子供のウエイトリフティング選手における障害予防の考え方:05-1[膝痛対策]
アスレティックトレーナーのあおしまです。今回は、膝関節における障害予防のポイントについてご紹介します。
膝の構造
膝は、他の関節に比べて動きの方向が少なく、構成する骨の数も少ない関節です。
ところが、ウエイトリフティング以外の競技種目の現場でも、この部位の痛みや不具合が数多く発生します。
まずは、膝を構成している骨と関節を考えてみましょう。
膝関節は、太ももの骨(大腿骨)と、スネの骨(脛骨)とが中心となって曲げ伸ばし(屈伸)を行います。スネには腓骨と呼ばれる骨もありますが、この骨は直接的に膝の運動には参加してきません。
また、大腿骨の前面にはお皿の骨(膝蓋骨)と呼ばれる種子骨があり、この骨が太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)の付着部であると同時に、力を伝達する滑車の役割を果たしてくれます。
膝にかかる力
ウエイトリフティングは、スナッチ、クリーン共にスタート姿勢で下半身に力をため、挙上のために膝を伸ばしながら力を発揮します。
2nd Pullで爆発的な膝の伸展動作を行った後に、キャッチ動作に向けて膝の屈曲(股関節も屈曲)を急激に行います。
ジャークは立位でバーベルを支えた状態からディップ&ドライブと呼ばれる動作によって瞬間的に力を発揮し頭上までバーベルを跳ねあげます。
その後、スプリットジャークは前後に、プッシュジャーク、スクワットジャークでは左右に脚を開いて、膝を曲げた姿勢でキャッチをします。
いずれの動作においても、体重+バーベル重量を挙上するために地面を押しつつ、さらに加速をさせて跳ね上げ動作を行います。
その後、落下開始の瞬間、バーベル重量に加速する力が働き始める瞬間をねらうようにして、真下で支えるための膝の屈曲動作、さらに実際に重量に耐えるための支える力の発揮を行います。
一連の動きの中で、挙上に必要となるのは、筋肉を短縮させながら爆発的な力を生み出す力発揮(短縮性筋収縮)です。
主に太ももの前面にある大腿四頭筋と、臀部にある大臀筋、そして脊柱筋群がタイミングを合わせて力を発揮します。
一方、キャッチ動作時は、下降するバーベルに対応・対抗するように関節が働き、筋肉は伸ばされながらも力を発揮(遠心性筋収縮)します。
ウエイトリフティングでは、加速の局面ばかりが注目されがちですが、この遠心性収縮局面は、動作の安定性や可動性の改善に効果が高く、重要な使い方です。
膝の痛みと動作
球技系スポーツ種目とは異なり、相手との接触プレーが無く、運動方向も決まっているウエイトリフティングでは、膝痛の原因は限定的だと思います。
主な理由は、1自身の動作パターンの崩れと、2使いすぎ症状(オーバーユース)によるものがほとんどです。
1.動作パターンの崩れ
腰痛対策の回でもご紹介しましたが、ウエイトリフティングは、上方からの重量が各関節にかかるため、取り扱う重量とそれを処理する関節の位置関係が動きの良し悪しを左右します。
膝についても同様で、バーベルの荷重線からの距離が長くなると、膝関節の負担割合が増えます。
また、膝関節は、上下の股関節、足関節ほど多方向に動く事はできないため、股関節や足関節の使い方のエラーがあると膝関節がそのまま影響を受けてしまう関係にあると言えます。
上の写真のように、キャッチ動作(下降でのブレーキ動作)時に、股関節の屈曲が不足すると、その影響を膝が負担することとなります。
また、下記の写真では、片側の膝だけ内側に崩れるような力の受け方をすると、その影響を膝内側部の靭帯や筋肉・腱が過度に負担することとなり、これらが膝痛の原因を作ることになります。
こうした膝が内がに入り、つま先だけが外を向く姿勢を、Knee-in&Toe-out(ニーイン・トゥアウト)と呼び、膝内側の伸張と捻りのストレスに加え、膝が深く曲がると膝外側後方の組織に圧縮の過負荷まで加わることがあるので注意が必要です。
膝を守るための股関節の動き作り(股関節外旋トルク)
膝が不要な過負荷を受けることを避けるためには、股関節と骨盤帯の関わりは外せません。錘を持たずとも、自重や椅子に腰掛けての姿勢で動き作り、動き学習を進めることを提唱しています。
その一つが、股関節外旋トルク(力)を引き出すことです。
実は、筋力トレーニングの教科書や従来のストレングス&コンディショニングの書籍にはほとんど記載されていないのですが、
一方で、ウエイトリフティング選手の指導場面では、子供達にも紹介されているのを見かけます。子供達に股関節外旋トルク・・とは説明しませんが、「膝を開く」や、「膝を割る」などの言葉がけで指導するのを目にしてきました。
股関節は、両脚を揃えてまっすぐに屈曲するよりも、膝を開き「外旋」という回転動作をわずかに入れる事で、骨盤の前面にゆとりが生まれます。
これにより、骨盤帯が前方向に傾斜をしやすくなり、それに伴って脊柱も自然な生理的ワン曲を保持しやすくなるのです。
また、この姿勢を活用して、スタート姿勢やスクワット動作を行ってみると、内転筋群やハムストリングといった股関節周囲の筋群を動員しやすくなる利点もあります。
2.使いすぎ症状(オーバーユース)
ウエイトリフティングは、短縮性収縮による強度高い力発揮を繰り返すため、軟部組織の短縮(拘縮)が主要な関節に多く発生します。膝関節も例外ではなく、大腿四頭筋を中心とした膝前面に位置する筋肉が短縮した症状をよく見かけます。
特に、膝蓋骨には、複数の筋肉が付着することに加えて、膝蓋骨の動きを円滑にするための滑液包と呼ばれるクッション組織も重なりながら存在しています。
これらの組織が、あるべき長さを保って動いてくれれば関節は問題なく動くのですが、複数ある筋肉のいくつかが、疲労による短縮(拘縮)をして活動量を低下させると、正しい関節運動が阻害されるようになり、痛みや不具合として感じるようになります。
また、ウエイトリフティングは同じ動作を何度も繰り返して練習を続ける競技であるため、同じ箇所ばかりに疲労を蓄積しやすい特徴があることにも注意が必要です。
次回は、使い過ぎ症状について少し詳しく考えていきます。
(参考文献)
・公社)日本ウエイトリフティング協会指導教本2022
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
・Olympic Weightlifting: A Complete Guide for Athletes & Coaches (English Edition):英語版/Greg Everett
・NASM ESSENTIALS OF SPORTS PERFORMANCE TRAINING 2nd edition
・NASM Essentials of Corrective Exercise Training: First Edition .2013
・ゆ~っくり座って健康に! 60歳からはじめるエキセントリック体操 2022 :
野坂 和則 (著), 稲見 崇孝 (著), 桂 良寛 (著), 野坂和則 (監修)
・エキセントリック運動の理論と実践:エキセントリック運動の特徴と効果:JATI東北支部WS野坂氏提供資料:2023
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