伊舎堂仁の短歌を「体験」してみよう
【この記事の要約】
面白い歌人の面白い短歌の本があるけど、いきなり買って読めって言っても誰も買わなくて意味ないから、noteに無料で公開してあって今すぐ読めるその人の別の作品を一緒に味わいませんか?という話。
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こんにちは。第三滑走路の森です。
早速ですが、伊舎堂仁という歌人をご存知でしょうか。
1988年生まれの歌人で、2014年に『トントングラム』という歌集を出版しています。『トントングラム』には、
(屋上の)(鍵)(ください)の手話は(鍵)のとき一瞬怖い顔になる
ライフから場面はイズへ 暗いなあ イズの場面で待つビューティフル
そのときに付き合ってた子が今のJR奈良駅なんですけどね
みたいな短歌が載っています。とっても面白いんで、ぜひ買って読んでみてください!
って言っても、なかなかハードルが高いですよね。っていう記事です。
歌集って、高いんですよ。『トントングラム』は1700円+税です。でもこれは伊舎堂さんが悪いんじゃなくて、どの歌集もだいたいこれくらいかもっと高いです。
それに、大きな本屋さんにしか売っていない。まあ今はAmazonなりなんなりでどうにかなりやすいですけど、僕とかは通販があんまり得意じゃないからできたら本屋さんで買いたい。
本当に面白いかどうかよくわからないものが、そんなに安くなくて、しかも手に入れる手段が限られている……
ちょっと手が出しにくい。
で、今回は、歌集に手が出しにくい代わりに、伊舎堂さんがnoteに上げている「体験版」という30首の連作(『トントングラム』には収録されていません)を読んでみませんか?という記事になっています。
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↑伊舎堂さんのnoteです。
全首解説みたいにするとみなさんの自由に読む幅が狭くなると思うので、とりあえずお気に入りの歌を3首引用して、感想とか、読みどころとかを書きました。先に上のリンクから飛んで30首読んでもらうもよし、下の僕の感想から読んで面白そうだったら飛ぶもよし、ということでよろしくお願いします。
ぼくたちを徴兵しても意味ないよ豆乳鍋とか食べてるからね
「徴兵」というシリアスな問題を「意味ないよ」という軽い口調でかわしている歌。下半分は、ゲームするのに忙しいから勉強は後回し!みたいな言い訳に通ずるところがある気がします。「豆乳鍋」って、完全に余剰の部分じゃないですか。ベーシックな味噌鍋とか水炊きとか、そういうのに飽きた人類の遊びというか。そういう「豆乳鍋」の余剰性に、まろやかな感じ、軽薄な感じも相まって、かえって「ぼくたち」のマジが透けてくるような印象を受ける構造が面白い。
買いはしないアイス売り場は金正日総書記みたいになる後ろの手
伊舎堂さんのおもしろいところとして僕が思っているのは、孵化する直前のあるあるの卵を無理やり割ってきて短歌にしてる感じで、この歌はまさにそうかなと思います。普通、あるあるでウケようと思ったら、みんな自分の経験として心当たりがありそうなこと(自分がまさにそう!とか、そういう人に会ったことある!とか)を狙って言うと思うんですけど、伊舎堂さんのあるあるの歌は「そういう人にあったことある人いそうかもなあ」くらいの変な距離感を感じるというか。この歌だと、まず「買いはしないアイス売り場」っていう切り取り方がちょっと普通じゃないんですけど、そのときの手のもっていきどころを「金正日総書記みたいになる後ろの手」って。なんやねんその比喩って思いながら、なんとなく言いたいことがわかってしまうのが悔しいというか、腹立つというか。伊舎堂さんの異常性がさらっとあらわれてる面白い歌だと思います。あと、今、「金正日」で画像検索してみたんですけど、手を後ろで組んでる写真、結構スクロールして1枚も見当たりませんでした。僕らの頭の中の「手を後ろに組んでいる金正日」はどこにいるんでしょうか。
ワンルームばかり並んでいる町の小学校はなんなんだろう
「なんなんだろう」じゃないんだよって言いたくなる。一瞬、確かにワンルームばっかりの町には家族は住みにくいだろうし、そうなると生徒はどこから集まるのかなあ、不思議だなあ、って共感したくなるけれど、そもそも「ワンルームばかり並んでいる町の小学校」に遭遇したことありますか?ほんとうに「ワンルームばかり並んでいる町の小学校」って(こういうあるあるの形式をとった短歌の題材として成立するくらいの数)あるんですか?っていう風に思っちゃう。そう思うと、「絶妙にニセのあるある」をこしらえたうえで「なんなんだろう」って自分で言うっていう、めちゃくちゃ意味の分からないことを31音の上でやっているということになる。これってめちゃくちゃおもしろいと思う。スプーン使わない料理しか出さないくせにテーブルにスプーンが置いてあって、食べ終わったら店員に「あれ、スプーンいらなかったですか。すいません。」っていわれて、変な感じになる。みたいな。僕の喩えもおかしくなってきてますね。
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ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
この記事をきっかけに伊舎堂さんに興味をもった方がいればうれしいです。
↑伊舎堂さんの Twitterです。
僕自身も短歌のネットプリントをやってたりしますのでTwitterなどチェックお願いします!
それでは。