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【私と本】左手で箸を

 私の利き手は右手なので、箸も刃物も鉛筆も右手を使います。左手を使う機会が少ないのがずっと気になっていた。使いたい。
 幼いころに左利きを直された人で、両手とも使えるなんていうのを見ると無性にうらやましくなった。箸くらいなら持てるかもしれない。

 それである日、左手で箸を使う練習を始めた。箸づかいの理屈はわかっているのでつまむところまではできるけれど、つまんだものを口に運ぶのがぎこちない。脇が変なふうに開いたり、箸を持つ手と口までの距離がうまくつかめなかったりする。
 慣れないうちは力の加減が不安定で、つまんだものを取り落とすこともたまにあるけれど、家でひとりでやることだから(お行儀悪いな)とおもいつつも練習を続ける。そうしていたら、だんだんとうまくなってきた。

 そんな時、この本に収められた『楽屋弁当は左手で』というエッセイにあたった。河童さんも左手に箸を持たせている。同じような人がいた! と嬉しくなった。
 河童さんは、オウチでやると叱られるから(奥さんに)、仕事先で楽屋弁当を食べるときに左手で箸を使って食べていた。それで、ぎこちない左手の箸づかいにイライラを我慢していた右手が、ある日ラーメンのどんぶりを持たせたときにワナワナして、河童さんはどんぶりを落っことすところだったらしい。

 そういえば持ったことがなかったと、右手でどんぶりや汁椀を持ってみると、確かにすごく違和感を感じる。左手で箸を持つよりもずいぶん変な気がするのだ。そして米飯ならまだしも、麺類が相手だったり、つゆを飲むということなどをしてみると、角度やスピードがムズカシイ。

 ところで、この本はタイトルにある通り『幕の内弁当的』に楽しめる本で、もう何度も読んでいる。『河童が覗いたインド』を読んでから文章と文字とイラストと好奇心に惹かれて読んだうちの1冊。

 こんなに好きなのに、この本は手元にはない。そのうち探して買おうとおもいつつ、果たせていない。

河童の手のうち幕の内

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片山 緑紗(かたやま つかさ)
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