「辛くないカレー」は、「発明」だと思う。
真っ赤になったラーメンを美味しそうに食べている人を見ると、とても真似ができないけれど、それでも、近所のカレー屋へ行くときは、5段階くらいある辛さのレベルでは「上から二番目」を選ぶくらいだから、そこそこの辛さ好きなのだと思う。
そんな程度の辛いもの好きであっても、どこかで、辛くないカレーはカレーではない、という思い込みがあって、そんな人間にとって、「辛くない」がタイトルになっているカレーは、ちょっとした驚きでもあった。
カレーの歴史
個人的な印象で、でも、それなりに全体の変化でもあるはずだけど、現在のような「欧風カレー」という呼び方が、それほど一般的でなかったのは、そのこってりしたカレーが、日本国内では圧倒的に多数派だったから、のはずだ。
それが、いわゆるインドカレーがだんだん多くなってきて、さらに、様々な国のカレーも普及してきて、そのうちに、スパイスカレー、という呼び名も一般的になったのが、2020年代の現在なのだと思う。
個人的にも、今や知らないカレーが多くなったと思うのだけど、個人的に初めてインド風のサラサラしたカレーを食べた時のことは、覚えている。
辛いカレーの記憶
確か、学生時代、サッカー部の試合があって、普段では行かないようなちょっと遠い場所に出かけたときのことだ。それは、1980年代の頃だと記憶しているけれど、今となっては、かなりぼんやりしている。
メニューを見て、自分では、あまり食べたことのないようなカレーがあったので、それを注文した。店員の方が来て、「これ、とても辛いですけど、大丈夫ですか」と聞かれた。そんなことを、しかもカレーが主流の飲食店でたずねられたのは初めてだったので、微妙に戸惑いながら「はあ、大丈夫だと思います」と返したら、「本当に大丈夫ですか、無理しないでくださいね」といったことまで言われた。
これだけの前提があったから、無駄に緊張もして、気持ちも身体も構えていたのだけど、やってきたカレーは、確かに辛く、だけど、おいしくて、普通に食べられるカレーだった。ただ、自分の経験の狭さもあるのだけど、それまでは、今で言えば欧風カレーを食べることが多かったから、そのサラサラした食べ心地は新鮮だった。
ただ、辛さについては、あれだけ念を押されるほどではなかった。だから、もしかしたら、辛さが苦手に近い人が、そのカレーを食べて、すごく辛さを訴えたことが、そのお店にとっては、強い印象として残り、その後は危機管理としての確認になっていたのだと思う。
それだけがきっかけでもないのだろうけれど、それ以来、外食では、いわゆるインド風のカレーを食べることが多くなった。そこからバリエーションが少し増えて、一時期は、グリーンカレーばかりを食べていたことがあった。
それが、個人的な外食としてのカレーだけど、ここ20〜30年の、多くの人の記憶とかなり重なっているのだと思っている。
家庭のカレーの記憶
子供のころは、家でカレーを食べることも少なくなかった。
そして、母親は、おそらくは家族の反応を見ながら、そして、自分でも検討を重ねたのち、市販のカレーのルーを買ってきて、それも、メーカーにもこだわらずに、2種類ほどのカレールー(箱に入った板状のようなものです)を買ってきて、その割合も工夫して、カレーを作ってくれていた。
それが、家庭によって微妙に違っていて、それぞれが「我が家のカレー」になっていたのだと思う。
そして、そのカレーをたくさん作るから、鍋の中であまり、夕食から一晩経って次の日の朝に、また食べるカレーは、さらに煮込まれたような味になって、それは最初に食べた味とは違っていて、それもおいしく感じた。
そうした記憶も、昭和生まれの人間であれば、ある程度共有できることだと思っている。
カレーの変化
普段は、熱心なカレー好きでもないから、そうした様々な記憶も忘れていて、松屋のグリーンカレー、定番にならないかな、といった微妙な願望を抱くぐらいなのだけど、5年ほど前の、このニュースは気になった。
このニュースは、もう以前のことになってしまったとはいえ、今の社会構造から考えたら、カレーそのものの消費は依然として多いとしても、その内容は、レトルトカレーが、さらに伸長し、そのうちにルーカレーが少数になっていく未来も十分に考えられる。
