成長期のスポーツ選手に知って欲しい身体ケアの話04【脳と睡眠】
人は、1日 の1/3を寝て過ごします。
これは、人生も1/3は、寝る事に使っているわけです。だとすると、睡眠の取り組みを理解することが、残り2/3の活動時間の良し悪しを決めると言っても過言ではないはずです。
睡眠と回復
時間とリズム
疲労を回復する上で、睡眠が不可欠なことは言うまでもありません。筋肉はもちろん、脳や内臓器、免疫機能にとっても重要な回復チャンスです。
睡眠時間の長さには諸説ありますが、厚生労働省では、1-2歳児は11-14時間、3-5歳児は10-13時間、小学生は9-12時間、中学・高校生は8-10時間の睡眠時間を確保 することを推奨しています。
特に、6時間を下回るような睡眠では、1日の1/4しか回復に使うことができていないことになり、これでは身体がもちません。
複数の論文を参照してみても、成長期では、概ね8時間程度の睡眠時間を確保することが重要だと考えます。
しかし、この8時間程度の睡眠を、好きなタイミングで確保すれば良いわけではありません。
私たちは、日中に活動して、夜に体を休める事が本能として身についています。光を感じる時間と、そうでない時間とがうまく切り替わる事で、身体の活動システムが効率よく働くのです。
このシステムを「同調機構」といって、外界の刺激(日光)によって身体を自動的に調整する仕組みです。
そして、24時間という時間周期が、身体のホルモンバランスや回復などの体内環境を整える1サイクルだと考えられています。
これは、概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれていて、1日の周期で体内環境は整理される機能を持っています
この2つの機能を考えると、
8時間程度の睡眠を確保しつつ、太陽の光に合わせて起床するためには、深夜0時を越える遅い時間の入眠は、体内リズムを崩すことになります。
入眠と睡眠の質
睡眠の効果を得る上で特に重要視したいのが睡眠の質です。
特に、冒頭にくる入眠の質が非常に重要だといわれています。(概ね最初の90分程度)
睡眠は、脳が温度を低下させていくことで活動エネルギーを節約し、回復のために自律機能を切り替える時間です。
この切り替えが始まるのが、入眠の場面です。
このタイミングは、脳がそれまでの覚醒状態(起きている状態)から休み始める瞬間であり最初に脳の回復が強調されます。
脳への外的刺激を遮断し、睡眠欲求に従ってスムーズな入眠をする事が大切になります。
〈入眠時に配慮すべき外的刺激〉
・光
・音
・温度と湿度
これらの外的刺激が調整できると、「睡眠で回復できた!」と実感できる感覚(睡眠休養感)が向上すると考えられています。
厚生労働省では、睡眠の量(睡眠時間)と質(睡眠休養感)が十分 に確保されていることが、健康を下支えする睡眠での大切な要素だと指針をだしています。(健康づくりのための睡眠ガイド 2023案より)
光刺激
私たちは、目を閉じた状態でもその空間が明るいか?暗いのか?を感じ取る事ができます。目を閉じていても、部屋の電灯がついたり、消えたりすることを瞼(まぶた)越しに感じられるはずです。
つまり、瞼を閉じている(目を閉じている)だけでは、体が感じる光の刺激を遮断しきれていないのです。
ここで、両手で目を覆うことや、タオルやアイマスクを目元に置いてみてください。
同じ様に目を閉じたとしても、周囲の暗闇が濃くなっているのを感じられるはずです。
目が感知する光刺激は、直接脳に伝わり刺激量も強く感じます。
明るい環境内で瞼を閉じるだけの時と、目隠しなどで目を覆った状態では、寝ている姿は同じでも、脳の休息度には、かなりの違いが出ます。
部屋の灯りをつけたままでの就寝や、光の明るい環境の入眠は、せっかくの休息機会を活かしきれていないことを理解しましょう。
音刺激
光刺激以上に、自分の意思とは関係なく脳に入力されやすいのが音刺激です。音の種類は複数ありますが、音を感じる事自体が、感受する神経の働きを継続させるために、入眠の質に影響を与えてしまいます。
お気に入りの音楽やヒーリングサウンドを聴きながら入眠することもあろうかと思いますが、脳休息の視点から見るとあまりお勧めできません。
とはいえ、すべての音を遮断することは難しく、現実的でもないことから、寝室環境の物音や、エアコンなどの機械音、足音などの生活音が耳に届かないような工夫をしてみましょう。
しっかりと音を遮断したいのなら、耳栓もアイデアの一つですが、これは着け心地の良し悪しがあるため、返って不具合を感じるのであれば逆効果なので注意してください。
温度と湿度
住んでいる地域、住環境にもよりますが、睡眠中の室内温度と湿度の調整に気を配るべきです。
