小紅が自分の恋心を自覚するまでのすべて ~「気持ちの変遷」と「変化のきっかけ」|『未確認で進行形』(8)
本記事は、アニメ「未確認で進行形」を徹底分析する特集の……第8回である★
第1回からご覧になることをオススメします!
今回のテーマ!
ここまで、主役・小紅(第2回、第3回、第4回、第5回)と、小紅の許嫁・白夜(第6回、第7回)の「人となり」を詳しくご紹介してきた。
そして今回注目するのは……「小紅と白夜の恋愛感情の変遷」である!
※左:小紅。右:白夜。
「小紅の恋心」はどのように変化したか?
最初に、「小紅と白夜の恋愛感情の変遷」を整理した以下の図をご覧いただきたい。
まず、白夜の気持ちに注目すると……そう!
最初から最後まで「ラブ♥」である。
白夜は幼い頃から「小紅がお前の許嫁だ」と言い聞かされて育ってきたのだから、これは当然のことと言えるだろう。
問題は、一方の小紅である。
彼女は16歳の誕生日(第1話冒頭)を迎えるまで、自分に許嫁がいることはもちろん、白夜の存在すら知らなかった(厳密には、記憶喪失で忘れていた)。
だから彼女の気持ちは「困惑」から始まり、変化していく。
この意味で「未確認で進行形」は、「ある日突然登場した許嫁・白夜に困惑していた小紅が、次第にその存在を受け入れ、そしてふとしたきっかけから『気がつけば、自分が白夜に対して特別な感情を抱くようになっていたこと』を自覚するようになる」……といった「小紅の気持ちの変化」を描いた物語なのだ。
本記事では、この「変化」を詳しくご説明する。
そして前掲の図の通り、この「変化」は大きく4つのフェーズに整理できると思うのだ。
【フェーズ①】困惑
上述の通り……そもそも小紅は、自分に許嫁がいることはもちろん、白夜の存在すらも知らなかった。
ところが第1話の冒頭、16歳の誕生日に突如白夜が登場し、今日から同居することになったと聞かされる。
「未確認で進行形」という物語はこうして幕を開けるのだが、何しろすべてが突然のことである。
小紅が困惑するのも当然だろう。
この「困惑の期間」が、「フェーズ①」だ。
ただし「フェーズ①」に該当するのは第1話の前半だけで、すぐに「フェーズ②」に移行する。
小紅が困惑するのは、ごく短期間だけのことなのだ。
※左:当惑する小紅。
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さて。
ここで1つ考えてみたいことがある。
「フェーズ①」は一体なぜこんなに短いのか、ということだ。
そもそも小紅は人と親しく付き合うのが苦手なキャラだったはずだ(詳しくは第2回)。
彼女の性格を考えると、白夜を受け入れられるようになるまで、もっともっと時間がかかりそうなものだが……。
私見では、小紅が早々と白夜を受け入れられた理由は、大別して3つに集約できると思う。
以下、ざっくりご紹介しよう。
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まずは大前提として、小紅は「人がいい」。
例えば、第1話の序盤にこんなシーンがある。
上述の通り……16歳の誕生日に、「あなたには許嫁がいる。今日からこの家で同居することになった」と知らされた小紅。
彼女は呆気にとられ、「とにかく!わたしは嫌ですから!!」と部屋を飛び出してしまう。
……が!
小紅はすぐに冷静になって、「嫌ですから」という自身の言葉が失礼だったのではないかと反省する。
小紅「向こうだって勝手に決められたんだろうし……失礼だったかな」
……つまり、である。
小紅はどれほど呆気にとられ困惑しようとも、目の前の人に向かって「出ていけ」なんて言えるタイプではないのだ。
彼女はいろいろ思うところがあったとしても、「まぁ、仕方ないよね」、「この人だって○○だから」なんて具合に現実を受け入れるキャラだ。
つまり、「人がいい」。
ただし!
