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"雨は五分後にやんで" 本ができるまで

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『雨は五分後にやんで 異人と同人Ⅱ』 *内容紹介 浅生鴨による責任編集の元、「『五分』という単語を作品中に使うこと」だけを条件に、各分野の書き手19人が自由に書いた文芸アンソ…
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#エッセイ

"本"が出来るまで7 〜雨は五分後にやんで〜

"本"が出来るまで7 〜雨は五分後にやんで〜

その日の宝物は500円玉だった。
友人の車から降りて大きく手を振った後、財布を忘れていることに気がついた。Twitterや友達にこの苦難の脱出法を募り、かろうじて警察署で借りられたのがそれだった。
絶対に無くすまいと握りしめながら向かったのは浅生鴨さんのオフィスだ。
本の配送の準備をするのももちろん生まれて初めてだった。
コロナの影響もあり、ごく少ない人数で、窓もドアも全開にして梱包作業は行われて

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"本"が出来るまで 6

"本"が出来るまで 6

「みなさんさえよければ、全著者のサインをそれぞれハンコにして初回本に押すってのもありかなーとぼんやり考えています。」

錚々たるメンツなのだ。皆さん自分の"サイン"を既に獲得していて当然である。
しかし、私はただのOL。サインなどあるはずもない。

サイン…サイン…
どうしよう…

書いてみるよね。

かたいよね…

書くの(作るの)楽そう…

犬バージョンどうかな…?

って、何やってるんや私。

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"本"が出来るまで 5

"本"が出来るまで 5

鴨さんにチェックしていただいた後も、複数の校正者の方に目を通していただけた。
表記の揺れは、単純なミスもあれば、ニュアンス的にここはあえて平仮名にしたいというものもあった。
「ここはこういう理由でこのままにしたいのですが、どうですか?」
「会話中の表記は意図的に変えることもあります。おかしくないですよ」
確認しながらではあるけど、表記ひとつにも自分らしさを出せるということもまた学ばせてもらった。

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"本"が出来るまで 4

"本"が出来るまで 4

時間を巻き戻せたら…この術を欲したのは人生で七度目だった。えっと、大体ね。
というのも、鴨さんに書いたものを送り、「受け取りましたよー」ときてから、音沙汰なかったからだ。
鴨さんから同人誌のお誘いを受けた時、「面白くなかったらどうするんですかー」と冗談で言った。
「もちろん読んで判断しますよ」
鴨さんのその答えは冗談か本気か分からなくて、ちょっと…なんというか、ぞくぞくした。
でも、いざ何も言われ

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"本"が出来るまで 3

"本"が出来るまで 3

電車は結構混んでいた。
一年半の休職をあけて、やっと時短で仕事に復帰したばかりだった私は、こんな時間に電車に乗るのも久しぶりだった。
平日の22時、サラリーマンやOLらしき姿も多い。
少し苦しい。
あいている席に、誰にも気付かれないくらいそっと座る。

鴨さんからは「5分」というワードを使うということを指定されていた。
5分…5分…
オチも決めず、とりあえずiPhoneのメモ帳を開き、書き始めてみ

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"本"が出来るまで 2

"本"が出来るまで 2

鴨さんと二回目に会ったのは、株式会社ピースオブケイク(名前可愛すぎん?すき。)主催による、著書刊行記念イベントだった。
外苑前で下車。久しぶりに来たおしゃれな街並みに、少し背筋が伸びる。
エレベーターに乗ったときから、目的地が同じ気配のする人たちがちらほら。
案の定みんなで同じ方面に向かった先には、超絶イマドキなオフィスが広がっていた。

このさ、時々引き出し(?)、時々透け透けってのがいいよね。

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"本"が出来るまで

"本"が出来るまで

作家である浅生鴨さんにお誘いいただき、一冊の本に参加した。
タイトルは「雨は五分後にやんで」

作家の方からしたら本が出来上がる"過程"は特別ではないかもしれない。
ただ、私は全く別の業界で働くふつうのOLで、そうした中でも文章を書くような場所でも役割でもない。文学系の部活動や学部に所属していたこともない。
正直なところ、子供の時以降本を読んだことも数えるくらいしかない。書くことも読むことも、交換

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