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明石わかな | 本
2022年10月19日 23:40
この話は、美しく成長した幼なじみの真佐子に挑発され、華やかで目を引く金魚を作りだそうと、一心不乱に努力をする青年の話です。小説の短編集を図書館で借りてきたんですが、その中にあった岡本かの子さんの『金魚撩乱(きんぎょりょうらん)』について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。この小説は、もともと金魚を売り生計を立てている家に生まれた青年が主人公であり、幼なじみの女性にあおられ、金魚の交配
2022年10月10日 14:13
この作品は、冬の蠅と自分を重ね合わせながら、透明感のある文章で倦怠感を描いた話です。梶井基次郎は『檸檬』という小説が有名ですが、今回は『冬の蠅(はえ)』という檸檬にも通じる小説について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。この小説は、患っていた病気と、将来への不安からくる倦怠感や焦りを、部屋にいた冬の蠅に自分を投影し描いた作品です。作者の梶井基次郎は、昭和時代には治らない病気とされ
2022年9月23日 15:28
この話は、家族も仕事も失った五十代の男性と、たまたま乗り合わせたタクシー運転手と話す中で生まれた、理系の要素と情緒的な感傷を織り込んだストーリーです。この本は短編集なのですが、本のタイトルにもなっている『月まで三キロ』という話について、ネタバレ含みつつ考えたいと思います。この話は、五十代の男性が、自分の半生を振り返り暗い気持ちのまま自殺を考え、自殺の名所といわれる富士山麓に出ようとタクシー
2022年8月11日 18:55
この本は、うっすら毒のあるユーモアを入れながら、医療をテーマに家族の感情を描いた小説の短編集です。この短編の中の『ディア・ドクター』について、あらすじを書きながら考えてみます。この話は、長く外科医を務めていた父親に対する、息子の感情の揺れ動きを書いた作品です。主人公はカメラメーカーの開発研究室に勤めており、主人公の父親と兄の微妙な距離感のある関係性を、主人公の目線から書いていっています。
2022年8月8日 14:53
この本は、軽い気持ちでスリをやっていた青年が、スリの腕を見込まれ大きな仕事を手伝うようになり、悪に飲み込まれていく話です。スリというのは、街中で人にぶつかったりした隙をつき財布をとる、盗みの一種ですね。中村文則さんは人間の「悪の部分」を描くのが上手い作家のひとりであり、この話も読む側が暗い世界に入り込めるよう、多くの工夫がなされた小説だと思います。あらすじを書いていくと、スリの腕が抜群
2022年8月4日 17:01
この本は、富士山の近くで過ごした日々の一部を切り取った小説です。太宰治は『人間失格』など、自意識を前面に出した暗い思考を書いた作品が多いですが、どちらかというと明るい雰囲気の小説です。浮世絵に描かれる富士や、他の山から見た鈍い富士の印象を書きながら、茶屋の娘さんや青年たちとの交流を描きつつ、話は進んでいきます。この小説は、太宰治がじっさいに山梨県に滞在していたときのことを元にして書いたと言