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【イベント感想】 『富永京子 × 西田亮介 × 東浩紀 2024年を振り返る──選挙と陰謀、この社会のゆくえ』。@ゲンロンカフェ。----「2025年を考えるために」。

 年が明けると、まだ1週間や2週間前のことでも、去年のことが急に古く感じて、価値が減っていくような気がする。

 だけど、このトークイベントは、興味深かったし、これからのことが語られていたし、このイベントの動画はまだ見ることもできるので、個人的な見方にすぎないけれど、紹介する意味はあると思いました。


(※見出しになっているイベントのことを早く知りたい方は、『社会運動、という視点』から読まれることをおすすめします)。


ゲンロンカフェ

 とても個人的なことだけど、中年と言われる年齢になってから、学校へ通い資格を取る見込みがついていたにも関わらず、仕事が全く見つからなかった。

 その時は家族の介護を続けていたので、午後の非正規でアルバイト的な仕事しかできずに、そうした職種に絞って応募を続けたのだけど、ほとんど履歴書が戻ってきただけだった。

 無視されることも少なくなかったし、履歴書を送ったのが50通を超えて仕事が全く決まらなかったあたりでは、今ではもっと厳しい就活をしている人は当たり前にいると知識ではわかっていたのだけど、かなり気持ちは落ち込んでいた。

 それは、おそらくは自分で思っている以上に元気がなくなっていて、20代での就職活動の時は、順調な時代だから、それは甘いのかもしれないけれど、そのことでうまく行かない就活が体にも応えていたのだと思う。

 もともと体が丈夫な方ではなかったけれど、その当時は、ずっと薄く体調がよくなかったと思う。

 そんなころに、ゲンロンカフェ、という場所を知った。

 それ以前から作品を美術館などで見て、すごいと思っていた現代美術家・村上隆の図録などに文章を寄せていた東浩紀という人が始めた場所だというのは知っていた。

 それをきっかけに東浩紀の著書も読むようになって、難解だけど、そして自分が理解できていないのに、村上隆がほめていたので、興味が続いた。

 それ以前からトークイベントなどで人の話、それも自分が知らないことを聞くのは好きだった。だから、五反田に出かけた。どうやら、この年にゲンロンカフェが始まったらしいが、そこで聞いたトークはすごかった。

 特に、そのときの登壇者の東浩紀は、頭がいいのが明らかに伝わってきた。

 生まれながらに足が速い人を見るのが気持ちがいいように、とても頭がいい人を見るのは、素直にすごいと思えて、心が軽くなるような思いになることを知った。

 それから、時々、ゲンロンカフェに行った。

 通常のトークイベントが長くて、2時間か3時間なのだけど、この場所では午後7時にイベントが始まり、午後11時を過ぎても終わらず、自分も終電が気になるので、まだ続いているトークを気にしながら、後にすることもあった。

 ただ、こうして4時間も、5時間も、トークを続けていること自体も、意味があると思えた。昔、ライターという仕事をしていて、インタビューがもちろん大事なことだったのだけど、1時間くらいでは、当たり前だけど、その人の大事なことを聞かせてもらうのは難しいと感じてきた。だから、相手が承諾してくれれば、可能な限り長時間インタビューした方が、その人の気持ちを聞ける可能性が高いのは感じていた。

 だから、何時間でもトークを続けること自体が、とても意味があるし、こうした方法をとらなければ出てこない話、そして発想があるのは間違いなかった。

 最初に、このゲンロンカフェに行ったのは2013年で、それから10年くらいが経った。コロナ禍以来、完全にゲンロンカフェに行かない年もあったが、ゲンロンの友の会の会員になったりもした。

 それは、こうした貴重な場所を続けて欲しい気持ちもあったからだった。

『富永京子 × 西田亮介 × 東浩紀 2024年を振り返る──選挙と陰謀、この社会のゆくえ』

 社会学者2人--特に冨永京子と、ゲンロンの創業者である東浩紀がトークイベントを行うのは、おそらく初めてだと思った。

 個人的には、全部ではなくても、それぞれの著書も読んでいて、その独特の視点は他の人にはないと思っていたから、この3人が、2024年を振り返る、という広いテーマで語ってもらうことは、さらに、思ってもいないような話が聞けると思って、申し込んだ。

 2024年は2回目のゲンロンカフェだった。

 このイベントもすごかったし、だから2024年の最後に、3人の知性ある人が話し合うのを見るのは、年末にふさわしいとも思っていた。

 さらには、午後3時スタートだから、もしも6時間を超えるイベントになっても、終電を機にすることなく最後まで見られることもちょっとうれしかった。前日に年内の仕事が終わり、だから、このイベントに参加することは、年内最後の自分の楽しみでもあった。

東浩紀、ズームでの参加

 イベントによって、観客の数が違ってくる。

 この3人だったら、人が集まりそうだった。それでも、開場が1時間前で、そのくらいに行けば、個人的にはトイレに行く回数も多いので、端っこで登壇者が見える位置に座れそうだったけれど、いろいろと支度をしているうちに、いつものように10分くらいは盗まれたような感覚になって、ぐずぐずしていて、現地に着いたのは午後2時30分くらいだった。

