©2023-2024 alice hanasaki

※この作品は創作であり、
私生活とは関係ありません。

※ Yukitaka Sawamatsu さま
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