睡眠中は、自立して体を調整してくれる、副交感神経(自律神経)が中心となって体を回復させているため、心拍数は低くなり、体温もやや下がった状態を保つようになります。
そのため、室温が暑過ぎたり、寒過ぎる寝具を使用した場合には、身体は即座の体温調整が難しくなります。
その状態が睡眠時間中に継続しては、とても睡眠の質を上げることはできません。
また、入眠時は体温が下がり始める事で眠気が誘導されるため、極端に高い室温や、寒過ぎて寝つけない寝具で入眠することは避けましょう。
脳の回復と睡眠
私たちの脳は、無意識の中で処理する情報もあれば、意識・理性をもって処理する情報もあります。これらは常に同時進行で働いています。
記憶と結びつけながら情報を処理をする最中に、急な要件にも対応しなければなりません。覚醒時(起きている時)は、休む事なく常に周囲の情報をキャッチして、判断・実行を繰り返しています。
こうした脳の働き方を、大きく変えるのが睡眠の時間です。
睡眠時間中は、外部刺激に反応する数が極端に減少することに加えて、物事の判断や行動(実行)する事がなくなります。
その分、日中に獲得した情報(記憶・経験)が脳内で整理され、自分の能力として定着・成長させていきます。
勉強も運動も、日中に多くの経験をしたのであれば、その経験が「身に付くタイミング」は、まさに睡眠時間なのです。
シュート練習を何百回行おうと、
長時間の練習を繰り返したとしても、
ライバルとの切磋琢磨した貴重な練習も・・
睡眠による脳の回復を経由しなければ身に付かない
練習の成果は、睡眠によって定着する
ことは、上達するための大原則です。
睡眠は、脳に疲労回復を与えるだけでなくレベルアップの貴重な機会を与えてくれます。
起床時間の安定が鍵
睡眠時間の話をする際に、忘れてはいけないのが、起床についての考え方です。
起床時の環境や朝練習などとの関わりもありますが、起床について優先してもらいたいのは、起床時間です。
大人にも多くみられますが、休日や長期休暇中にコンディションを崩す大多数の理由は、
起床時間がバラバラになる事です。
1日の始まり(起床)=脳が覚醒するタイミング
起床時に自律神経が切り替わり、脳が外界の光を感じて活動を開始します。
その開始のタイミングが毎回異なると、24時間の周期に身体を調整する事が難しくなり体調を崩す原因を作ります。
活動の開始から覚醒のリズムが崩れてしまうと、その日の脳機能は、活性化がうまく進まず、人によっては頭痛や重だるさを感じたまま、1日を過ごす人もいます。
私が、お勧めしたい点は
平日・休日を問わず「起床時間は、できるだけ一定に保つこと」です。
これは、休みの日でも朝から活動しなさいということではなく、休日であっても日頃と同じ時間に起床して活動開始を同じリズムに整えておく、ということです。
起床時に特別なことをしなくても大丈夫です。
目を覚ましたら顔を洗うだけ、トイレに行くだけも十分機能は働き出します。
脳に関しては、前日までの情報が整理されたとても良い状態です。
このタイミングは、夜に悩んだ解決すべき案件や、物事の決断をするのに向いてるタイミングと言えます。
(参考文献)
・公認アスレティックトレーナー 専門科目テキスト 3コンディショニング /公益財団法人日本スポーツ協会
・公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目1/公益財団法人日本スポーツ協会
・リカバリーの科学・スポーツパフォーマンス向上のための最新情報/編集:Christophe Hausswirth, Iñigo Mujika 監訳:長谷川 博(広島大学大学院総合科学研究科)山本 利春(国際武道大学体育学部)
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
・NASM Essentials of Corrective Exercise Training: First Edition .2013
・NASM Essentials of Sports Performance Training .2018/1/22
・スポーツ医療従事者のための本格フロッシング/スヴェン・クルーゼ, 高平 尚伸他 | 2020/7/20
・スタンフォード式 最高の睡眠 – 2017/2/27 西野精治 (著)
・第2回 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会資料2023
・厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?