"本"が出来るまで 5
鴨さんにチェックしていただいた後も、複数の校正者の方に目を通していただけた。
表記の揺れは、単純なミスもあれば、ニュアンス的にここはあえて平仮名にしたいというものもあった。
「ここはこういう理由でこのままにしたいのですが、どうですか?」
「会話中の表記は意図的に変えることもあります。おかしくないですよ」
確認しながらではあるけど、表記ひとつにも自分らしさを出せるということもまた学ばせてもらった。
本は作家の名前で出てくるけど、その裏にはこんなにたくさんの方が関わってるんだなあ、としみじみした。
そうこうやりとりしている時、"扉"の絵が届いた。
自分がつけたタイトルがこんな風に飾られて形になるなんて。
夢を見ているようだったし、デザインも可愛くて、手がけてくださったのが大平さんでよかったなあと思った。(この後、一部変更もしてもらった)
4月の頭にはカバーデザインが紹介された。
これは、著者全員宛に送られてきていて、みんなで挨拶をしながら、素敵なデザインだと話をした。
このメーリス?は、度々届いた。
「JPO出版情報登録センターに書誌情報を登録しました。」
「本日、造本設計を終わらせて、印刷所に仕様を指定しました。」
「ようやく全ての原稿が揃いまして、304ページになんとか収めて入稿です。」
「先ほど、印刷所より白焼きがあがってきました。」
見慣れない言葉ばかりが並び、違う世界に紛れ込んだ子羊のようにただただ眺めていた。(子羊って、可愛く言っちゃったー!)
なんか脈絡なくて変だなーと思ったら、やっぱり白焼きは鰻のことじゃなかったりもした。
スマホ画面に、見たことのある顔のイラストがででーーーんと出てきた時には、びっくりし過ぎてスマホを落としそうになった。
コロナの影響で、文学フリマがなくなったり、印刷所・製本所のご都合もありスケジュールの変更のお知らせもあったりした。
4月の末には"束見本"なるものの写真も届いた。
なんだか本作りのドキュメンタリーを観ているような、不思議な感覚がした。
鴨さんはわたわたしてるのだけど(原稿が揃わないとかスケジュールが遅れるとか)、私にはそんな過程も作品の一部のように思えた。
発送の手配の話にもなり、近くの方は「自転車で行きますでー!」、ほぼ日さんは「伝統芸です!」とおっしゃっていた。
田中さんは「近郊だったらお手伝いに行って袋詰めを頑張る人たちに踊りなども披露したのですが、踊りだけがんばります」と言い、永田さんが「Zoomでつなぎます!」と返していた。
こんなやり取りを微笑みながら見ていた私に、恐ろしい知らせが届く。
「みなさんさえよければ、全著者のサインをそれぞれハンコにして初回本に押すってのもありかなーとぼんやり考えています。」
サイン……?
ど素人中のど素人が混ざっていることをお忘れではないだろうか。
こうして私は、"サイン"と"付録"に翻弄されることになるのだった。