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#異世界転移
パラダイムシフター【About & Index】
◆本作について◆
科学世界、魔法世界、原始世界……無数に存在する多種多様な次元世界を股にかけるマルチバース活劇小説。それが異世界転移流離譚パラダイムシフターだ。
エロス・ヴァイオレンス描写有。無双・チート展開無。
本作はTwitterをメインの活動場所として、日夜、最新エピソードを連載している。noteにおける本マガジンは、そのアーカイブに当たる。
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【第5章】剛敵は、深淵にひそむ (4/4)【遁走】
【目次】
【伯爵】←
「ふむ……キャスリングかね。なかなか、良手だ」
『伯爵』が二本の指を立てると、土煙のなかに呑みこまれたカードが、人差し指と中指の狭間へと独りでに飛び戻ってくる。
あの青年が空けた大穴のなかを、『伯爵』はのぞきこむ。
左目に装着したスマートモノクルの暗視機能を調節しても、見通せない。細かい粒子状の飛沫が煙幕となり、視界をさえぎっている。
「どれ、お手並み拝見」
【第5章】剛敵は、深淵にひそむ (3/4)【伯爵】
【目次】
【坑道】←
「はあ……ッ! はあはあッ!!」
全身ずぶぬれになったアサイラは、地底湖の水中からはいあがり、岸に手をかけながら荒く息をつく。その手には、銀色に輝くネームプレートが握られている。
アサイラは水浸しの顔を、頭上に向ける。機械仕掛けの鳥どもが湖上の地下空間を旋回しているが、攻撃してくる気配はない。
しばしのあいだ、荒い呼吸をくりかえし、欠乏した酸素を全身に行き渡ら
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (12/12)【伝言】
【目次】
【花魁】←
「アサイラが『龍剣』を使えば、次元障壁を破壊できる可能性があるのだわ。必要なものがあれば、なんでも、私たちが用意する」
前のめりになり、畳みかけるように、『淫魔』が言う。リンカは、困惑の表情を浮かべつつ、花魁装束の部屋の主を見つめ返す。
「待って欲しいのよな。アタシだって、造りたくないってわけじゃあない……ただ、『龍剣』を打つってのは、難儀なことなんだよ」
女鍛
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (11/12)【花魁】
【目次】
【葬送】←
「なんなんだい、ここは? まるで竜宮城なのよな」
『扉』を通り抜けたリンカは、その先に広がる空間を見回す。円形の部屋だ。
いくつかの出入り口はあるが、窓はない。丸い室内の壁面には、女鍛冶が見たことのない煌びやかな家具が並べられている。
なにより、目を引くのは、空間の中央にどっかりと置かれた台座だ。
宝物でも飾り付けられるかのように豪華な天蓋つきで、そこには雲
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (10/12)【葬送】
【目次】
【屍化】←
「すまないのよな。助けてもらったうえに、力仕事まで任せちまって」
「いや……助けられたのは、お互い様だ」
リンカは、髭面の男との戦いに割って入り、自分を助けてくれた青年──アサイラに礼を告げる。二人の眼前では、ごうごうと炎が燃えさかっている。
犠牲となった野牛の獣人たちを、リンカは火葬することにした。死体を積み上げ、墓石の代わりになりそうな岩を運んでくれたのは、
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (9/12)【屍化】
【目次】
【明王】←
「ウラララァ──ッ!」
「ぐふッ! ゲべッ! べッぶ!?」
ゲルトの髭面に、アサイラの左拳が連続して叩きこまれる。
エージェントは、カウンター気味に、右手の拳銃をイレギュラーの心臓に突きつけ、トリガーを引こうとする。
「──ウラアッ!」
「あグえッ!?」
アサイラの右肘が、ゲルトの右手首に叩きこまれる。リボルバーの狙いが逸れて、むなしく地面に穴を穿つ。
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (8/12)【明王】
【目次】
【土塊】←
「チィ……ッ!」
リンカは、手にした刀を振るい、無数の赤焔の筋を飛ばす。炎熱の爪牙が、住居の壁を、柱を斬り裂きながら、土の巨人へと殺到する。
だが、女鍛冶の放った超常の火は、人型の土塊の表面に、黒い焦げ跡をわずかに残すだけだった。
「……まあ、効かないのよな」
リンカは、荒い吐息をこぼしながら、つぶやく。炎で土を焼けないことなど、鍛冶職人である自身が、一番よ
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (7/12)【土塊】
【目次】
【憤怒】←
「ンンー。ところで、きさま、そんなところで足を止めていていいのかぁ?」
「アタシがその気になれば、ここからでもアンタの首を斬り落とせる」
「おぉ、怖い、怖い。おまけに、兵隊になる獣人ゾンビも、その材料も有限と来ている。こいつぁ、大ピンチってヤツだぁぜ」
けらけらと笑う熊面の男は、おどけた表情を浮かべながら、懐を右手でまさぐる。リンカは、警戒し、刀を傾ける。
骨
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (6/12)【憤怒】
【目次】
【躊躇】←
「……さもありなん!」
野牛の部族の集落にたどりついたリンカは、思わず声をあげて、口を抑える。なにが待ち受けているかわからない。迂闊に音を立てるのは、得策ではない。
草原の住人の住居は、灌木の枝を組み合わせて、干し草の屋根を敷いた簡素なものだ。建ち並ぶいくつかの家屋を、建材と同じ木製の柵で囲っている。
ところどころ、集落を巡る囲いが壊されている。住居にも損傷が
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (5/12)【躊躇】
【目次】
【救難】←
「いったい、なにがあったのよな……と尋ねても、答えられる様子ではなし」
女鍛冶の刀の切っ先が、刃にまとわれた赤炎とともに、異様な獣人へと突きつけられる。武人のごとき、隙のない構えだ。
幼少の頃からリンカは、たしなみとして刀術を習わされた。刀の作り手は、刀の振るい方も覚えねばならない──至極、合理的な理由だった。
「ブオォーッ!」
野牛の大男は、けたたましい咆
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (4/12)【救難】
【目次】
【不穏】←
「……マノだけでも、逃げるんだよ」
リスの尾の獣人は、かたわらの少年に語りかけながら、立ちあがる。猿耳の子の目には、彼女の両脚が小刻みに震えているのが見て取れる。
「リシェ、無茶もな!」
「リンカさまに伝えるんだよ、マノ!」
リシェは、マノに背を向けて、懐から鋭利な刃の小刀を抜く。迫り来る異様な獣人に対して、切っ先を向ける。
「むおー! マノには、指一本ふれ
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (3/12)【不穏】
【目次】
【昼餉】←
「ん。まあまあ、といったところなのよな」
薪置き場のさらに奥には、鉱石や砂鉄が山と積みあげられている。リンカが獣人たちに頼んで集めてもらった製鉄の材料だ。
砂鉄を手ですくいあげた女鍛冶の赤い瞳は、鷹のように鋭い眼光を放つ。何事もどんぶり勘定なリンカだが、鉄の仕事に関わるとなれば話は変わる。
大きめの土器に質のよい砂鉄と純度の高い鉱石を詰めこみ、抱えあげる。ずっ
【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (2/12)【昼餉】
【目次】
【獣人】←
「さもありなん。これだけの量、さすがにアタシ一人じゃあ食べきれないのよな」
眼下に並べられた山盛りの食材をまえに、リンカは腰に手を当てる。
「というわけで、二人とも! ここで、一緒に食べていくかい?」
「わぁい、やったー!」
マノとリシェは、歳相応の子供らしい歓声をあげる。
「当然、料理は手伝ってもらうよ!」
「もちろんもな、女神さま!」
「もちろんだ