マガジンのカバー画像

読書レビュー

24
読んだ本に関するレビューをまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

『他なる映画と 1』濱口竜介(インスクリプト)~映画講座集成!映画を生々しく体験す…

映画監督の濱口竜介氏による映画講座をまとめた本である。濱口氏が映画についていろんな場所で…

『なにごともなく、晴天。』吉田篤弘(中公文庫)~荒野のベーコン醤油ライスが食べた…

吉田篤弘の小説はこれまでに好きで何作か読んでいる。『つむじ風食堂の夜』(本作は篠原哲雄に…

「小川洋子と読む内田百閒アンソロジー」内田百閒(ちくま文庫)レビュー

小川洋子が選んだ内田百閒の幻想小説集。随筆も短編も織り交ぜて並べている。小川洋子がそれぞ…

「雨が空から降れば」別役実

「雨が空から降れば」という歌がある。小室等の歌である。フォークグループの六文銭だ。子供の…

「人新世の『資本論』」を読んでみた

話題の書である。かなり踏み込んだ過激な提言だ。気候変動問題に危機意識をもって対峙し、マル…

コミュニティの作り方「WE ARE LONELY、BUT NOT ALONE.     現代の孤独と持続…

 普段は読まないような本だが、今どきのネット世代とコミュニティ作りについて興味があって読…

切なく哀しい「こちらあみこ」

第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の今村夏子のデビュー作。「こちらあみこ」は、切なく哀しいピュアな女の子の物語である。人と同じでないことで、彼女は大好き男の子に殴られて前歯を折られ、死産した母のために赤ちゃんのお墓を金魚のお墓の隣に作り、母を傷つけノイローゼにさせてしまう。そして家族から排除される。生まれてくる赤ちゃんと「トランシーバーでスパイごっこをしよう」として父親に買てもらったトランシーバー。「こちらあみこ、こちらあみこ、応答せよ」というあみこの呼びかけには、誰

川上弘美『某』レビュー「誰でもない誰か」であり続ける人生の集積

川上弘美は初期の頃から好きでよく読んでいる。女性作家の中では一番好きな小説家かもしれない…

『くらしのアナキズム』松村圭一郎(ミシマ社)「他人に迷惑かけない」を否定

「アナキズム」という過激な言葉が入っているが、決して「国家を解体せよ」というような政治的…

『向田邦子ベスト・エッセイ』向田和子編  「手袋をさがし」続けた好奇心

1981年に飛行機事故で亡くなった向田邦子没後40年で、いくつかの向田邦子本が出されているが、…

「現代思想入門」千葉雅也(講談社現代新書)より 差異=ズレを肯定せよ!

若い人向けの現代思想入門書である。さらっと浅く解説しているので、入門書として分かりやすい…

「あひる」(角川文庫)今村夏子の唯一無二なピュアな世界観

今村夏子を読むのは『こちらあみ子』に続いて二冊目だ。『こちらあみ子』も凄いと思ったが、こ…

今村夏子『星の子』レビュー。新興宗教の家族の物語の居心地の良さと不気味さ

今年の夏に『こちらあみ子』が映画化された。評判がいいみたいだが、『こちらあみ子』を読んで…

北海道の厳しい自然と人間が対峙する小説『鯨の岬』河﨑秋子

北海道の別海町出身、酪農を営む実家で働き、羊飼いになる。『颶風の王』(2015年)で三浦綾子文学賞を受賞。2019年、『肉弾』で第21回大藪春彦賞受賞。十勝管内の街に移住し専業作家となる。2020年、『土に贖う』で第39回新田次郎文学賞受賞。北海道の元羊飼いの女性作家であることは知っていたが、小説は文庫本「鯨の岬」を手に取って初めて読んだ。驚いた。寡黙ながら奥深い味わいがある。厳しい自然と人間との対峙をしっかりと描ける作家なのだ。 「鯨の岬」は、札幌に住む専業主婦・奈津子が