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第44回 『小隊』 砂川文次著
こんばんは、JUNBUN太郎です!
今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
ラジオネーム、マスオさん。
JUNBUN太郎さん、こんばんは。
私はしがないサラリーマンです。課長という肩書きは名ばかりで、上司と部下に挟まれて四苦八苦の毎日。妻子を養わなくっちゃならないし、辞めるわけにもいかないですしね。あーもっと出世したい!笑
そんな私は最近、『小隊』という小説を読みました。
舞台は、現代あるいは近未来と思しき北海道。どうやらロシア軍が重要施設をミサイル攻撃し、続いて地上部隊の上陸があったようで、自衛隊の初級幹部であり小隊長である安達という男は、別保一帯での敵の侵攻を阻止するという任務を受け、隊員率いて敵との戦闘に備えています。
でも、小隊長の安達を始め、現場の隊員たちには最前線に立たされているという認識は薄く、ロシア軍がほんとにやってくるのか、まだ信じていないような、どこか他人事で、現実味をもてていないようです。現場を訪れても「演習場そっくり」と感じてしまったり、風呂やテレビのない環境を「プレステでバイオハザードとかをやりたかった」とぼやくなど、リアルとフェイクがまるで反転してしまっているかのような滑稽さに、読んでいる私も、これ、ほんとに戦闘するのかな? などと疑いながら、緊張感もなく、のんびり構えていました。
ところが、ついに敵はやってきたのです──
小隊長として最前線で戦争をさせられる男を描いた『小隊』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!
近づいてくる敵軍の戦車が地雷を踏み、大きな火柱があがったのを機に、戦闘は始まりました。それによって、安達にとっての戦闘がいよいよリアリティを増していきます。それまで漠然とした「敵」に過ぎなかった存在が、自分たちと変わらない「人間」であることにいまさらながらに思い至るのです。
戦闘というまったくの非日常世界であるのに、私はなぜだかこの安達という男に共感めいたものを覚えずにはいられませんでした。小隊を率いる小隊長である安達は、言ってみれば課長。私と同じ、中間管理職的な役割を担わされてるんですよね。
上層部からは十分な情報が与えられず、きちんと命令を下してこないことに苛立ち、部下には正確ではないかもしれない情報を伝えなくてはならず、また、納得のいかない命令を下さなければならない──なんだか、会社で働かされている私自身の姿といちいち重なるのです。
一体全体連隊は、旅団は、方面は何を考えているんだ? 大体なんだってこんなところで防御をしなければならないんだ。(作中より引用)
自分を支えるのは不撓不屈の精神でも高邁な使命感でも崇高な愛国心でもなく、ただ一個の義務だけだった。(作中より引用)
組織がどんな使命やビジョンをもっているかもわからないまま、現場の人間は上から命令されるままに動かなければならない。なんだかやりきれないよなーなんて同情しちゃいました。
そして、なぜ戦っているかもよくわからないまま最前線で戦わされている安達を始めとした隊員の状況が、昔学校の授業で習った第二次世界大戦末期に中央と切り離された軍隊が僻地で闇雲に戦わざるを得なかった状況と重なって、戦争の不条理さを改めて痛感しました。
印象的だったのは、安達が敵兵を殺す場面です。突如、近距離で出くわした兵士を安達はやるべきこととして淡々と銃を向け、引き金を引く。でも、その後の戦闘でより過酷な状況に追い込まれた時、射殺した兵士のことがフラッシュバックし、もっとなぶってから殺すべきだったと残虐な感情を募らせる。さらに後には、なぜあの兵士を殺さなくてはならなかったのか、撃たずに済む方法はなかったのかと、後悔にも近い思いに苛まれる──。
戦争の最前線に立たされた隊員は、安達のみならず、そうした「人を殺した」という生々しい感触と苦悶とを引きずったまま生きていくか、あるいはその場で戦死していくしかない。そんな、国や組織ではなく、ひとりの人間レベルでの戦争のリアルを、この読書(コスプレ?)を通じて、痛感させられました。
私の父は戦後生まれで、祖父は戦争を経験していますが既に他界しています。この国で戦争のリアルを生の声で語れるひとはどんどん少なくなっていますよね。そういう現代の社会において、このような小説は、戦争の不条理さを知るうえでとても貴重な存在だと思いました。
マスオさん、どうもありがとうございます!
ぼくもドキドキ、ハラハラしながら読みましたよー。
この作品を書いた作家は、元自衛官のようで、数え切れないほどの専門用語と共に、戦闘の光景がとても生々しく描写されています。その経歴からも、戦争を放棄するというスタンスではありながら色々と揺らいでもいる昨今の状況に対して、本当に戦争をすることになったらこういうことになるのだと、世の中に対して挑発、あるいは警鐘を鳴らそうとする作者の意図をぼくは感じました。
マスオさんご指摘のように、たしかにこれからの時代、戦争のない平和な世界を目指すためには、歴史教育のみならず、こうした文学の力もより大切になってくるのかもしれませんね。
マスオさん、またお便りしてくださいね!
それではまた来週もお楽しみにー。