
仮想読書会:「世界の本当の仕組み」バーツラフ・シュミル著の(5)リスク
***** 【 仮想読書会が初めての方へ 】 ******
■6人のキャラクターとの仮想読書会 ~AIと創る新しい読書体験~
■「仮想読書会の進め方」と「このnote」
*******************************
【 今回の仮想読書会の範囲 】
「世界の本当の仕組み」バーツラフ・シュミル著
第5章 リスクを理解する—ウイルスから食生活、さらには太陽フレアまで
※引用に適した文字量などの事情もあり、元の書籍にある詳説のほとんどは、読書メモから割愛しています。今回の範囲に限りませんが、具体的な話や数値など、詳細に興味をお持ちで未読の方は、是非、ご自身でお読みになることをお薦めします。
【 読書メモ(引用、問いなど)】
・だが、以前より肉も脂肪も糖類も多い食生活に加えて、心臓を守ってくれるはずのワインの消費の急減もありながら、スペインの心疾患系疾患死亡率は下がる一方であり、寿命は延び続けている。
1960年以降、スペインの心疾患系疾患死亡率は、富裕国の平均よりも速いペースで下がっており、2011年には平均と比べて約3分の1少なかった。
そして、1960年にはスペインの男女総合の平均寿命は70年だったが、それ以降、13年以上も延び、2020年には83年超となっている。
これは、日本の平均寿命よりもわずか1年短いだけだ。
その1年のために、肉を半分に減らして、豆腐に変えるだけの価値が、果たしてあるだろうか?しかも、その1年は、心身の一方か両方が衰弱した状態で過ごす可能性が高いというのに。(p.231)
・原子力発電絡みのリスク認識で最も驚くべき対比は、フランスとドイツを比べた時に見られるかもしれない。
フランスは1980年代以降、70パーセント以上の電気を核分裂から得ており、60近い原子炉が国内に点在し、(中略)フランスを流れる多くの川の水で冷却されている。
それにもかかわらずフランスはEU内ではスペインに次ぐ長寿国であり、これは、これらの原子力発電所が不健康や早死にの明確な原因になっていないことの、最高の証拠だ。
ところが、ライン川の向こう岸では、ドイツの緑の党だけではなく社会のずっと大きな割合が、原子力は悪魔の発明であり、できるかぎり迅速に廃絶しなければならないと信じている。
だから多くの研究者が、「客観的なリスク」は存在しないと主張してきた。測定しようとしても無駄で、それは私たちのリスク認識が本来主観的であり、特定の危険(馴染みのあるリスクと新しいリスク)の受け止め方や文化的状況次第だからだ。(中略)
リスクの認識では、恐怖感が並外れて大きな役割を果たす。(p.234-235)
・(前略)非自発的にであれ自発的にであれ、人が特定のリスクにさらされている時間のほうが、尺度の基準として見識のあるものとなる。
そして、暴露1時間当たりの単位人数当たりの死者数で比較すればいい。(p.241)
・幸い、このような高い死亡率は、医療過誤ではなくデータ処理の誤りに起因する。医療の有害な影響(AEMT)に関連した死亡についての最新の研究によって、事実が明らかになった。
1990~2016年に医療過誤(主に手術のミスと手術前後のミス)によるアメリカの病院での死亡者の数が12万3063人であることがわかった。
つまり、21.4パーセントとされていたAEMTによる死亡率が、実際には10万人当たり1.15人だったわけだ。(p.245)
・強力な竜巻による破壊の爪痕の画像は広く報道されるので、大気の状態がそこまで荒々しくない地域に住む視聴者は、被災地の人がなぜ同じ場所に家を再建すると言うのか、不思議に思う。
だが、そのような判断は不合理でもなければ、向こう見ずなまでにリスクが大きいわけでもない。
そして、その判断があるからこそ、(中略)「竜巻街道(トルネード・アレー)に、何百万、何千万もの人が住み続けるのだ。
注目すべきことに、世界各地でよく出合う他の自然災害に対する暴露リスクを計算すると、やはりみな10-9という同じ桁か、それよりもなお低い割合になる。(p.254)
・1980年代までは、災害被害者の増加は主に、人口増加と経済成長の結果として暴露が多くなったことに帰せられた。
この傾向は持続しており、災害に見舞われやすい地域に、以前より多くの人が暮らし、以前よりも多くの資産に保険を掛けているが、過去数十年間には、自然災害そのものが変化してきた。
