読書感想 『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』 「これほどの環境の悪さ」
何しろ、タイトルがストレートで、しかも、知りたいことでもあった。
自分自身は、日本の会社員でいた時期が3年ほどしかないので、本当の意味ではそれほど分かっていないとは思うのだけど、それでも、縮小していくような、ひたすら心身を縮こませていくような30年だった、という実感は共有できると思っていた。
だけど、どこかで「やる気」のようなものは個人の問題が大きかったし、働き始めた頃、少しだけ上の先輩に、いかに有給を取るか。という話しかしなかった人もいたし、その時代には、仕事とプライベートは分けて趣味を楽しむ、といった目標を掲げるような人たちも少なくなかったので、そのことと「やる気」のなさに関しては、どこか結びつけてしまっていたと思う。
だけど、経済ジャーナリストとして、この約40年も見続けてきた著者の視点では、会社員の環境は、想像以上に苛烈だったことを、改めて知った。
『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』 渋谷和宏
日本の会社員の「やる気」のなさという表現は、ここ何年かでよく聞くようになった。
それは、バブル期までは常識のようになっていた「会社への忠誠心の高さ」から考えたら、かなりの変化だと思うけれど、そうした現状が明らかになったのは、もちろん、自国だけの視点では分かりにくく、国際的な調査によってだった。
こうした調査そのものに関しても、ネガティブな結果が出た時ほど、反論も出やすい傾向があるのだけど、それほど情報に強くないので、かなり表面的な印象にすぎないが、この「日本の会社員のやる気のなさ」に関しては、それほどの反論が出ていないような気がする。
もしくは、この「やる気のなさ」を他人事として捉え、だからこそ、頑張れば成果が出やすくなっている、と説くような、いわゆる自己啓発系のビジネス言語も聞いたことがあるから、どちらにしても、「日本の会社員のやる気のなさ」に関しては、当事者である日本の会社員も、ほとんど否定していない印象がある。
そうした事実をただ飲み込み肯定するだけになってしまったら、真面目な人ほど、自分を責めたり、無理な努力をする可能性もある、というような、勝手に心配のような気持ちにもなるのだけど、この著者は、この書籍の冒頭付近で断言している。
それが本当だと分かれば、一瞬、絶望的な気持ちになりながらも、それでも気持ちが少し楽になるのかもしれない。
この30年間の誤り
そして、「この30年の誤り」について、この書籍全体で丁寧に証明しているようにも思えるのだが、まず現状の再確認から始まる。
そして、改めて約30年前から振り返る。
そこから、どうやって下がっていったのか。
それは、他の分野にも広がっていく。
都市銀行や、証券会社の倒産など、あの頃の、空気の緊張感が一段上がった感じは覚えているが、コストダウンは、人件費にも向かっていった。
「成果主義」というコストカット
そういえば、たぶん2000年代に入ってからのことだが、私は仕事も辞めざるを得なくなり、介護に専念する生活に入っていて、会社という存在自体が、とても遠いままだったけれど、それでも「成果主義」という言葉は聞くようになっていた。
それは、これまでの「年功序列」だけの人事査定よりは、もし、有効に作用すれば、公正なものになるかもしれず、それは、特に若くて有能なビジネスパーソンに対しては、それこそ「やる気」が出るシステムになる可能性があるのでは、と思っていた。
だが、実際は、違っていたようだ。
つまり、「成果主義」であることは事実としても、その「成果」のハードルを高く設定し、実質的には、賃金をカットしてきた、ということのようだった。
それは、想像に過ぎないけれど、最初から「人件費を削減する」と宣言されてからの賃金のカットよりも、気持ち的にはとても嫌な感じになり、より「やる気」が削がれるのではないだろうか。
その追えなかった方の「兎」は、賃金削減ではなく、「やる気」の面だった。
時期によっては、そればかりではない選択肢もあったはずなのに、とにかくコスト削減だけに力を注入し続けてしまった。
その結果、ただ身を削るような年月が過ぎて、それは「失われた30年」と言われるようになり、結果として、世界的にも低い賃金と、国際的には突出して低い「会社員のやる気」という現状になったようだ。
確かに、これらが事実であれば、「やる気」のなさは、個人の責任とは言えない。
脅しの経営
その「やる気」を削ぐような環境は、賃金の削減だけでないことを、この著者は指摘しているが、こうしたことが本当であれば、会社はちょっとした地獄のようで、そして、そこに毎日のように通えるだけすごいのではないか。と会社には長くいられなかった人間は思う。
それは「不信の経営」であり、大げさに言えば背中に刃物を突きつけるような発想だと感じる。
これが、当たり前になってきているとしても、少し冷静に考えれば、これは「行き過ぎた自己責任論」とも言えるはずだ。
それどころか、この本でも改めて名前を挙げられている、トヨタ完全子会社のダイハツ。日野自動車、三菱電機、東芝などの不正も、こうした「脅しの経営」によるものではないか、と分析されている。
そして、元々の「経営」≒「マネジメント」に関しても、実は欧米から見たら、誤解を元にした思想だとしたら、改善自体が不可能ではないか、という思いにさえなってくる。
おすすめしたい人
私がおすすめするのは、もしかしたら失礼かもしれませんが、やはり、真面目に働いているのに、なんだかやる気が出ないともやもやしている会社員の方に読んでもらいたいと思いました。
この書籍を読むと、この「30年」の救いようのなさに、ちょっと絶望的な思いにもなるのかもしれませんが、現実への解像度が少しでも上がり、それで自責の念のようなものが軽減されるかもしれません。
そして、「失われた30年」の現実だけではなく、それを踏まえて、それぞれの人ができるかもしれない提案までされているので、200ページ足らずの新書ですが、その内容はかなり密度が高いと思います。
できたら、少しでも興味を持ってもらえた人全員に、これからの未来のためにも、読んでもらえたら、と思っています。
(こちらは↓、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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