第38回 『スクラップ・アンド・ビルド』 羽田圭介著
こんばんは、JUNBUN太郎です!
今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
ラジオネーム、次郎さん。
JUNBUN太郎さん、こんばんは。
私には妻と3歳の娘がいまして、仕事では最近プロジェクトリーダーを任されるようになり、まずまず幸せと言っていい暮らしを送っています。
先日、出張があって、新幹線に乗る前、弁当と一緒に売店で文庫本を買いました。活字をふと読みたくなったのです。
どれにしようかと考えていると、裏表紙の内容紹介欄に「新しい家族小説」とあるのに惹かれて決めました。
『スクラップ・アンド・ビルド』という小説です。
車内でさっそく読み進めてみると、どうやら、主人公はたまたま年齢が私と同じ28歳の健斗という男。彼は独身で失業中らしく、実家に居候し、そこには母と介護を必要とする祖父が暮らしているようです。
年齢以外、自分とはかけはなれたシチュエーションだなあ、なんて思いながらも、わたしはそのまま読み進めました──
高齢の祖父を在宅看護する青年の悪戦苦闘を切実さとユーモアで綴った『スクラップ・アンド・ビルド』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!
読んでて笑いが止まらないんです。
「死にたい」と口癖のようにこぼす祖父の言葉を真に受けて、健斗は過剰なまでの手厚い介護をするんですよ。そうすることで祖父の脳や筋肉を衰えさえ、望み通り尊厳死を叶えてやろうっていう。
そのいちいちの彼の見当違いな行動に、吹き出し笑いっていうか、失笑? がどうにも止まらない。健斗って、やばいくらい天然なやつだなあーって思いながら読んでたんですけど、物語のラスト、再就職を決めて実家を出ていく彼は、あることに気がつく。その時に、私ははっとさせられました。
人間って、老いも若きも、一人では生きていけない、孤独でいて、弱い生き物なんですよね。ひとつ屋根に暮らす家族だからって、互いにぜんぶ理解し合えるわけじゃない。何をしてやることが正解かなんてわからない。それは社会もきっと同じこと。わからないなりに、だからこそ全力で格闘していくしかない。
そう思い至った時、さっきまで、正直ちょっと小馬鹿にしてた天然くん健斗の、その超がつくほどの生真面目さや愚直さが、どこかうらやましく思えたんです。
「ああ、死にたい」
出張から帰宅した夜、妻の前でこぼしてみると、
「え、どうしたの? なにかあったの? 大丈夫? そんなこと言わないで。悩みがあるならあたしに話して」
彼女は心配そうに、私の顔を覗き込んできます。
「普通はそういうリアクションだよなあ」
「え、どういうこと?」
「ごめん、冗談だよ」
「もう! やめてよー。びっくりするじゃないのー」
妻は心底ほっとしたような顔をさせて、笑いました。
この小説を読んで以来、なにか予期せぬ事態に直面すると、考えることがあるんです。
これ、健斗だったら、どう解釈して、どう対処するんだろう?
そこで頭に浮かぶ健斗がやるだろう対処法は、生真面目さゆえにぶっ飛んでて、いつも吹き出しそうになります。それをそのまま実行に移すことは滅多にありません。というか、まだ一度もありません。でもそうやって想像力を働かせてみることで、世間の道理とか、常識とか、普通とか、そういう尺度ではなく、もっと自分らしく物事に対してきちんと格闘できるような気がして、どんな状況でも不思議と前向きでいられるんです。
ちょっとした変化だけれど、この本を読めてよかったです!
次郎さん、ありがとうございます!
この作品は、ぼくも読みながら笑ってしまいましたが、そうしたユーモアに包まれながらも、現代における「家族像」を鮮やかに浮かび上がらせる、まさに新しい家族小説だと思います。
読書って、今回の次郎さんのように、まったく異なるタイプの主人公の人生を疑似体験できるっていうのも、魅力のひとつですよね。そして、そのキャラクターを、読んだ後も自分の人生の引き出しにしまっておくことができる。ふふふ、読書っていいですね。
次郎さん、どうぞご家族といつまでもお幸せにー。
それではまた来週。