以前よりも温度の高い大気には、含まれる蒸気も多く、極端な降水の可能性が高まっている一方で、旱魃が長引いて、並外れて長く続く猛烈な火災が繰り返し起こる地域もある。(p.257)
・即時の死者は出さないものの、地球全体に大混乱を引き起こし、間接的に大勢の死傷者を出すことになる自然のリスクのうち、代表的な例は、コロナ質量放出が原因の壊滅的な磁気嵐かもしれない。(中略)
コロナ質量放出は、爆発的に加速した何十億トンもの厖大な量の物質の放出であり、磁場を孕んでおり、その強さは背景太陽風や惑星間磁場の強さをはるかに上回る。
コロナ質量放出は、層の低い部分で磁場がねじれ、再構成されるときに始まり、太陽フレアを生み出し、遅いと秒速250キロメートル未満で、速いとほぼ秒速3000キロメートルで、拡がりながら進む。
前者の場合には、地球に7日間近くかけて、後者の場合にはわずか15時間で到達する。(中略)
今日大きなコロナ質量放出が発生したら何が起こりうるかの予告編に相当するものが、89年3月に見られた。
このとき、キャリントン・イベントよりも格段に小さいコロナ質量放出によって、600万人に電気を供給しているケベックの送電網が9時間にわたってまったく使えなくなった。
それから30年以上が過ぎ、私たちの脆弱性は桁違いに増している。
携帯電話から電子メールや国際銀行業務まで、電子されているもののいっさいについて考えてほしい。
そして、あらゆる船や飛行機に加えて、今や何千万台の自動車にも装備されている、GPS誘導のナビゲーションのことを思ってほしい。(中略)
たとえ被害が限られていたとしても、通信や送電が何時間も、あるいは何日も乱れ、大規模な磁気嵐のせいで世界中の通信や送電のリンクが寸断され、電気も情報も交通機関も止まり、私たちはクレジットカードで支払うことも、銀行から現金を下ろすこともできなくなるだろう。
これらのきわめて重要なインフラが著しく損なわれ、完全に復旧するまでに何年も、ひょっとすると10年さえもかかるとしたら、どうすればいいのか?全世界の被害総額の推定は、2兆ドルから20兆ドルまで1桁の差があるが、それは費用だけの話であり、通信や照明、エアコン、病院の設備が使えず、冷蔵や冷凍もできず、工業生産もなしで(つまり、穀物栽培に必要な製品も十分に得られずに)過ごす長い期間に失われる人命の価値は、そこに含まれていない。(p.262-264)
・私たちは、お馴染みの自発的なリスクを日頃から過小評価する一方、馴染みのない非自発的なリスクへの暴露はたびたび誇張する。(中略)
約10億人が3つのパンデミックを生き抜いたにもかかわらず、新型コロナに襲われたときに引き合いに出されたのは、1918年の事例であることが圧倒的に多かった。(p.271)
・(前略)その事実を冷静に受け容れられない結果、肝を冷やすようなテロ攻撃が再び起こるのではないかという恐れに促されて、アメリカはそれを防止するべく、さまざまな非常措置を取った。
その一環が、何兆ドルもの資金を投じたアフガニスタンとイラクでの戦争であり、アメリカは長期的には国力を削がれるような、驚くほど非対称的な紛争に引きずり込まれ、まさにウサマ・ビンラディンの思う壺となった。
リスクに対する一般大衆の反応は、実際の結果の比較評価よりも、馴染みのないものや未知のもの、理解が乏しいものに対する恐れに大きく左右される。
そのような強烈な感情的反応が絡んでいるときには、人々は実際に起こる確率を念頭に置こうとするよりも、テロ攻撃あるいはウイルス性感染症のパンデミックによる死といった、恐れている結果の確率を過剰に重視する。
テロリストは常にこの現実につけ込み、政府がさらなる攻撃を防ぐために途方もないコストのかかる措置を取らざるをえないようにすると同時に、1人当たりはるかに少ないコストで命を救えたはずの他の措置を政府が講じることを、繰り返し怠るように仕向けてきた。(p.273-274)
<問1>
科学では、例えば「AならばBだ」などと言えるような条件を見つけるために、他の条件はまったく同じにして行う対照実験がよく用いられます。
しかし実社会では、実験室で用意する理想的な状態とは異なり、「細かなことはわからないけれど、統計的には〇〇と言えそうだ」といったアプローチでリスクを捉えて情報を発信するしかなく、また、「その情報を、自身が置かれた文化的状況の下で形成された主観に基づいて解釈して、独自のリスク認識を持つ」のだと解釈しました。