夢や理想を実現するためには、人は時には現実を否定して戦わねばならぬ時がある……が、小紅にはそれはできそうにない。
すなわち彼女は、悪く言えば「状況に流されやすい」、「自分がない」のだ。
さらに下世話な表現をするならば、彼女は「土下座すれば○○してくれそう」というタイプのキャラだ(○○には「セックスさせてくれそう」、「付き合ってくれそう」などの言葉が入る)。
そんな「人がいい = 状況に流されやすい小紅」である。
彼女が、「許嫁の白夜が今日から同居する」という「既に始まってしまった現実」をいつまでも否定できるとは思えない。
あっという間に、「うーん……まぁ、仕方がないか」と受け入れるのが小紅というキャラだろう。
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これに加えて、「母や紅緒の影響」も大きいと思われる。
物語冒頭に突然登場した白夜。
そんな彼に困惑する小紅を尻目に、母や紅緒は冷静だった。
彼女らは小紅とは違って、元々白夜のことを知っていたのだ。
そして……小紅は母や紅緒を尊敬し、憧れを抱いている(詳しくは第2回)。
そんな彼女らが「白夜は小紅の許嫁で、今日から同居する」ということを認めているのだ。
「うーん……まぁ、母様や姉様がそういうなら……」と受け入れるのが小紅というキャラだろう。
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さらに、である。
上記に加えて、「白夜の積極的なアプローチ」も影響していると思われる。
本記事冒頭で申し上げた通り、白夜の気持ちは終始一貫している。
そして彼は、その好意をストレートに伝えてくる(詳しくは第6回)。
状況に流されやすい小紅が、自分に好意を持つ相手を邪険に扱うことができるだろうか?……できるわけがないのだ!
こうして小紅の「困惑」は早々に終わりを告げ、物語は「フェース②」に突入する。
※補足:「小紅が白夜を早々に受け入れた理由」として、もう1つ、まったく別の可能性も考えられる。すなわち……白夜、もしくは真白が、彼らの持つ特殊能力(作中では「三峰の力」と呼ばれている)を使って小紅の気持ちを操った可能性だ。いわゆる「信頼できない語り手」の問題が出てくるため、この可能性を論理的に棄却するのは相当難しいように思う。ただし本記事では、①「白夜や真白の人柄(誠実、そして粗忽)を考えると、彼らが人の恋心をコントロールするようには思えない」、②「どうせコントロールするなら、一気に『ラブ♥』にまでもっていくのが効率的である。ところが上述の通り、小紅の気持ちは段階的に変化していく。したがって、能力を使っているとは考えづらい」という理由から、この可能性は低いものと判断し、本文では言及しないこととした。
【フェーズ②】恋愛経験の不足によるドキドキ/自分を認めてくれることが嬉しい
続いて、「フェーズ②」!
該当するのは、第1話後半~第5話前半だ。
ところで、第2回で詳しくご紹介した通り……小紅は、自己評価が低く、自分に自信を持てないでいる。
そして、人と親密な関係を築くのが苦手で、他人との間に壁を作ってしまう傾向がある。
そんな小紅に対して……白夜はグイグイ攻めてくる!
何しろ、彼は言動がストレートなのだ(詳しくは第6回)。
例えば、こんなエピソードがある(第5話)。
3学期の中間テスト前。
小紅、白夜、真白が話している。
小紅「私も頑張らないと!成績悪いと、姉様にも恥かかせちゃうし!」
真白「……なぜそこに紅緒が出てくるんですか?」
小紅「それはそうだろ。姉様は学校じゃ有名だし、その妹の出来が悪かったんじゃ姉様に迷惑かけることになる」
それまで黙って話を聞いていた白夜が口を開く「その……」
小紅、真白「ん?」
白夜「その……『迷惑をかける』とかそういう……そういうのはなんと言うか……」
小紅「えっ……何?」
白夜がふいに小紅の頭を撫でる。
真白「はぁ……」
小紅は仰天して「えっ!なっ、何ぃ!?」
真白が解説する「すみません。上手く言葉にできないと行動に起こすことが……」
小紅「もぉ!何なんだぁ!」
……これである。
「未確認で進行形」では、こうした「白夜のストレートな言動に小紅が動揺するシーン」が繰り返し描かれるのだが……白夜が言わんとしていることはいつも同じだ。
要するに彼は、「小紅は小紅のままでいい」、「紅緒や母と比べて自分を卑下することはない」と言っているのだ。
おそらくは恋愛経験皆無で、そして長年自身を卑下し続けてきた小紅。
彼女の立場から考えてみよう。
彼女にとっては、白夜の言動は……ドキドキ恥ずかしくてどうしていいのかわからぬが、同時に随分と嬉しいことだろう!
