
「手に汗握るシーン」の描き方を学ぼう!!|『見知らぬ乗客』に学ぶテクニック
名作映画を研究して、創作に活かそう!
本記事では、「見知らぬ乗客」に【「手に汗握るシーン」の描き方】を学びます。
※「見知らぬ乗客」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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テーマ発表!!
本記事では、「ガイが、ブルーノの屋敷に潜入するシーン」を詳しく分析します。
<ざっくりキャラ紹介>
▶ ガイ:20代半ば頃の男性。テニスプレイヤー。
▶ ブルーノ:ガイより少し年上(30歳頃?)の男性。富豪の子息。じつは精神異常者。
<あらすじ紹介>
・ある日、ガイとブルーノが偶然出会う。
・ブルーノは「交換殺人」(ブルーノは「ガイの妻」を殺害/ガイは「ブルーノの父」を殺害)を持ちかける。
・ガイは冗談だろうと考え、相手にしない。しかしブルーノは、早々にガイの妻を殺してしまう。ガイはショックを受ける。
・ブルーノが言う「次はきみの番だぞ」。ガイは拒否する。しかしブルーノは、何度も何度もガイの前に現れ、「早く父を殺してくれ」と催促。
・さらに、警察はガイを疑う(ガイには妻を殺す動機があり、かつアリバイがない)。
・ガイは頭を抱える「一体どうすればいいんだ!」。
シーン①
ある夜、ガイはブルーノに電話をかけました「腹をくくったよ。今夜けりをつける。きみは外出して、どこかでアリバイを作っておくんだ」。
ガイは思い詰めた顔をしています。
ガイは、「これで父を殺してくれ」とブルーノから託された拳銃を手に取る。そして警察の目を欺くべく、裏口から家を出ました(刑事2人が、24時間体制でガイを見張っているのです)。
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多くの鑑賞者は、この場面を食い入るように見つめることでしょう。
というのも……ガイは「異常者(ブルーノ)に振り回される『哀れな善人』」です。多くの鑑賞者は彼に同情心を抱き、「どうにか窮地を乗り越えられるといいのだが」と気を揉んでいる。
そんな彼が、です。いままさに、行ってはならぬ道に踏み入ろうとしている!
ゆえに鑑賞者は、「ガイは、ブルーノの父を本当に殺すつもりなのか!?」「まずいよ、ガイ……殺しちゃダメだ!」とドキドキしながら、ガイの一挙手一投足を見つめるという次第です。
シーン②
続きを見てみましょう。
ガイが、ブルーノの屋敷に到着。ブルーノから預かっていた鍵を使い、そっと侵入しました。
続いて、これまたブルーノから渡されていたメモを開く。メモによると、ブルーノの父の寝室は2階の奥の部屋です。
ガイは、階段に向かってゆっくりと近づいていく。
とその時、カメラが先回りして踊り場を映した。そこには、おお、犬がいる!しかも大型犬。番犬でしょうか。
ところが、ガイはまだ犬に気づいていない……!
