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記事一覧
【読み物】散文|ナイトサイクリング
深夜、誰もいない交差点でもちゃんと赤信号を守るのはおれくらいなものだと思う。この時間は昼間と違って涼しくて助かる。電車じゃ見られない街の景色が自転車に乗っていればよく見える。
大事なプレゼンの前に音楽を聴かなくなったのはいつからだっただろう。音楽がなくてもスイッチが入れられるようになったのか、そもそも奮い立たせる必要がなくなったのか。
石橋をみんなが渡れるように、誰にも見られないところで叩いて
【読み物】沈黙義塾-秘すれば花-
都内某所、区民ホールの3階、とあるセミナールームではこの日大きな期待感と少しの緊張感が渦を巻いていた。午前10時20分、既にここには10名弱の男女が集まっていた。中央に置かれた石油ストーブを囲むように並べられたテーブルには、なぜか『週刊新潮』が一人一部ずつ置かれている。無言で座る彼らはそれを手に取ってみたり、スマートフォンを操作したりしながら、それぞれセミナー開始時刻を待っていた。
席に座る。隣
【七夕の読み物】新訳 ブラザー軒
田舎から出てきて10年、東京で忙しく働いている。「忙」という字は、「心を亡くす」と書くと、いつかどこかで聞いた記憶がある。適当なネットニュースだったかもしれないし、毎週金曜日に飲みに行く馴染みの店だったかもしれない。いつどこで聞きかじったかは忘れたが心に残っているということは、すなわち自分にとって真理であるということだろう。事実、故郷を想う暇もないし、自分が本当にやりたいことも忘れかけている。まさ
もっとみる【読み物】坂をのぼれば
2022年お盆。その日は日中こそ猛暑日だったが、日が暮れたら暑さがある程度やわらぐ、そんな気候だった。夏が終わる、そんなものさびしい予感に居ても立っても居られず自転車を漕ぎだす。J-POPの歌詞みたいな安い動機でいまの状態をあらわしてみたものの、とにかくおれには金がない、というのが実際のところ。夏の終わりのものさびしさに呼応してかせずか、おれの懐もまたものさびしい。会社の給料は月の前半には消えてし
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