【短編A完結編①】さようならの朝
【企画】誰でもない誰かの話
#へいたさん からの続編の続編
第1話 「カーテンに絡まる朝が来る」38ねこ猫
第2話 「1マイルより広い」へいたさん
第3話「さようならの朝」
あの人の三回忌。
お線香だけあげにいった。
お墓は俺の家の近くのお寺にある。
あの人の家にはなんとなく行けないから、
お墓参りだけする。
本人のお墓じゃないし
父親はいなかったから
母親の実家のお墓に入っている。
手を合わせるけど、言葉も思いも出てこない。
もうそんな感じなのか。
去年はいっぱい話したのに。
何も話すことないや。
立ち上がって、お寺の墓地を出た。
また、お彼岸に来よう。
彼女は高校3年の秋に消えた。
2年の時に一緒に大人ぶって
映画館の名作上映を見に行った。
「ヘプバーン?ヘップバーンだと思ってた。」
「超かわいい!超超超超かわいい。」
「見るから、興奮すんなよ。」
”ティファニーで朝食を”
彼女は何度も何度もDVDで見ていた。
俺は初見だったけど、
ムーンリバーが絶妙に沁みたし、
猫が雨に濡れてるのを見て何故か号泣した。
「嘘でしょ?しゅうくん。」
「だって、普通、あんなとこ置いていかれたら
もういないだろ?健気すぎるよ猫ちゃん。」
映画館なのに客が俺たち2人しかいなくて、
貸切みたいで笑ったり怒ったり
泣いたりしながら見ていた。
帰りにマックに行ってどうでも良い話をした。
駅の西口のゲーセンでクレーンゲームをやって
くまのプーさんの手のひらサイズの
ボールチェーンのついたぬいぐるみを取った。
一回で取れて彼女にあげると、
iPhoneについたたくさんのストラップの
仲間入りをさせていた。
「邪魔じゃねーの?」
「かわいいでしょ?」
「一個でいいじゃん。」
「だめだよー。」
「どれが本体だよ?」
「それはわかるじゃん」
「ま、俺のじゃないから良いけど」
女子高生らしい女子高生だった。
ギャルメイクではなかったけど。
それなりに上手に化粧してた。
初めてキスした時、化粧品の匂いがして
それなりに良い匂いだった。
髪や体から香りがして
イチゴみたいな甘い匂いだった。
俺の部屋で親がいない時間
たくさん求め合った。
思い出しても、ここにはいない。
全部頭の中の記憶だけだ。
俺の前には今日もトモコがいる。
珍しく、峰亀にいる。
新蕎麦が食べたいと呼び出された。
「君、そば食べないの?」
「そば好きじゃないから」
「損するよ」
「別にいいけど。」
「なんで好きじゃないの」
「うるせーな」
「口悪い。君いくつだっけ。」
俺は二十歳になったばかりだ。
「二十歳って、まだ子供だね。
口は悪いし、歪んでるし。」
何も言えなかった。
好きじゃないし、会う必要もないし
むしろ、もう会いたくない。
「悲劇背負った顔してさ。
ダサいね。
もう、会わない。
さよなら、メンヘラくん。」
何で出会ったかすら覚えていない
嫌いな女に捨てられた。
年はいくつか知らないけど、
年上なのは確かだった。
トモコなりのひどい言葉を言われたけど
何とも思わなかった。
自分の部屋でベッドに横になる。
今日は会いたくない。
ヘプバーンみたいな服のあの人に。
足が鎖で継がれて、
ずっと高校生の時の顔。
眠りにつく瞬間、名前を呼ばれる。
「しゅうくん。」
また、同じ場所……
違う。あれ?
俺、寝てないのか?
「お線香、ラベンダーの香りだったね。
ありがとう。」
「朝陽?髪切ったの?」
ショートカットで、白いブラウスで、
ロングスカートだ。
「超かわいいよね?」
ベッドから見上げる俺を覗き込んでいる。
「しゅうくん。私、もうさ、
しゅうくんの夢にいたくない。」
はっきり言われても困る。
「なんで?」
「生まれ変わりたいの。」
俺の夢にいると生まれ変われないのか。
「3年目に会えたから、
しゅうくんに
ちゃんとお別れして良いかな。」
ベッドから起き上がった。
目から涙が溢れた。
「しゅうくん、泣かないで。」
「久しぶりに会ったのに、
さよならなんて、ひどくない?
泣きたくなくても泣くよ。」
「生まれ変わったら、
しゅうくんのこと忘れちゃうから。」
甘い匂いがしないから、
実態がないことは分かる。
「ごめんね。死んじゃって」
「なんで川に行ったの?」
「ばあちゃんのネギ畑、
土手のそばだったの。
心配だったの。」
「バカじゃん。朝陽って、そういうとこがさ…」
「ごめんね。」
俺がどれだけ、川のそばに住んでいた彼女を
うちに返したことを後悔したか。
そんな話はしなくてもわかっていたんだろう。
「ねえ?好きな人いないの?」
急に聞いてくる。
「いないよ。」
「嫌いな人と付き合ってるの?」
「あれは、付き合ったんじゃなくて…
なんで知ってるの?」
「臭かったもん。しゅうくん。
なんか、大人の臭い香水の匂い。」
「ジルスチュアートって言ってた」
苦い顔をする。
「もう会わないよ。今日フラれた。」
安心した顔をする
「ちゃんと好きな人探して。」
微笑む顔が、少し大人に見えた。
「ちゃんと見てるよ。
良い恋をして
その人をちゃんと愛して。」
「俺、人のこと…もう、好きになれないよ。」
恋愛なんかどうでもよくて、
生きることもどうでもよくなった。
でも、俺がちゃんと生きないと
彼女はずっと俺の夢から解放されない。
現実か夢かわからないけど、
彼女とこんなに話せたのは久しぶりだった。
「しゅうくんは、優しいから
ちゃんと恋ができるよ。大丈夫。
お花、もういらないからね。
バイバイ。また会おうね。」
また会おうって、なんだろう。
少し暗がりが見えて、
瞼がゆっくり開いた。
ベッドから見える
カーテンの向こうはまだ薄暗い。
じっと見ていると
一筋、光が入ってくる。
「朝日…」
ベッドから起き上がってカーテンを開ける。
オレンジの空に強い光
「しゅうくん」
呼ばれた気がした。
光の中から。
「朝陽、またね。」
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#三話完結
へいたさんの「1マイルより広い」は、
素敵な世界観です。
私の中では白くて広い景色、
雲の中の川が流れが穏やかになる瞬間が
あるように見えました。
すてきな物語をありがとうございました。
ちゃんと繋がったかな。
あと、YouTubeのリンク先が最高にすてきです。
へいたさん、本当にありがとうございました。
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