第26回 『おとうと』 幸田文著
こんばんは、JUNBUN太郎です!
今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
ラジオネーム、ひとりっ娘さん。
JUNBUN太郎さん、こんばんは。
最近、アルバイトのお給料が振り込まれたので、わたしはいつものようにAmazonのほしい物リストをチェックしました。日頃ほしいと思うものをリストに入れておいて、お給料日にその中から買うことにしてるんです。自分へのプチご褒美として。
どれにしようかな……ポーチ、手帳カバー、ハンドタオル、キーホルダー、スマホケース、バレッタ、チョコレート、マグカップ、おとうと……ん?
『おとうと』?
文庫本のそれは、たしか、そう、以前にあなたへのおすすめ商品としてあがってきたものを、なんとなくリストに入れて置いたのでした。
でも、ほしい物リストに弟って、ちょっとウケますよね?
そういえば、弟が欲しくって欲しくってたまらなかった時代があったなーなんて、昔のことを懐かしく思い出しました。結局は手に入りませんでしたけれど。もう無理でしょう。両親すでに離婚してますし。
ポチっとね、購入ボタンを押していました。ちょっとした気まぐれです。リストの中で一番安かったし。わたしが手に入れられなかったものって、どんなものだったんだろうっていう、ちょっとした好奇心で、届いた本をさっそく読んでみました。するとね、ちょっとした後悔。ハンドタオルも一緒にポチっとけばよかったっていう。だって、涙が止まらないんです──
結核にかかった弟の看病と終焉を、3つ違いの姉の視点で描いた『おとうと』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!
カワイイだけのペットとは違うんですよね、弟って。
自分の思い通りに動いてくれない。かけてやった愛情が思った形で返ってこなくて、もどかしくって、つい声を荒らげてしまう。でも見放すことはできない。自分がいてやらないと、孤独になってしまう。特に両親が不仲の家庭では、姉弟は互いにとても大切な家族になる。時にはほとんど母親の気分で弟をみている。でもやっぱり本当の母親にはなれなくて、自分の不甲斐なさを嘆く。少し年上というだけで、大人にならなくてはならない辛さ。でも弟に屈託なく笑いかけられると、そんな心のモヤモヤなんてどうでもよくなって、一緒になって笑っている。
そんな存在が、不治の病にかかったせいで、目の前でどんどんと弱っていく。死んでいくのをなすすべもなく見守るしかできないなんて、本を読みながら、わたし、ちょっと気が狂いそうでした。
手に入れられなかった弟ってどんなものかちょっと覗こうとしただけなのに、カワイイ弟が手に入ったと思ったら、すぐに失ってしまうなんて……。そして、失ったものは弟だけではありませんでした。
それは、「姉」です。碧郎の亡くなった病室の窓から見た流星は、弟の魂の旅立った瞬間であり、同時に、姉がもう姉ではいられなくなってしまった瞬間の哀しい景色だったのだと思います。
わたしは本を読んで、泣きました。弟もいないくせに、弟を失って泣きました。姉ではないくせに、姉でいられなくなって泣きました。泣いて、泣いて、そして、生きた心地がしました。
太郎さん、これがコスプレする、ということなんですね?
本を読むことで自分とは違う人間になれてしまうなんて──。普段本を読むことのないわたしにとっては目からウロコでした。
普段本を買うことのないわたしに、『おとうと』を勧めてきたアマゾン、サンキュー!
ひとりっ娘さん、どうもありがとう!
欲しかったもの。でも手に入れられなかったものを、本を読んで体験してみる。そうすることで、自分の人生では得られない経験値を積むことができるというのも、読書の魅力ですよね。
それにしても、ひとりっ娘さんに『おとうと』をおすすめしてきたアマゾン、おそるべし! ぼくはリアル書店派なのだけど、こんどアマゾンにおすすめしてもらおうかなー。
またお便りしてくださいね!
それではまた来週。