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「好き」を思い出すことで、自分を取り戻す

自慢ではないが、定期的に通っている行きつけの病院がたくさんある(本当に自慢にならない)。
消化器内科、心療内科、産婦人科、眼科などなど。それぞれ1〜3ヶ月に1度の頻度で受診している。
「あれ?最後に病院行ったのいつだったかなぁ」
と言えるくらいの健康を手にしたいものだが、まぁないものねだりはしませんよ。それでも、少しずつ受診の頻度が減っていくといいなぁ。

これまでいろんな場所のいろんな病院を受診してきた。
地元にある小さな病院や都内にある大きい病院など、さまざま。数えてみたら、30以上の病院にかかっていた。一般的にどれくらいの数の病院にお世話になるのかは知らないが、割と多い方かもしれない。
たくさんの病院にかかってきた理由は、引っ越しとか医者との相性とか。いろいろだ。自宅の引き出しには、行き場を失った診察券たちが眠っている。

引き出しを開けるたび、「あぁ、そろそろ捨てなきゃな」と思いつつも、「まぁ、また今度ね」と先延ばしにしてきてもう何年も経つ。
以前住んでいた遠い町の病院の診察券なんて、今後二度と使わないのにね。わかっていながらも、なかなか捨てられない。捨てられないどころか、100円ショップで買ったカードホルダーに1枚ずつ無駄にきれいにしまってある。診察券コレクターなのかもしれない。

診察券と同様に、なかなか捨てられないのがポストカードである。
学生時代、ポストカード集めに夢中だった。
旅行先のお土産屋さんに売っているものから、お店のレジ周りに置いてある「ご自由にお取りください」系のもの、展覧会やイベントで販売されている作家さんのもの。
ポストカード専門店に足を運び、好きなデザインのカードを何枚も購入したり、海外出張が多かった父にポストカードをねだったり。国内外のありとあらゆるポストカードを集めてきた。
時には、自分で撮った写真や描いたイラストを紙にプリントアウトしてわざわざ自作のポストカードを作ることも。とにかく「ポストカード」が大好きだった。
コレクションしたポストカードは、無印良品で買ったカードホルダーに1枚ずつ収納している。メッセージカードとして使うこともあったけれど、基本的には観賞用。少しずつ分厚くなっていくホルダーを開いて眺めては、「集めたなぁ〜」とほくほくした気分になるのだ。くすぐられる、収集心。どんどん増えていく、ポストカードコレクション。

大きすぎず、小さすぎない、程よいサイズ感がいい。A4でもB5でもなく、「100mm×148mm」というサイズの絶妙さ。かさばらないから、特にお気に入りの一枚をスケジュール帳に入れて持ち運ぶこともできるし、フレームに入れてインテリアとして楽しむこともできる。一時期は、壁に飾るポストカードを気分次第で入れ替えたりして、楽しんでいた。

これほどハマっていたポストカード集め。
実はつい最近まで、好きだったことを忘れていた。

先日、友人と出かけた時にたまたま入ったお香のお店。
通りがかりにいい香りが漂ってきて、香りに誘われるまま入ってみた。店内はおしゃれなギャラリーのような雰囲気。壁一面にフレグランススプレーやキャンドル、お香などが整然と並んでいる様は、実験室を彷彿とさせる(店員さんの制服が、白衣っぽかったのもあるかも)。
店内中央には、ハンドベルのような形をしたガラスの容器が並ぶ、大きなカウンターが存在感を放っている。ガラスの下には、人差し指サイズの墨みたいな直方体が鎮座。お香のテスターらしい。いかにも繊細なガラスの容器をおそるおそる持ち上げてみると、ふわっといい香りがした。
おしゃれな空間にちょっと気圧されつつ、ゆっくりと店内をまわっていく。友人と「いい香り〜」「どんな匂いが好き?」なんて会話しながら、いろいろな香りを嗅いでいたらだんだんと嗅覚が麻痺してきた。嗅ぎすぎて、全部同じ匂いに感じてきたぞ。
休日ということもあってか、店内はお客さんで賑わっているし嗅覚も麻痺してきたし、外へ出ることにした。散々嗅ぎ回っておいて、手ぶらで出るのにちょっと申し訳なさを感じながら。
レジカウンターの前を通りがかると、ポストカードを見つけた。水墨画のような抽象画で、ものすごく好みのデザインである。

これは、「ご自由にお取りください」系のポストカードだ…!

ついつい手が伸びつつ、近くにいた店員さんに一応「これ、いただいていいんですか?」と聞いてみたら、快く了承してくれた。
ポストカードのデザインをした作家さんのことも教えてくれた。女性の作家さんらしく、ブランドのアートワークを手がけている方とのこと。レジカウンター奥の壁に掛けられた、瀟洒なアート画もこの作家さんが描かれたらしい。なんてアーティスティック。
ありがたく頂戴し、お店を後にした。今度は人が少ないであろう平日に、じっくりとお店に来ようと心に誓いながら。

ある日、カバンの整理をしていたら、くだんのポストカードが出てきた。そういえば、もらったことを忘れていた。

あの日は楽しかったなぁ。あのお店素敵だったなぁ。

ポストカードを眺めながら、ちょっとの間、思いを馳せる。

そうか、と。

私はこの感覚が好きだったのだ。
ポストカードを選び取った時の空間、見つけた時のわくわく感、一緒にいた人のこと。一枚一枚にエピソードがある。100mm×148mmというサイズを超えて、立体的に思い出が蘇ってくるのだ。

だから捨てられないのだろう。
思い出も一緒に、捨てちゃうことになりそうで。

無印のカードホルダーに、また一枚。捨てられない大切なポストカードが仲間入りした。
写真アルバムをめくるように、ページをめくりながら目を細める。ポストカード集め、好きだったな。

いつの間にか忘れていた、好きなもの、好きなこと。
日常の「やらなきゃいけないこと」に追われているうち、あっという間に忘れてしまう。だんだん「役に立たない」「無駄」と思うようになって、どんどん日常の隅に追いやって、埃をかぶっていく。好きなもの、好きなことに素直でいることって、難しい。

好きなもの、好きなことを思い出すことは、「自分」というパーツをひとつずつ拾って、丁寧につないでいくことなんだと思う。私にとって、仕事から離れて休養している今の時期は、自分パーツ集めの時期でもある。

ポストカード集めも、忘れていた好きなことの一つ。
今度、電車に乗って専門店へ行ってみようか。

好きなことに思いを巡らせて、胸弾むのだった。

イラストbyあっこ
お気に入りのポストカードたちを描きました。
いろんなカードがあって、眺めているだけでわくわく。

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