 思ったよりも空いていたが、その理由は会場の前方を見てすぐにわかった。登壇者の1人であり、私も生で話が聞きたくて、ここまで来たのだけど、東浩紀が急病のため、ズームでの参加になるので、大きい液晶画面が設置されていた。

 すでに、この情報は告知されていたようだけど、全く知らなかった。一瞬、これならば会場に来なくても配信で良かったのではとも思ったけれど、西田恭介は、ここのイベントでも見たことがあったが、社会運動を研究している冨永京子は、初めて話す姿を見られるので意味があると思い直した。

 本を読むときに、その著者が話す姿を一度でも生で見ていると、気のせいかもしれないけれど、その文章の浸透度が少し変わってくるように思っていたせいもある。

 ライブやスポーツイベントとは違い、もっと抑えられてはいるものの、それでも、期待が少しずつ高まっていくザワザワした空気は、得難いものだと思った。

 始まるまでに、大きなスマホのような液晶画面に東浩紀が写り、どうやら急病でもあったのだけど、こうした方法では参加できるようで、トークまでに音声の調整を行っていた。すでにこうした遠隔での参加は珍しいものではなくなっていたが、この10年でかなりの数のトークイベントに東浩紀は登壇してきたはずだが、こうした形での参加は初めてということを知った。

 ただ、この参加方法に変わったことによって、どうやら会場参加のキャンセルが少なくなかったようだ。それは、無理もないと思った。その変更によって、ゲンロン代表でロシア文学や演劇の研究者である上田洋子も登壇者に加わった。

社会運動、という視点

 トークは、東が最近、始めたトレーニングの話から始まった。

 ただ、それは導入で、気がついたら、スクリーンが下げられて、1月から一か月ごとに、2024年が振り返られ始めた。

 あちこちに話が逸れているようで、それがトークというものの豊かさなのだと感じていて、ただ、それと同時に、時間は過ぎていく。

 12か月だから、12項目になるはずだけど、最初の2月までで、2時間をかけていた。

 個人的には初めて、この場所で見た冨永京子の話し方は、その文章でも感じていたのだけど、時々、すごく謙虚さが出ていた。時として過剰なほどだったのだけど、それは、個人的な性格だけではなくて、アカデミックな世界の構造が、そうさせているのかもしれないとも思ったが、その話す内容は、普段あまり考えていない社会運動、という視点からのもので、聴衆としては、新しい視点を提供させてもらった気もしていた。

 その冨永は、午後6時30分ごろに、去った。

 ただ、そこまでで3時間30分が経っている。

 一般的には、トークイベントとしては、そこまででも十分以上に長い時間だった。

基本的でありながら、重要な視点

 そこから映像の中の東浩紀、会場には西田亮介、さらにはゲンロンの代表でロシア文学や演劇の研究者の上田洋子もより積極的に話に参加して、時間が経っていった。

 もちろん、何度か休憩をとりながらも、12月までの話をするのに、さらに時間は重なり、終わったのは午後10時を過ぎていた。観衆は多少減ったものの、20人以上は残っていて、私も7時間を過ぎるトークイベントでは、途中で眠くなった時もあったものの、それだけで貴重な体験だと思った。

 まだ動画のアーカイブは続いているので、できたら全体も見ていただきたいと思うのだけど、その中で、特に気になった言葉もあった。

---今は、貧乏でも良きことをしようとしているようなNPOよりも、大金持ちがお金を使うような活動の方が信頼されているような気がする。

 言葉遣いなど、細かい部分は違っていると思うのだけど、そういう指摘が東からされて、本当にそうかもしれない、と感じ、気持ちも重くもなったが、重要なことだと思った。

 さらに、2024年は特に政治---選挙のことも話題になったのだけど、それは、アテンションエコノミーと、政治は相性がいいことがより明らかになっていく走りではないか(この辺りは詳細は違うかもしれないが)といった、見方によっては不吉な未来で、だけど、本当にこれからそうなるのではないか、といった指摘もあった。

 ここであげた話題は、7時間を超えるイベントの中では、本当にごく一部で、さらに、2024年の出来事に対しての分析的な話も豊富だったのだけど、やはり、そうしたことをどのように見るのか、ということを考えさせられ、最後の質問に応えるかたちで、東浩紀はこうした答えをしていた。

 これからを変えていくような哲学は語れない。他の人に聞いてほしい。だけど、そうでない別のところを自分は担っていきたい。

 おそらく東はもっと基本的な、でも重要なことを考え続けていくことを決意しているのではないか、といったことを感じた。

 来て良かった。

 ただ聞いているだけでも疲労感があったのだから、登壇者は、どれだけのエネルギーを使ったのだろうか。それに、急病でもあった東浩紀は、ズームとはいえ、ずっと話を続けていたけど、大丈夫だったのだろうか。映像とは思えないような時さえあった。

 やはり、なんだかすごい時間だった。

                            (文中、敬称略)



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おちまこと
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