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「騙される」驚きと喜び - 須田悦弘展@渋谷区松濤美術館(-2/2)

 某日。もうすぐ終わってしまう、渋谷区松濤美術館の「須田悦弘」展へ。




気づかないくらいリアルな「木彫りの草花」

  草を毟ろうとしているいる人? いや、「設置している」のかも。笑

 ヒントは、開催概要の中に。

普段、道端で見かけるような草花や雑草。実は本物と見紛うほどに精巧に彫られた木彫作品です。須田悦弘(1969~)は独学で木彫の技術を磨き、 朴 ほお の木で様々な植物の彫刻を制作してきました。

須田によって生み出される植物は全て実物大で、それらを思いがけない場所にさりげなく設置することで空間と作品が一体となり、独自の世界をつくりあげています。

本展は、東京都内の美術館では25年ぶりとなる須田悦弘の個展です。今回、須田の初期作品やドローイング、近年取り組んでいる古美術品の欠損部分を木彫で補う補作の作品等をご覧いただくとともに、本展のための新作も公開します。

渋谷区立松濤美術館の建築は、「哲学の建築家」とも評される白井 晟一 せいいち (1905~1983)によるものです。閑静な住宅街に位置する石造りのユニークな外観、入口の先には楕円形の吹き抜けがあり、そこに架かるブリッジからは池と噴水を見下ろすことができます。地下2階から2階まで螺旋階段で繋がり、高い天井と湾曲した壁面をもつ展示室や、ベルベットの壁布が張られ、絨毯敷きにゆったりとしたソファが置かれた展示室など、他にはない空間が来館者を迎えます。

ここに須田の植物を配することでどのような作品となるのか。白井建築を舞台にした須田悦弘のインスタレーション作品としてもご期待ください。

同上

 作品展示はすでに、こんなところや、

 展示室の外にも。

 作品がリアルすぎて、わたしには、直島のベネッセハウスの展示作品に「気づかなかった」(!)という苦い思い出まである。


生を受けた「木彫り」

 展示室の入口には、こんな注意書きまで掲示されている。やさしい明朝体で、この美術館の建物のように、なんだかちょっとレトロ。上品なユーモアがあって、楽しい。

 人が集まっているところに行ってみれば……

 

 あら。

 目を疑うが、これらは本当に、木彫り作品だ。

 花も、顔をのぞかせる。

初の木彫り作品「スルメ」

 植物中心の作品群のなかで、

 作家の初木彫り作品という、このスルメには驚愕した。乾物ゆえの反りや質感が、リアルに表現されている。

 よ~く観ると、たしかに木彫り?ということが見えてくるけれど、言われない限り、わからないと思う。

(本物のスルメが展示されているのも、違う意味でアートっぽいけれど。)

 「スルメ」から、植物に移行した、記念の作品。

 腕前がよくわかる、小さな小さなゾウの木彫り。


会場を見回してみれば

 入口の掲示を思い出し、あちこちに視線を走らせてみる。

 床にそっと置かれた、一輪のチューリップ。

 天井近くの壁から投げ落とされているかのような、バラ。

 あんなに高いところにも。

 意外なところに、花びらがはらり。


王道の木彫り作品の展示室にも

 上階の展示室には、仏像などの木彫り作品も展示されながら、

 ケースのほんの片隅に、ひっそりと、この作品。

 このランプの足元に注目すれば、

 ドクダミの花(の、木彫り)が顔を覗かせていたり。

 もちろん、堂々と飾られている木彫りの花々も美しいのだけど。

 新たな生を吹き込まれた花々との時間を愉しんだ。

 訪れた人たちが、1作品も見逃すまいとあちこちを見まわしたり、しゃがみこんでスマホで写真を撮っている姿も、なんだか童心にかえって楽しんでいる感じがして、見ていてあたたかな気持ちになった。


自然を見る視点が変わる

 屋外に出て、

 帰り道、(同じ道を来たはずなのに)、木々や花々がなんとなく目に留まり、ゆっくりと眺めながら歩いた。

 普段なら、慌ただしく通り過ぎてしまう垣根の花々が、

 創造主によって丁寧に作られた作品として、きらめいて映った。


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