重い履歴書は評価が高い
物理的に重い対象には高い評価を下すという趣旨の論文があったのでメモ(1)。
私たちは印象形成や意思決定が認知処理をする人物が身を置く環境からの影響を受けることが知られています。具体的な例を挙げると以下のようなものがあります。
・人物の評価を行う前に暖かいコーヒーを持つと,人間的に温かみのある人物だと評価される(2)
・赤い表紙の用紙でテストを受けると,点数が低くなる(3)
・手を洗うと罪の意識が軽くなる(4)
・手を動かしながら考えると独創的なアイデアが出る(5)
このように「罪を洗い流す」のような比喩表現として見られることからも身体と精神の間にはさまざまな感覚情報が存在する状況を円滑に処理するために無意識の結びつきが存在します。
今回紹介する論文は特定の対象を重要視する際に「重きを置く」という表現があることから物理的に重たいものに対しては評価を高くつけるのかを実験的に検討しています。
2010年にマサチューセッツ工科大学のジョシュア・アッカーマンらが評価対象の物理的な重さを変えることで評価が変わるのかについて調べるために実験を行いました。
対象となったのは大学内を歩いていた通行人54名でした。
実験参加者はランダムに2つのグループに分けられ,ある人物の履歴書を見て,人物の印象を評価してもらいました。その2つのグループには以下のような差がありました。
<グループ1>
重いクリップボードの上で履歴書を評価する
<グループ2>
軽いクリップボードの上で履歴書を評価する
このようにグループ間で人物を評価するときにクリップボードの重さに違いを設け,人物の評価に差が生じるのかを分析しました。
実験の結果,重いクリップボードで履歴書を評価した場合には軽いクリップボードで履歴書を評価した場合よりも評価した人物を高く評価した。しかし,評価した人物を同僚として上手くやっていけるかどうかに関しては2つのパターンには差がなかった。
この論文では他にも触覚的な情報が全く無関連の認知的な評価に影響を与えるかが検討されており,以下のような結果が得られています。
・重いクリップボードで社会問題に考えると,多くのお金をその問題に対して寄付をする
・硬い椅子に座ると,自分の意見を固持するetc.
過去の研究で重さの体験は深刻さや重要性の概念との結びつきがあることが分かっています(6)。今回の実験で確認された現象は人物や対象の評価の前に与えられた触覚の情報が事前の情報になり,社会的な評価に影響を与えたものと考えられます。
(1)Ackerman, J., et al. (2010). Incidental haptic sensations influence social judgements and decisions, Science, 5986, 1712-1715.
(2)Williams, L., et al. (2008). Experiencing physical warmth promotes interpersonal warmth. Science, 5901, 606-607.
(3)Elliot, A, E., et al. (2007). Color and Psychological Functioning: The Effect of Red on Performance Attainment. Journal of Experimental Psychology, 1, 154-168.
(4)Kaspar, K. (2013). Washing One’s Hands After Failure Enhances Optimism but Hampers Future Performance. Social Psychological and Personality Science, 4, 69 - 73.
(5)Kirk, E., & Lewis, C. (2017). Gesture Facilitates Children's Creative Thinking. Psychological science, 28(2), 225–232.
(6)Jostmann, N. B., Lakens, D., & Schubert, T. W. (2009). Weight as an embodiment of importance. Psychological Science, 20(9), 1169–1174.
■赤を身につけるとなぜもてるのか?/タルマ ローベル (著), Thalma Lobel (原著), 池村 千秋 (翻訳)
■PRE-SUASION :影響力と説得のための革命的瞬間/ロバート・チャルディーニ (著), 安藤 清志 (翻訳), 曽根 寛樹 (翻訳)
■その科学があなたを変える/リチャード ワイズマン (著), Richard Wiseman (原著), 木村 博江 (翻訳)
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