第57回 『スーパーラヴドゥーイット』 鴻池留衣著
こんばんは、JUNBUN太郎です!
今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
ラジオネーム、ピー助さん。
JUNBUN太郎さん、こんばんはー。
俺は、彼女いない歴25年のピッチピチ25歳です笑
職場に気になる女子がいるんですけど、奥手なもので業務以外で声をかけられません。彼女を誘って一緒にランチしてるっていうシチュエーションを勝手に妄想しながら、自席でひとりコンビニ飯を食ってるっていう……俺ちょっと、てか完全にヤバいひとですよね…笑
あーせめて夢の中で彼女とデートできたらいいのになーなんて思うんですけど、体質なのか、睡眠中に夢を見たことなんかなく、寝入って目覚めたらもう朝っていう、なんとも残念な日々……。
そんな俺は、最近ある小説を読みました。
『スーパーラヴドゥーイット』って作品、太郎さんは知ってますか?
この作品は、大吾郎っていう主人公の男が、アルバイト先の居酒屋でクレーマー客への対応を同僚から頼まれるところから始まります。
大吾郎は、オレの出番だとばかりに颯爽と客の元へと向かうと、謝るどころか、まさか、ぶん殴って殺してしまう。しかも死体処理にどうも手慣れた様子。大吾郎って、もしや猟奇的殺人鬼? え、これって、バイオレンス小説?
戸惑いながら読んでいくと、なるほど、どうやら、ここは大吾郎の夢の中。夢の中だから、なんでもあり。大吾郎は思いのまま自由に行動してるってことか。
読み進めるうち、その職場の同僚である、川口番子という女性に、大吾郎が好意を寄せているらしいことがだんだんとわかってきます。
これは、まさかの夢中恋愛小説?!
夢の中だったら、好きな女の子と何だってありってことだよな……ムフフな展開を期待しながら、その先を読み進めていくと、な、な、なんと、ビンタされるのにも似た衝撃の展開が待っているのでした──
自ら創造した理想の女性と結ばれるために、決死で眠りに落ちた男の夢中冒険小説『スーパーラヴドゥーイット』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!
大吾郎は、学生の頃から夢想していた理想の彼女「川口番子」を形にするべく漫画家を志すも、番子の人物造形についてしつこく口を挟んでくる担当編集者の斎藤と折り合いがつかない。そこで、大吾郎は、夢の中で番子に生命を吹き込み、一緒に結ばれようとするんです。
あーわかるわかるー。
きっと大吾郎も中高時代、彼女いなかったんでしょうね。俺にも架空の彼女がいました。その彼女が完璧なもんだから、現実世界の女子たちがますますかすんで見えちゃって、それからは非モテ街道まっしぐら、みたいな笑
でも、大吾郎のスゴいところは、高校の卒業文集の中で、川口番子をいずれ世界に実在させると宣言しちゃうところ。そして、実際に、漫画の腕を磨いて、編集者の斎藤に見初められる。けれども、読者にとって魅力的なヒロイン像へと改変するよう強く要求してくる斎藤に辟易して、大吾郎は夢の中へと旅立つ。なんて切ないストーリーなんだ……。
物語は、けれども、大吾郎の思うようには進みません。
なんと、担当編集者の斎藤が、夢の中にまでやってきて、大吾郎を目覚めさせようとあれこれ画策する。そして、世界の主役になることを夢見る女優の卵である川口番子にも、斎藤は演技指導者として、あれこれ口を挟んで翻弄する。
そして、そんな斎藤の執拗な介入をどうにかかわした末、物語の最後、とうとう川口番子と結ばれようかというところで、大吾郎は予想だにしない結末に出くわす──。
その結末を読んだ時、俺は衝撃のあまり、大吾郎と同期して(コスプレして?)「んんん」って叫んでました!
すべてを自分の思い通りにコントロールできる世界なんて、ないんですよね。たとえ、それが夢であったとしても……。それを痛いくらいに思い知らされました。
大吾郎にとって、番子ちゃんは理想の女神だけれど、番子ちゃんからしてみれば、勝手に個人的な理想像をおしつけられ作られた挙句に、担当編集者には読者をもっと喜ばせるようなキャラクターに改変させられそうになって、物語の主役なのに主導権を握れないまま終始踊らされている──そんな状況に対する番子ちゃんの溜まりに溜まった不満や怒りが、報いとして大吾郎に返ってきたってことなんでしょう。
いまになって、番子ちゃんが物語の終盤につぶやいた悟りの言葉がチクリと思い出されます。
「そうか。私のやること全ては、作者が決めてるんだ。だから、私に自由意思はないけど、ないからこそ、私の行動は全部正しいんだ」(作中より引用)
そういえば、夢の中の登場人物って、夢を見ている本人の思いではなく、夢に出てきた人物の思いによって決まるって、言いますよね。
番子ちゃんは、夢の中で大吾郎にコントロールされていたのではなく、はじめから、番子ちゃん自身の強い思いで登場したのかもしれません。
だとすると、番子ちゃんの大吾郎に対するラストの強烈な仕打ちは、大吾郎さえも予想しなかった行為であり、彼女のリアル。皮肉にも、それが、大吾郎がずっと願っていた、番子ちゃんに生命が吹き込まれる瞬間だったのかもしれない。そう考えると、大吾郎は、そんな生々しい番子ちゃんと最後の最後に出会えて、幸せだったのかもしれないなー、なんて。
──でも、やっぱり、恋愛はリアルに限りますね笑
なんか、この小説を読んだことで、作者の意図とはぜんぜん違うと思うのですが、勝手に勇気付けられちゃって、俺の職場で気になっている例の彼女についに声をかけることができたんです! まだランチを一緒にするだけですけど……やっぱりリアル女子最高です!笑
大吾郎、番子ちゃん、ありがとう!!
ピー助さん、ありがとうございます!
ぼくもこの作品、読みましたよー。
小説で夢っていうと、あんなこんなが実はすべて夢だったっていう「夢オチ」が定番という感じがあると思いますが、この作品は、全編夢。これは夢ですが、何か? っていう強気の姿勢で、虚実の壁をぶち壊し、読者をぐいぐい引っ張っていく作者の破壊力にすっかりぼくもやられちゃいました。
この作者は、芥川賞にもノミネートされたことのある、いま注目の新人作家のおひとりですよね。新作、楽しみです♪
ピー助さん、職場の彼女とうまくいくといいですね。応援してます!
それではまた来週。