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ロックを支えた伝説のアート集団

以前の記事ではロックミュージックと深い関わりのあったアーティスト アンディ・ウォーホルと彼がプロデュースしたバンドヴェルベット・アンダーグラウンドを紹介しました。
バナナのアルバムジャケットが印象的なやつです。

今回紹介するのはロックを支えた伝説のアート集団ヒプノシスです。
ロックミュージックが好きでも、アルバムジャケットの製作者までは気にしたことがなかったという人もいるかもしれません。
そこで視覚的なアートの視点から見たロックの魅力を伝えていきたいと思います。

ヒプノシスの有名な作品としては、10cc「夢ゆえに」やピンク・フロイドの「狂気」などがあります。

バンTでもよく見るやつ。。。

他にも、ポール・マッカートニー、レッド・ツェッペリン、AC/DC、ジェネシス、デフレパード、ローリング・ストーンズなど数多くのレコードジャケットに携わっています。

レコード・ジャケットのざっくりとした遷移

では、なぜ彼らのアートワークは高く評価されたのかを探っていきましょう。

そもそもレコードジャケットはレコードを衝撃から守るためのただの包装紙でした。
1895年にベルリナーが発明した円盤型の蓄音機は19世紀のうちに発売になり、それまであったの円筒型のものよりも長く録音することが可能になりました。
ゴム製からシュラック主体のレコードは、当初はカバーが無い状態で売られていましたが、1910年ごろには紙袋に入れての出荷販売が普通になりました。


その後、本格的なレコードジャケットを作ったのはレコード会社ではなく、レコード販売店であり、78回転のクラシック盤に初めて特定のレコードジャケットが誕生しました。
1939年になると、アルバムブックの表紙にアーティスト写真や絵柄が登場し、翌年にはクラシックや白人音楽、黒人音楽がカバーで判断できるようになっていきました。


1960年代半ばになるとビートルズなどの影響によりロックミュージックが大きな勢力となりました。
この頃大きく注目されたのがビートルズによる初のコンセプト・アルバム「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」です。

ザ・ビートルズ『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』



皮肉や折衷主義といった要素がジャケットというメディアにとてもマッチしていました。

そして、60年代後半にはサイケデリック時代がやってきます。
またまたビートルズを例に出すなら、「ラバー・ソウル」がその時代の最も初期のスタイルとなります。

ザ・ビートルズ『ラバー・ソウル』

歪んだような写真に歪んだレタリングは幻覚を見ているかようなデザインとなっています。
クリームの「Disrael Gear」やジミ・ヘンドリクスの「Axis Bold As Love」の派手さは際立ちます。

クリーム『Disraeli Gears』


1960年代末になるとイラストに取って代わって再び写真が重要視されるようになりました。
そしてだんだんとジャケットというメディアが持つ”情報を提供する”という本来の性格が薄れていきました。
60年代以降のジャケットデザインの傾向はサイケデリック時代のスタイル反発か、それを発展させたものが主流となりました。
スッキリorごちゃごちゃみたいな感じです。


ヒプノシス

お待たせしました。
この頃に現れたのが冒頭でご紹介したアート集団ヒプノシスです。

ヒプノシス(Hipgnosis、1968年 - 1983年)は、イギリスのデザイン・アートグループ。メンバーはストーム・トーガソン、オーブリー・パウエル、ピータ ー・クリストファーソン。

Wikipediaより

これまでのアルバムジャケットにはミュージシャンのルックスやタイトルなどを伝えるだけの媒体でした。
しかしながら、彼らが登場したことによりレコード・ジャケットにアート性がもたらされたのです。

黒人の労働歌から生まれたブルースを親に持つロックミュージックは、エルヴィス・プレスリーらにより白人にも受け入れられるようになりました。
そうして発展した大衆向けの音楽として人気のあるロックミュージックは、1960年代末には前奏に数分かけるような壮大なものが生み出され始めます。
よりアート性を重視してハイカルチャーに挑んだプログレッシブ・ロックと呼ばれるものです。

当然彼らはレコード・ジャケットにもアート性を求め、ヒプノシスはここでぶっ飛んだアート性を発揮するのです。


タイトルも顔写真もないこちらの作品。

ピンク・フロイド「原子心母」

これを見ただけでは誰の作品かわからないという音楽商品として大切な部分を完全に無視した驚くほど挑戦的なアートワークです。
しかし、これが功を奏し、ピンク・フロイドの名盤となっただけでなく彼らをスターの道へ導いたのでした。
ちなみにこのアルバムの表題曲は23分に及び、レコードのA面分のとても長い曲となっています。

このシュルレアリスムの作品とも呼べ得るレコードの数々のアートワークはレッドツェッペリンやポール・マッカートニーら数多くのミュージシャンにより、世界的に出回ったことは美術界においても重要なポイントとなりました。

YouTuberでミュージシャンであり、音楽評論家でもあるみのさんの動画もおすすめです。


以上、今回はロックを支えたアート集団「ヒプノシス」についてでした。


おわり

参考文献
・ストーム・ソーガソン/ロジャー・ディーン編 『レコード・ジャケット・カタログ』, 講談社, 1979年
・オーブリー・パウエル 『ヒプノシス・アーカイヴズ』, 河出書房新社, 2014

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