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Nobuyuki’s Book Review No.5 ガブリエル・ゼヴィン『書店主フィクリーのものがたり』小尾芙佐訳(ハヤカワepi文庫)

 島にある一軒だけの本屋〈アイランド・ブックス〉店主A.J.フィクリーは妻を亡くした悲しみの淵に沈み、酒浸りの日々を送っていた。売り込みに来た出版社の女性もぞんざいな態度をもって追い払ってしまう。彼女はなにも悪くないのに。そんな、ある夜のこと。例のごとく酔い潰れて寝ている間に、莫大な価値のあるE.A.ポーの稀覯本を盗まれてしまう。A.Jは警察に届ける以外に為す術もなく打ちひしがれる。そして、今度は自分の書店に赤ん坊をが捨てられているのを発見する。マヤという、その愛くるしい女の子を、A.Jは男手ひとつで育てていく決心をするのだった。
 よかった。この一言に尽きる。ひとりでも多くの本好きに読んでもらいたい。二〇一四年に発表された本書は、数ヶ月にわたり〈ニューヨーク・タイムズ〉のベストセラーリストにランクインし、三十以上の言語に翻訳されるなど世界中で愛読されている。日本でも二〇一六年の本屋大賞を受賞している。
 各章の題名代わりに小説のタイトルと店主・A.J.フィクリーのコメントが付されているという造りが本好きにとっては堪らない。物語の至るところに、本に関する知識が散りばめられており、それを発見したときの嬉しさはこの上ない。主人公A.J.フィクリーはもちろん、娘のマヤ、営業担当の女性アメリア、馴染みの警官ランビアーズなど登場人物がそれぞれ実に魅力的に描かれている。様々な悲劇が主人公たちにふりかかるが、物語はけっして重苦しく進むことはなく、つねにユーモアがあり明るさを忘れない。本好きの人すべてに自信を持って薦めたい。まさに本屋大賞にふさわしい一冊だ。
 ターキッシュ・ディライトのくだりは嬉しかった。
 

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