みなさんのこれまでの経験を振り返ってみて、「自分のリスク認識が主観的だった(過剰だった/不足だった)」というエピソードがあれば、教えてください。また、今であれば、その時の自分にどんなアドバイスをするかについて、併せて教えてください。
<問2>
私は、数週間くらい物流が止まっても大丈夫なくらいの食料は保存していて、簡易トイレも数日分あります。ヘルメット、防塵マスク、防護メガネ、サバイバルシート、懐中電灯、ランタン、浄水フィルター、ラジオ、ポータブル電源、乾電池くらいは用意しています。また、引っ越す際には、地震の被害が少なそうな地盤を選んだり、火災旋風に巻き込まれなさそうな地域を選んだりしようと思っています。
重要だけれど、緊急ではないこともあって軽んじがちな、各種災害リスクについて、みなさんがどんな対策を講じられているか、教えてください。
【今回の成果共有】
芸術家:赤松さん
美術展の企画経験から、リスクへの恐れは創造性の制約ではなく、むしろブレイクスルーのきっかけになることを学びました。かつては「社会に受け入れられない」という過剰な不安や不満に苦しみましたが、今は「恐れを乗り越える勇気が真の芸術を生む」と理解しています。災害時に備えて、作品の保存計画も用意しています。
実務家:青柳さん
グローバルIT企業での経験から、サイバーセキュリティリスクの過剰な管理が、むしろチームの生産性を阻害することを痛感しました。今は「リスク管理は重要だが、過度の恐怖は創造性を殺す」と考えています。異文化間のリスク認識の違いを理解し、互いの視点を尊重しながら協働することの重要性を、日々の業務で実践しています。家族での防災対策も行っています。最低3日分の食料・水・救急用品を備蓄し、多言語対応の緊急キットも用意しています。
フリーランス:黄田さん
世界放浪中、特定の国への渡航を極端に避けていた過去を反省しています。今は、フリーランスのウェブマーケターとして、新しいクライアントやプロジェクトに、臆することなく接して質問する姿勢を大切にしています。災害対策では、軽量で多機能な機材、太陽光充電可能なポータブル機器、多言語対応の緊急通信デバイスを準備しています。休日には、運動を兼ねて戸外でサバイバルスキルをアップデートし、変化する環境への適応力を磨いています。
起業家:緑川さん
教育系スタートアップ立上げ時、自社の技術の独自性を過信して、競合他社とのリスクを過小評価した苦い経験があります。大手教育テック企業が、同様のAI学習最適化技術を開発していて、先に市場で受け入れられてしまったのです。その失敗の後は、市場調査にも力を入れるようになりました。今では、それ以外にも、拠点分散、クラウド上の重要データ管理、物理的バックアップなど、リスク分散を意識した経営を実践しています。また、月1回の全社員ワークショップでは、リスクと可能性を率直に議論し、失敗を学びの機会と捉えて成長することを心掛けています。
物理学者:白石さん
研究プロジェクトで放射線リスクを過剰に恐れ、重要な実験を躊躇していた過去を反省しています。現在の研究室では、大学院生たちと週2回、データの分析の仕方、適切な解釈の仕方について議論を重ね、データと直感のバランスを追求しています。
政府官僚:黒木さん
環境政策立案において、政策の実行能力を過小評価していた過去を深く反省しています。各地方自治体との連携会議では、単なるデータ分析だけでなく、地域の文化や生活様式を踏まえた政策づくりを心がけるようになりました。「社会の レジリエンス(回復力)を高めるために、リスク認識をどのように制度設計に組み込むか?」は、重要な留意点となっています。
主宰者:7人目
途中の議論では、事業継続計画(Business Continuity Planning:BCP)の話も出ていました。クラウドバックアップやリモートワーク体制の整備を進めるのは良いのですが、それだけではなく、自家発電機を確保したり、宇宙天気予報で磁気嵐の警報が出た場合に電子機器をコンセントから外してファラデーケージに入れたり…モノを準備するだけではなく、迅速に適切な行動がとれるようになっておくことなど、さまざまな準備が重要そうだということも感じました。
また、そもそもの話として、「馴染みのないものや未知のもの、理解が乏しいものに対して生じる恐れ」に落ち着いて対応できるよう、「物事を統計的に見る目」を養っておくことが求められると思いました。
◆今回の成果から、どんな問いや展開が浮かびますか?◆
** もし、この記事があなたへの刺激やヒントになったようであれば、「スキ」や「フォロー」でお伝えください。今後の執筆の励みになります! **