それは、様々なルーをブレンドして「我が家のカレー」を作っていた歴史が完全に終わり、レトルトカレーは、具を足したりはするのだろうけど、ほとんどは、そのカレーのベースの味は、変えないだろうから、「我が家のカレー」そのものが減っていく、ということかもしれない。
もちろん、レトルトであっても、それぞれのアレンジをしていくことは十分に考えられるから、「我が家のカレー」ではなく、「私のカレー」になっていくのだと思う。
辛くないカレーの歴史
辛くないカレーは、以前からあった。
辛くないカレーは、この言葉に象徴されるように、「子ども向け」というのがポイントになっていて、だから、成長に従って、「辛いカレー」を食べられるようになる、という暗黙の前提を含んでいたようだ。
だから、ハウスバーモントカレーのCMは長く続けられていて、その画面に登場する芸能人は、その時代に「人気があるお兄さん」という設定だったし、「りんごとハチミツ、とろーり溶けてる」という有名なフレーズも、「辛くないよー」というメッセージだったと思う。
そして、その頃から「甘口」のカレーが増えてきて、でも、それは、暗に「子ども用」という制限をされていたし、同時に、辛いものは苦手だけど、カレーは食べたい、という人向けでもあったはずだ。
でも、それは、私のような辛くないカレーに対して、やや偏見のある人間からは「辛くないのはカレーではない」という見られ方をされたことも少なくないと思う。
そう考えると、ちょっと申し訳ない気持ちにもなる。
無印良品のカレー
無印良品で、カレーに力を入れ始めたのは知っていた。
そして、「辛くないカレー」という商品を売り出したのも、聞いていたし、売り場に並んでいるのも目に入っていた。
だけど、買おうと思わなかったのは、どこかで「辛くないカレーは、カレーではない」と思い込んでいたせいもある。
この「辛くないカレー」が販売されたのが、2019年のことらしいが、少し前のこととはいえ、感覚的には最近のことになるし、それ以前に、一度買ったグリーンカレーが、個人的には、それほどとは思えなかったので、余計に手が伸びなかった。
そのまま、もしかしたら、食べないかも、と思っていた。
「一緒に食べたい」という理由
少し前、妻が出かけて、帰ってきた時、無印のカレーを買ってきてくれた。
それも、「グリーンカレー」と「辛くないグリーンカレー」だった。
「グリーンカレー好きでしょ。一緒に食べたかったから」。
そんな理由を言われ、もしかしたら、そんな気持ちの人が思ったよりも多くて、それもあって「辛くないカレー」が販売されるようになってきたのかもしれない。
そして、その気持ちは、とてもうれしかったのは、覚えている。
それに、久しぶりに食べたグリーンカレーは、明らかにおいしくなっていた。味に関して、厳密に語れるほどの豊かな味覚と経験を持っていないのだけれど、それでも、飲食に関して、よく広告などで、「よりおいしくなった」と表現していることは、本当なのかも、と思えるほどのレベルアップは確かに感じた。
「辛くないカレー」という発明
そして、少し食べさせてもらった、「辛くないグリーンカレー」は、辛くなかったが、確かに「グリーンカレー」だった。辛いものが苦手な妻にとっても食べることができて、その上、おいしいと言っていた。
私が、「辛くないグリーンカレー」と「グリーンカレー」を試したときは、「辛くないグリーンカレー」が辛く感じて、変だと思っていたら、自分が使っていたスプーンに「グリーンカレー」のルーがついていただけだった。
そして、「辛くないグリーンカレー」は、確かにグリーンカレーで、おいしいカレーだった。
「辛くないカレー」というタイトル自体が、おそらく初めてで、そのタイトルをつけるときには、覚悟と勇気も必要だったような気もするが、それとともに、「辛くないカレーは、カレーじゃない」といった視線をはねのけるほどの「おいしさ」を開発することに、情熱が注がれたのではないかと思えた。
「辛くないカレー」は、辛くないけれど、美味しいカレーはある、といったことを控え目に主張しているという意味でも、「辛くないカレー」という存在があることを、明確に堂々と謳ったという意味でも、これまでは表立って試みられていなかったということで、勇気ある「発明」だと、改めて思った。
それで、最近、「グリーンカレー」以外の「辛くないカレー」も、妻と一緒に食べようと思って、買ってきた。
ちょっと楽しみだったりする。
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