多くの鑑賞者はドキッとするでしょう。これはまずいぞ!「まさか、犬が吠え、ガイは逮捕されてしまうなんて展開か!?」「あるいは、犬がガイに噛みつくとか!?」。
……嫌な予感する。
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要するにこれは、「鑑賞者だけが『迫りくる危機(犬)』に気づいている」という状態です。
こうしたシチュエーションを、カール・イグレシアス(Karl Iglesias/アメリカの脚本家、脚本研究家)は「ドラマチックなアイロニー(Dramatic Irony)」と呼びました。
このテクニックは、キャラクターが知らない情報を知らせることで観客を「優位」に立たせるという技だ。観客や脚本の読者だけに、そっと耳打ちするようなものだ。
キャラクターが知らない情報を明かされた読者は、キャラクターの身に何が起こるか(または起こらないか)を知ることになる。だから、そのキャタクターが間違った判断を下すのではないかと、やきもきするわけだ。
※カール・イグレシアス「『感情』から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方」(フィルムアート社)より引用
イグレシアスの指摘通り、私たち鑑賞者は「嗚呼、ガイよ。早く気づいて!危機が迫っているよ!」とやきもきさせられるのです。
シーン③
やがてガイは階段に到着。さぁ、2階へ向かおうというところで犬が唸り声を上げる。
ガイが犬に気づき、ハッとした表情を浮かべます。彼は1段1段慎重に階段を進み、犬に近づいていく。
さぁ、一体どうなることか……と思いきや、あれ。あれれ。ガイが手を差し出すと、犬はそれをぺろぺろと舐め始めた。人懐っこい犬なのか、あるいはガイが犬に好かれる性質なのかわかりませんが、いずれにせよ危機は去ったようです。
鑑賞者は胸を撫で下ろす。
シーン④
しかし、心臓バクバクのドキドキシーンはまだ終わりません。
ガイは犬の脇を通り過ぎ、2階へ。そしてついに、ブルーノの父が眠る寝室のドアの前に立ちました。
ガイは、ジャケットの内ポケットから拳銃を取り出す。そしてチラリと見つめ、再びポケットにしまう。
何気ない動作です。しかし、鑑賞者の緊張はより一層高まります「本当に……本当にガイは、ブルーノの父を殺す気なのか!?」。
ガイはゆっくりとドアを開け、寝室に入る。
いよいよ佳境です。彼はベッドに近づいていく。そして声をかけた「アンソニーさん」。ベッドの上の人物がもぞもぞと動く。
※アンソニー:ブルーノの苗字。
鑑賞者は思うでしょう「あれ。これから殺そうという相手に、なぜ声をかけたんだ?もしかするとガイは……」。
ガイが続けた「アンソニーさん、突然すみません。ご子息のことでお話しが。ブルーノのことです」。
ここに至って鑑賞者は膝を打つでしょう「やっぱりそうだ!ガイは、ブルーノの父を殺そうだなんて考えていなかったんだ!」「ブルーノの父に相談を持ちかけようというわけだな」「あー、よかった!」。
鑑賞者はホッとする。
と、次の瞬間です。ベッドの上の人物が、照明のスイッチを入れた。辺りが明るくなる。
……鑑賞者は呆気にとられるでしょう。なぜならば、そう。ベッドの上にいたのはブルーノだったのです!
ガイの顔も緊張でこわばります。
鑑賞者は頭を抱える「ブルーノに企みがバレてしまった!」「まずいぞ……これはじつにまずい。ブルーノは狂人だ。何をされるかわからない!」。
ブルーノが言う「今夜、父は留守でね。さっきの電話で言おうかと思ったのだが、急にきみが態度を変えただろ。疑問を持ったわけさ」。
ガイはここに来て腹が座った様子。堂々と言い返します「きみの父上に直接会って、きみがいかに異常か教えようと思ったのさ」。
ブルーノは嘆息する「ということは、きみは、計画を実行する気がないということだね?」。
ガイ「まったくないね!最初からそんな気はない」。
ブルーノ「……なるほど」。
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この後、物語はいよいよクライマックスに向けて突き進んでいくわけですが……それはさておいて。
以上のシーンを整理してみましょう、
▶ ①寝室の前で拳銃を見つめる:鑑賞者は「ガイは、やはりブルーノの父を殺す気なのだろうか?」と考え、ドキドキする。
▶ ②ベッドの上の人物に声をかける:鑑賞者は「よかった!ガイは、殺そうだなんて考えていなかったんだ!」と考え、安堵する。
▶ ③ベッドの上の人物がブルーノだと判明する:鑑賞者は「まずい!企みがバレてしまった!」と考え、ハラハラする。
要するに、「【②】で一度安堵させることで、【③】の衝撃をより大きくする」というテクニックが使われているのです。
まとめ
以上、「ガイが、ブルーノの屋敷に潜入するシーン」(約5分間)について、詳しくご説明してきました。
たった5分の間に、これだけ「感情」を揺さぶられるわけですからね。そりゃ鑑賞者は、手に汗握って画面を見つめることになるでしょう!
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)
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