こうして、小紅の気持ちは徐々に盛り上がっていく。
【フェーズ③】各種イベントを通じて、自分の気持ちを自覚していく
多くの場合、人は何かしらのイベント(出来事)を通じて自分の本心に気づくものだ。
親を亡くして初めてそのありがたみに気づいたり、大病を患って健康の大切さを思い知ったり……。
そして「フェーズ③」!
これは、いくつかのイベントをきっかけとして、小紅が自分の恋心を自覚していく期間である。
つまり、「小紅の恋心」は「フェーズ②」ですでに育まれており、それに気づくがこの「フェーズ③」ということだ。
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さてここからは、「小紅が恋心を自覚するのに貢献したイベント」の内、「特に大きな影響があったと思われる3つ」をご紹介しよう。
【1】白夜が自分の「命の恩人」であることを知る
まずは、「白夜が自分の『命の恩人』であることを知る」。
第5話の後半、物語が大きく動き出す。
白夜と真白の母(白雪)が登場し、「幼い頃、小紅が事故で重傷を負った」、「その時、白夜が力を分け与えて小紅を救った」、「そう……白夜らは人にあらざる『もののけ』である」といったことを説明する。
小紅はショックを受ける。
そして……「命の恩人 = ラブ」ということはないだろうが、思春期まっただ中の少女が「命の恩人」という言葉に運命を感じたり、それまでとは違った目で見るようになったりするのは、当然のことに思える。
【2】バレンタインデー
続いては、バレンタインデー!
少女マンガのド定番である。
すなわち……友人らから「○○くんにチョコをあげるんでしょ?」と訊かれてドキドキ。
チョコを作りながら、「あいつ、喜んでくれるかな……」と思いを馳せてドキドキ。
ラッピングしながら、「これは義理チョコだから……そう!義理チョコよ!」と自分に言い聞かせてドキドキ。
そして最後に、チョコをもらった相手が大喜びしている姿を見て、「よかった。喜んでくれた!」と頬を染める……という具合だ。
少女マンガ好きの方なら、1度や2度は……というか100回や200回は見たことがあるシーンだと思う。
「未確認で進行形」でも、ここまで露骨ではないにしても、似たようなエピソードが展開される。
【3】ライバルキャラの登場
そしてダメ押しが……ライバルキャラの登場だ!
これまた、少女マンガのあるあるネタである。
小紅のライバルとして登場したのは、末続このは。
彼女は厳密にはライバルではないのだが(詳細はこのはを分析する別記事で)、「機能」面ではライバルと言える。
「機能」というのは、「そのキャラが作中で果たす役割」のことだ。
そして、「少女マンガにおける『ヒロインのライバルキャラ』の『役割』」とはすなわち……ヒロインの感情を揺さぶり、その恋心を自覚させることである。
「未確認で進行形」では、以下のようなエピソードが展開された。
【フェーズ④】自分の気持ちを完全に自覚している
いよいよ最後のフェーズである。
該当するのは第10~12話。
「『付き合ってください』 → 『はい』」なんてやりとりがあったわけではないが(というか、ずっと前から許嫁なのでいまさら告白だの何だというのも変な話なのだが……)、小紅がおそろいのハンカチをプレゼントしたり、2人(+真白)でデートに出かけたり……ここでは、初々しいカップル然とした小紅と白夜が描かれる。
まさに「両想いのカップル」だ。
※小紅と白夜。なお、作中には手をつなぐシーンは登場しないが、「こんな2人が見られる日もそう遠くはだろう」といった仲のよさが描かれている。
以上、「小紅の恋心の変遷」と「変化のきっかけ」をご説明した。
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)